—序章 another—
王城ウィン・バルテール城の玉座の間は常に城の主である国王に献上物を送りに来た商人や政を行う貴族達の謁見で賑やかであるが、今この時は玉座に座る男性と執事の恰好をした初老の男性の二人しかおらず、王座の間に二人の声が静かに響いた。
「我が国の財政がそんなこととなっているとは・・・」
「左様で御座います。国王様、このままでは残り数年で国の財産は底をつくと財政官から報告を承っています。」
「アドルフ!なぜ窮地に立たされる前に報告しなかった!」
玉座に座る身形が立派な金髪の男性は城の主であるルイージ・ウィン・アステリア・バルテール国王であり、
「国王様、私は何度も具申致しましたことをお忘れですか。」
執事服を着た白髪交じりの初老の男性、国王直属の執事アドルフとペネステーレ王国の財政難について話し合っていた。
「あぁ、そうだったな。だが、我はお前にこの財政難を打開する政策を考え、実行しろと命じたはずだ。」
「国王様。お言葉ですが、財政難に対する政策を実行し、効果は出始めています。しかし、・・・」
「ならなぜだ!?」
「・・・では、失礼を承知で申し上げます。国王様含め、お妃様、王女殿下の出費が政策による効果を上回る額なので御座います。」
アドルフの回答にルイージがばつが悪そうな顔をする。アドルフが言った通り、この国の財政難の理由は王族の無駄遣いだった。国王ルイージは国を潤すためと体のいい理由をつけて、周りの国から土地を買うだけ買い、広くなった領地でこの世界の覇者にでもなったかのように優越感に浸っていた。
しかし、買った土地の多くは荒れ地同然で作物が育つ環境では無いため、税を徴収することができない。さらには魔物が多く出るため、治安維持軍として兵を出兵しなければその地に住む国民が反旗を翻しかねない。領地は広くなれど国庫を蝕む原因となっているのだ。それに加えて、お妃と王女は毎晩晩餐会を各々開催し、周りの貴族達のおべっかを本気にし、貴族が望むものを与え続けている。
「もう、どうにもならんのか。城にあるものを売ればなんとかなるのではないか。そうだ、我が買った土地を売り返せばよいのではないか。」
「国王様、それは残念ながら無理でしょう。」
「なぜだ。理由を述べてみよ。」
「まず、なぜ隣国は土地を簡単に国王様に売ったのか考えてみてください。」
「隣国も財政難だからではないのか。」
「違います。国王様に売った土地は価値がない土地だからです。作物が育たなければ、鉱物が採れる訳でもない。いわば持つだけ財政に負担をかける土地だからです。」
「帝国の奴らはそれを我に大金を払わせて買わせたのか。」
「だから私は何度も忠告したでは御座いませんか。」
「では、どうしたらよいのだ・・・」
ルイージは頭を抱え考えるものの普段から政に関しては貴族やアドルフに任せっきりのため、万事解決するような案が思いつくはずもない。そこに、
「そんなの簡単ですわ、お父様。隣国からお金を奪い取ればよろしいのでは無くて?」
「アリス!聞いていたのか。」
ルイージが驚き玉座の間の扉をみると、そこからペネステーレ王国第一王女アリス・ウィン・アステリア・バルテール王女殿下が発案する。
「アリス王女殿下、ただでさえ財政が苦しい時に戦争を仕掛けるのは無謀で御座います。」
アリスは戦争に反対するアドルフを見るとにっこりと笑いながら、
「大丈夫よ。私に案があるの。」
「さすがはわが娘だ。早速聞かせておくれ。」
アリスの案に期待し、破顔する国王とは反面、アドルフは不安でままならぬ浮かない面持ちであった。