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クリスマスなんてあきあきよ!

作者: 稲見晶

 ひいらぎ村は、まいにちずっとクリスマス。ゆきげしきのみちにわらいごえがひびきます。トナカイたちはくびのすずをならして空をかけっこします。たちならぶもみの木には星のかざりや金のりんごがつるされて、きらきら、きらきら、かがやきます。

 おおきなおもちゃこうじょうからは、ぽん! ぽん! おおきなはこもちいさなはこも、いろとりどりのリボンをむすんで、かぞえきれないほどとびだしてきます。

 サンタクロースのてつだいをするエルフたちがうたいます。

──ろうそくともそう、ケーキはいかが? 

  きょうはクリスマス、あしたはノエル、そのつぎのひはヴァイナハテン──


 みんながようきにわらうなか、ちいさなイヴだけは、まどから外をみてふくれっつらをしていました。

 へやのなかにはあけてもいないプレゼントのはこがいっぱいにつみあげられています。

「クリスマスなんてもううんざり! しちめんちょうもシュトレンも、においだけでおなかいっぱい! どこかにクリスマスじゃない村はないかしら?」

 イヴはいっしょうけんめいかんがえましたが、クリスマスじゃない村、なんてほんとうにあるのかどうかもわかりません。


 こまったイヴはものしりのまじょ、ベファーナのところをおとずれました。

「おや、スネグラーチカ(ゆきむすめ)のイヴじゃないか。きょうはひとりかえ?」

 ベファーナはしわがれごえでそうたずねました。

「ええ、そうよ。ベファーナばあさん、クリスマスじゃない村がどこかにあるなら、つれていってちょうだい」

 イヴのことばに、ベファーナはめをまるくしました。

「クリスマスじゃない村だって? そりゃあむずかしいそうだんだ。この村がほかの村につながるときは、つまりむこうのクリスマスの日だからねえ」

 ベファーナはせなかをいちどのばすと、へやのすみから一本のほうきをとってきました。

「ともあれ、やってみようじゃないか。さあさ、うしろにのんな」

 イヴとベファーナをのせたほうきはまどからとびだし、そらへむかっていっちょくせん。


 ひろばをまたぎ、もみのきをこえて、ひいらぎ村はあっというまに見えなくなってしまいました。イヴのみみもとでびゅうびゅうとかぜがさけびます。

 わたのゆきぐものあいまからたいようがひかり、まぶしさにまぶたをとじたそのとき、ベファーナはほうきをしたにむけて、こんどはぐんぐんじめんにちかづきはじめました。

 ふたたびあけたイヴの目にうつるのは、あかいやね、あおいやね、ちゃいろのやね。なんとにぎやかないろなのでしょう。いちめんまっしろのゆきげしきしかしらなかったイヴは、まばたきもせずに見つめました。

 

 ふたりがおりたったのは、だれもいないこうえんでした。

「ほれ、クリスマスにゃ見えないところをえらんだつもりだよ。ひぐれにはきっとここにもどって、あたしをよぶんだよ。さもないと、あんたのくつしたにまっくろせきたんがはいることになるからねえ!」

