帰省 2
電車を降りると、瞬間、強い山風が轟々と身体を吹き付けた。俺は帽子が飛ばされないように手で押さえ、目深まで帽子の鍔を落とす。背では上着の裾が何度も靡き、息をすると爽やかな自然の薫りが鼻腔をくすぐる。
だんだんと風はヒュルヒュルと勢いを殺していく……
しかし……何か変だ。
妙なことに俺はその一瞬の風と、今降りた瞬間に見た駅のホームに既視感を覚えた。
もちろん駅のホームは毎年見ている。
いつもと変わらないはずだと勿論そう思う。だけどいつもと何か「違う」。
なんなんだこの妙な感覚は……とそう思った刹那、総身の毛穴が立ち、背筋にいやな冷や汗が垂れてくる。
ヤバい
これが第六感というものだろうか、何かからのプレッシャーを感じた。脊髄の中枢神経から運動神経へ、そして筋肉に情報が伝達され、「ここから逃げ出せ」という自己生存のための命令という名の判決が下される。まるで俺はGOを待っていたレースの車のように俺は即座に右足の指と指の付け根でコンクリートの地面を蹴った。
ここまでの時間は僅かでコンマ一秒にも満たないだろう。しかし俺にはこの一瞬が何十時間ものように感じた。
右足が地面と離れるのと同時に「何か」から開放された。
助かった。
そう思うのと同時に今の不気味な瞬間に恐怖を覚えた。
もしかしたら普段行わない長旅で疲れているのかもしれない。
今の出来事をそう自分に言い聞かせると、そんな疲労した身体を休めるために自動販売機で苦い缶コーヒーを買いベンチに座った。
コーヒーをひと口すすると深い苦味とほのかな酸味が口の中に広がる。
ふぅ……
腕時計で時刻を見るとまだ祖父母との待ち合わせ時間にはなってないことに気づいた。
待ち合わせ時刻までは20分ほどある。しかし、祖父母は俺の身を案じて毎年少し早めに来る。そうなるとここにいられる時間は単純に考えて15分くらいだ。
15分か……
何かをするには短いし、ただ待つだけだとそれはそれで体感的に長く感じる。
俺はウォークマンで音楽を聴くことにした。音楽だったら聴いてる内にすぐに待ち合わせ時刻までのいい時間つぶしになるだろう。
最近、バブル期に流行ったノリのいい曲をよく聞いているが、夏休み前に友達にこの曲を知ってるか聞くと
「サビ以外はしらない」
そう言われて、少しショックだったがそんなものだろうとも思った。俺はそんなバブリーな曲の中からバブルガムブラザーズのWON'T BE LONGを選曲するとイヤホンをつけて祖父母が来るまでベンチで音楽を聴いていた。