—序章 real I—
「はぁ・・・」
桜の咲き始めた季節、俺は一人で駅から家への帰路をとぼとぼと歩いていた。
「っは!どうせあいつらは大学へ行ったら勉強もせずに遊んで落ちぶれていくんだ。」
なぜ俺がため息をつき、悪態をつきながら歩いているかというと今から1時間ほど前のことだ―――
『一緒に受かってよかったね。』
『これからもズッ友だよ!』
『おっしゃーー!!』
『やったな。同じサークル入ろうぜ!』
「・・・マジかよ・・・」
周りが5桁の番号が書かれた小さな紙を握りしめながら、一緒に勉学に励んだのであろう友人たちと喜び合ったり、これから近い未来の相談をし合ったりしている。
そんな中、俺は一人、その5桁の番号が書かれた紙を右手の拳で握りつぶしていた。
―――まぁ、そのなんだ、大学受験に失敗したわけだ。
一回の失敗で何くよくよしてんだよ?そんなんじゃ社会に出てから大変だぞって思ったお前、12の大学を受験して全て不合格になり、たった1時間前に浪人が確定した俺にそんな冷たい言葉をくれるのか?ありがとよ。お前は良い奴だな、糞ったれ。
自分で言うのもなんだが頭はそれなりにいい方だと思っている。高校では学年で成績上位にいたし、内申点もよかった。
だが、落ちた。
俺もなぜ落ちたのか分からねぇ。名前を書き忘れたのか、はたや、解答欄がずれていたのか・・・。
先ほど不合格が決まった大学にいたっては滑り止めとして偏差値をかなり下げたところを受験したんだがな。
結局のところ、頭がよかろうが悪かろうが、合格しなかったら何の意味もない。今から就活などできるわけもなく、俺は浪人が確定した。世の中の同胞諸君には申し訳ないがいわゆるニート予備軍みたいなものだ。
そんなこんなで4月から浪人生活が確定した俺はこれから来年の受験に向けて勉強しなくてはいけないわけだ。
高校の授業は半ば強制で勉強させられていたから勉学に励む環境を整えなくてもよかった。
しかも幸いなことに俺には高校に友達がいなかったから学校にいる間は課題や、ノート整理等の予習復習で休み時間をつぶしていたこともあり、成績が良かったのだ。——おい、そんな目で見るな。
ところが、浪人生はそうは問屋が卸さない。浪人することになったら自ら勉強する環境を整えないといけない。
正味、勉強は出来ると言ったが好きではない。家にいる時に勉強をしたためしがないし、ましては通学用のカバンの中は弁当ぐらいしか入れたことがない。教科書類は全部高校の机とロッカーの中だ。そんな俺が浪人生活に突入してから勉学に勤しむ姿が全く想像つかない。
世の中の人間そんなもんだろ。勉強大好き♥とか言っているやつとは友達になれる気がしねぇ。
どうせならバイトでもして金貯めて遊んで、そんで受験シーズンになったら受かりそうな大学受けて・・・
「ぅううう。さむっ。」
桜が咲き始めた季節だが、まだまだ寒い。息を吐くと吐いた息が白くなるくらいにはまだ寒い。
周りを見ると最後の文字だけ小文字のアルファベットになっている24時間営業の店の前に『肉まん』と書かれたのぼりが見えた。
「コンビニでも寄るか。」