 ひっひっひ、とわらいごえをのこしてベファーナはすがたをけしました。

 ひとりになったイヴはきょろきょろとあたりをみわたして、こうえんのゆうぐをはしからためしてみました。

 まずはブランコ。

「これは、ゆらゆらするものね? トナカイみたいにみぎやひだりにもいってくれると、もっといいんだけど」

 つぎにすべりだい。

「てっぺんからのながめはわるくないわ。それにしても、さかみちのほうからのぼるのってたいへん!」

 すなば。

「こなゆきよりもさらさらで、つめたくないなんて、すなってふしぎ!」

 でもそのうちにあきてしまって、イヴはこうえんをでました。


 あるくイヴのあしもとに、おおきなかれはがいちまい、おとをたてておちてきました。

「なに、これ? どこからきたの?」

 みあげた先には、まばらにはっぱをつけたいっぽんの木。

「たいへん、はっぱはかさかさ、えだはすかすか! こんないたずらをしただれかさんをうんとこらしめてやらなくちゃ!」


 イヴがぷりぷりおこっていると、みちのむこうからおんなのこがひとりあるいてきました。イヴはそのこをよびとめます。

「ねえ、あんた! 木をすかすかにしたはんにんをしらない?」

 おんなのこはびっくりして「木?」とききかえしました。

「そうよ。はっぱもこんなにひからびちゃって、かわいそうじゃない!」

 イヴがそうつづけると、おんなのこは目をぱちくりさせてから言いました。

「ふゆになると、木はひとりでにそうなるの。だれかがいじわるしたんじゃないわ」

 こんどはイヴがおどろくばんでした。

「そうだったの? 木からはっぱがなくなるなんて、これが『クリスマスじゃない』ってことなのかしら」

 クリスマスじゃない、ときいておんなのこはかなしそうなかおをしました。イヴはそれにきづかず、こうつづけました。

「ねえ、クリスマスじゃないこと、もっとおしえてくれない? あたし、まいにちクリスマスであきあきしてたの!」

 おんなのこはいっそうしずんだかおつきになって、とうとうなきだしてしまいました。イヴはあわててかけよって、そのりゆうをたずねました。


 イヴがきいたりゆうというのは、こうでした。

 おんなのこのいえに、もうすぐあかちゃんがうまれるのです。おとうさんもおかあさんもあかちゃんをむかえるしたくでいそがしくて、おんなのこのいえにはツリーもリースもでていません。そのうえ、おかあさんやあかちゃんがびっくりするといけないので、ことしはサンタさんもこられないと、おとうさんがはなしました。

 そんなわけで、おんなのこはさびしくて、イヴのことがうらやましくてたまらなくなってしまったのです。


 はなしをききおえたイヴは、おんなのこをはげまそうといいました。

「それならあんたとあたしでおしえっこね! あんたがクリスマスじゃないことおしえてくれたら、あたしはおれいに、あんたにクリスマスしてあげる。あたし、ひいらぎ村のイヴっていうの」

 ないていたおんなのこのかおが、ぱあっとあかるくなりました。

「ほんとうに? クリスマスのおいわいしてくれるの?」

 イヴがうなずくとおんなのこはにっこりわらいました。ないたばかりでぬれたほっぺたがつやつやひかりました。

「ありがとう、わたしもクリスマスじゃないこと、いっぱいおしえてあげる。わたしはリサ。よろしくね」

「リサ、あたしたち、いまからおともだちね!」


「ねえイヴ。クリスマスじゃないって、つまりなんでもない日のこと? なにをしりたいの?」

「なんでも! リサがいつもどんなことをしてあそんでるのか、なにをたべてるのか、それにおうちのこと、おしごとのこと、リサのうちのトナカイのこともね」

「わたしのいえにトナカイはいないの、イヴ」

「ほんとうに? じゃあそりは? だんろは? くつしたは?」

 つぎつぎとといかけるイヴのようすに、リサはついくすくすとわらってしまいました。

「イヴ、それならわたしのいえにいきましょう。いろんなものみせてあげるから!」


 リサのいえのまえには、トナカイのかわりにきいろいくるまがありました。

「おかあさん、びょういんからかえってきたみたい」

 リサはイヴのみみもとでそういいました。

 イヴとリサはいえのなかにはいりました。

 おとうさんとおかあさんはならんでソファにすわって、カタログをめくっていました。おとうさんがイヴとリサにきづいてこしをあげました。

「おかえり、リサ。となりのこはおともだちかな?」

「ただいま、おとうさん。あのね、わたしとイヴ、きょうおともだちになったの」

 おとうさんはにっこりイヴにほほえみかけました。

「はじめまして。おちかづきのしるしに、おひるごはんをいっしょにどうかな?」


 おとうさんがつくってくれたのは、ほうれんそうとチーズがたっぷりはいったミートソースのスパゲティでした。

「スパゲティ・マルゲリータでございます」とおとうさんはすこしきどっていいました。

「あたし、スパゲティってたべるのはじめて!」

 フォークでくるくるまくのがたのしくて、ほかほかのスパゲティがおいしくて、ふたりはあっというまにたべおえました。

 リサはまちきれないといったようすでいいました。

「ねえおとうさん、おかあさん、イヴとあそびにいってきていいでしょ?」

「ああ、もちろん。くらくならないうちにかえってくるんだよ」

 それでふたりはそとへかけだしました。


 リサがイヴをつれていったところは、はじめにイヴがベファーナとおりたったあのこうえんでした。

「ほら、イヴ! こっちこっち!」

 リサはてをふってイヴをさそいます。

「さっきはたいくつだったけど、こんどはきっとたのしいわ。だって、リサがいっしょなんだもの」

 イヴはこころのなかでいいました。そしてそれは、ぴったりあたっていたのです。


 まずはブランコ。

「イヴ、せなかをおしてあげる」

「すごいわ、リサ! ひとりでそらをとんでるみたい!」

 つぎにすべりだい。

「イヴ、どっちがはやいか、きょうそうしない?」

「リサ、リサ! おしりだけさきにすべっていっちゃう!」

 すなば。

「イヴ、おみずをまぜておだんごをいっぱいつくりましょう!」

「リサ、このすなだるま、こっちがあたしでこっちがリサよ」


 たくさんあそんで、はしりまわって、ふたりはうんとわらいました。

「ああたのしい。クリスマスじゃないのってとってもゆかい!」

「わたしも、なんでもない日がこんなにたのしいのははじめて!」

 そこでイヴははっとやくそくをおもいだしました。

「それじゃあリサ、こんどはあたしがあんたにクリスマスしてあげるばんね!」


 イヴはりょうてをくちもとにあてて、そらをあおいで、おおごえでベファーナをよびました。

「おやおやおや、ずいぶんとはやいじゃないか、イヴや? ここはおきにめさなかったのかね?」

「ううん、とってもたのしいわ! ベファーナばあさん、リサにひいらぎ村をあんないしてあげたいの」

 ベファーナは「ほっほう」とこえをあげて、じろじろとリサをみつめました。リサはちょっぴりこわくなって、いっぽあとずさりました。

「ほんとうは村ににんげんは入れないのだけどね、あんたはずいぶんイヴにしんせつにしてくれたようだから、とくべつだよ」

 そうしてさんにんはベファーナのほうきにまたがりました。


 ほうきが空へまいあがり、リサはおもわずひめいをあげました。

「あんしんしな、おちやしないよ!」

 さんにんはいえをこえ、がっこうをこえ、そびえる山もとびこえました。

 わたぐものなかをつきぬけると、あたりはゆきでまっしろです。そのなかで、きんいろの明かりがかがやくばしょがありました。

「ほれ、みえてきたよ」

 もみの木のあいだをすりぬけたさきは、ベファーナのいえのまえでした。

「ありがとう、ベファーナばあさん」

「どういたしまして。さあ、いったいった。あたしゃはやくスパイスいりのホットココアであったまりたいんだからね」

 そこでふたりは、イヴのいえへむかいました。


 つもったゆきはどこもふわふわで、ふむとくっきりと足あとがのこります。

 ふたりはケンケンをしたり、うしろあるきをしたり、おかしな足あとづくりにせいをだしました。

 イヴがりょうあしでぴょんととんだとき、うしろからちいさなたかいこえがきこえました。イヴはびっくりしてしりもちをついてしまいました。

「こんにちは、イヴ」

「こんにちは、スネグラーチカのイヴ」

「こんにちは、ちいさなスネグラーチカのイヴ」

 そこにいたのは、ジンジャーブレッドマンのさんきょうだいでした。いいにおいのするしょうがのクッキーでできていて、おおきさはイヴのてのひらくらいです。

 イヴはたちあがってふくについたゆきをはらい、すましたかおで「こんにちは」とこたえました。

 さんきょうだいは、こんどはリサをみてたずねました。

「きみは?」

「きみのなまえは?」

「きみのなまえとすきなものは?」

「わたしはリサ。すきなものは、おかし、ゆき、おしゃべり、それにイヴとあそぶこと。きっとあなたたちのこともすきになるわ」

 さんきょうだいはくすくすはにかんで、リサのともだちになりました。

「ぼくはジン」

「かれはジン、ぼくはガーブ」

「かれはジン、かれはガーブ、ぼくはリード」


 イヴとリサはジンジャーブレッドマンのさんきょうだいをポケットにいれてあるきます。

 こんどはまえをみて、まっすぐに。うっかりころんでさんきょうだいがわれてしまってはたいへんですから。

 トナカイのまきばをよこぎって、リースをかざったもんをくぐり、イヴのいえにつきました。

「ただいま、おじいちゃん!」

 イヴはげんかんをはいるやいなや、青いふくのおじいさんにだきつきました。

「おかえり、イヴや。おお、おともだちもいっしょかね」

 おじいさんはしろくながいひげをゆらしてたずねました。

「リサです、こんにちは。おじいさんはサンタさん?」

「いやいや」とおじいさんはわらってこたえました。

「わしはジェド・マロース。さむさやしもをつれて、プレゼントをくばりにいくのじゃよ。イヴ、サンタ・クロースのこともあとでしょうかいしておあげ」

「うん、おじいちゃん。でもそのまえにおやつにしましょ!」


 ジェド・マロースがよういしてくれたのは、ナッツのクッキー、ハートがたのジャムいりプリャニキ(はちみつパン)、そしてあたためたぶどうジュース。

 ジンジャーブレッドマンのさんきょうだいは、いちばんおおきなクッキーをとろうと、おさらによじのぼります。

 イヴとリサ、そしてジェド・マロースはまちがえてかれらをつまんでしまわないように、よくよく手もとを見なければなりませんでした。


 だんろのそばでおしゃべりをして、からだもぽかぽかになりました。

「あとはツリーに、うたに……。そうだ、プレゼント! リサ、おもちゃこうじょうにいかなくちゃ!」

 イヴがいすからたちあがります。ジンジャーブレッドマンのさんきょうだいがイヴとリサのポケットにとびこみました。

 外にでたイヴとリサは手をつないで、きらきらひかるゆきみちをはしりだしました。


 おもちゃこうじょうのえんとつからは、ひっきりなしにきれいなはこがとびだします。とんがりぼうしのエルフたちがそれをうけとめ、おおきなそりにつみあげます。

「エルフさん、プレゼントをちょうだい! リサにあげるの」

 イヴはそうたのみましたが、エルフはくびをかしげます。

「こまったなあ、ここにはプレゼントなんてないんだもの」

「だって、そこにたくさんあるじゃない!」

 イヴはほっぺたをふくらませてそりをゆびさしました。

 エルフはふってきたちいさな白いはこをうけとめて、ふたりにいいました。

「ここにあるのは、ぬいぐるみ、いろえんぴつ、キャンディ、ほん、つみき、じてんしゃ、そのほかいろいろだよ。でも『プレゼント』ってものはないんだ。プレゼントはさいしょからプレゼントってわけじゃなくて、『プレゼントになる』ものなんだから」

 イヴとリサはぽかんとかおをみあわせました。

「それじゃ、どうすればいいの?」

 イヴのといかけに、エルフはにっこりとわらいました。

「かんたんだよ。あいてのよろこぶかおをおもってえらべば、おもちゃやおかしやぶんぼうぐが、とくべつなプレゼントになるのさ!」


 イヴはリサの手をひいて、おもちゃこうじょうにはいろうとしました。

「リサ、プレゼントはなにがいいか、あたしにおしえて! おもちゃこうじょうにはなんだってあるんだから!」

「だめだよ、イヴ」

 エルフはふたりをひきとめます。

「それじゃおもしろくないじゃないか。なにをおくろうか、なにがもらえるか、ワクワクするのがプレゼントのだいごみなんだから」

 イヴはおおきくためいきをつきました。

「わかったわ。あたしひとりでだって、ちゃんとえらんでみせるんだから!」

 こうしてイヴはおもちゃこうじょうへはいり、リサはジンジャーブレッドマンとまつことになりました。


「リサ、森にいこうよ」

「リサ、森にいってまつぼっくりをひろおうよ」

「リサ、森にいっておおきなまつぼっくりをひろおうよ」

 ジンジャーブレッドマンのさんきょうだいにさそわれてリサは森へ足をむけました。

 ポケットのなかから、さんきょうだいがみちをおしえます。

「みぎにまがって」

「みぎにまがったら、ひだりにまがって」

「みぎにまがって、ひだりにまがったら、あとはまっすぐ」


 たどりついた森はとてもしずかでした。

 みみをすますとどこかとおくからすずの音がきこえます。それにまじって、ときおり、えだにつもったゆきがおちる音も。

 ジンジャーブレッドマンのさんきょうだいは、ポケットからかろやかにとびおりました。

「みつけた!」

「まつぼっくりみつけた!」

「おおきなまつぼっくりみつけた!」

 こゆびでつついたようなちいさなあしあとがさんにんぶんならびます。

 リサがついていってみると、たしかにゆきにはんぶんうもれたまつぼっくりがありました。

 いちど見つけたあとは、つぎからつぎへとまつぼっくりがあらわれます。

 リサとさんきょうだいはまつぼっくりをあつめては、やまのかたちにつみました。

「ねえ、このまつぼっくりどうするの?」

「もってかえるよ!」

「もってかえって、きんいろにぬるよ!」

「もってかえって、きんいろにぬって、ツリーにかざるよ!」

 さんきょうだいは、じぶんのからだよりもおおきなまつぼっくりをころがしながらこたえました。


 なん十ものまつぼっくりのなかから、リサとさんきょうだいはじぶんのいちばんおきにいりをひとつずつえらびだしました。

 ふとかおをあげれば、もうたいようはだいだいいろ。いちめんのゆきもあわむらさきにそまっています。

 そろそろ、イヴもプレゼントをきめたころでしょう。さんきょうだいはひえた足でリサのポケットにもどりました。

 ひいらぎ村へとあるいていると、はるかうしろから、パシィン、パシィン、となにかをたたく音がきこえました。

 とたんにさんきょうだいはポケットのおくへもぐりこんでしまいました。

「どうしたの?」

 リサはささやき声でたずねます。

「クランプスだよ」

「毛むくじゃらのクランプスだよ」

「つのが生えてて毛むくじゃらのクランプスだよ」

 さんきょうだいはかおもあげずにうずくまったまま、ふるえるこえでこたえました。


 パシィン、とまた音がしました。リサはそちらへかおをむけました。

 さんきょうだいがいったとおり、つのがはえて毛むくじゃらの、くろいかいぶつがいます。

 クランプスというらしいそのかいぶつは、ぎょろぎょろと目をひからせながら、手にしたむちで木をたたいてまわっています。

「わるいこはぶたれちゃうよ」

「わるいこはあのむちでぶたれちゃうよ」

「わるいこはあのむちでいっぱいぶたれちゃうよ」

 ポケットのなかからのこえをきいて、リサもせなかがぞっとしました。

 木のかげにかくれて、あしおとをたてないようにそうっとそうっとすすみます。

 クランプスはときおりたちどまり、くびをさゆうにうごかしてはまた木をむちでたたきます。

 するどいつめがはえたおおきなあしが、ゆきをざくざくふみならします。まだリサにはきづいていないようですが、その音はだんだんとこちらへちかづいています。

 リサはたまらずかけだしました。パシィン、とひときわおおきくむちがなりました。

「みつかっちゃった」

「リサ、みつかっちゃった」

「リサ、クランプスにみつかっちゃった」

 リサははしりながらふりかえりました。クランプスはのしのしとおおまたでちかづいてきます。

 リサはひめいをあげてちからいっぱいはしりました。

 もうすぐ村につくというそのときです。リサは木のねっこにつまずいてころんでしまいました。

 いたくてこわくて、リサはべそをかきました。すぐうしろにクランプスがせまっているような気がしてなりません。

 むちの音がきこえなくなりました。

 ゆきのうえにすわりこんだリサがこわごわうしろをふりむくと、クランプスははなれた木のうしろから、こっちを見ていました。じっとうごかず、むちをもった手もおろしています。

 ふしぎにおもいながらも、リサはたちあがってまっすぐ村にかけこみました。


 しんこきゅうをなんどもして、ようやくこころがおちついて、リサはジンジャーブレッドマンのさんきょうだいをおもいだしました。

 ポケットをのぞきこんで「だいじょうぶ?」とたずねます。

「だいじょうぶ!」

「だいじょうぶ! ぼくらはかたいから」

「だいじょうぶ! ぼくらはかたくてがんじょうだから」

 げんきなこたえに、リサはほっとむねをなでおろしました。


 おもちゃこうじょうにつくと、プレゼントのふくろをりょうてでかかえたイヴがまっていました。

「ああ、ずいぶんながくかかっちゃった! でもきっと、あんたによろこんでもらえるとおもうな」

 イヴはてれくさそうなえがおで、プレゼントをイヴにさしだしました。

 リサはリボンをといてつつみをあけます。でてきたのは、なかよく手をつないだ二体のにんぎょうでした。

「このこたち、あんたとあたしみたいじゃない?」

 イヴのことばに、リサはなんどもうなずいてにんぎょうをだきしめました。

「ありがとう、イヴ。とってもうれしい。だいじにするね」

「どういたしまして、リサ。なんだかへんてこだけど、プレゼントをあげるのって、もらうのとおんなじくらいうれしいみたい」

 にんぎょうとイヴをみくらべているうちに、リサはあることをおもいつきました。

「ねえイヴ。わたしもイヴにプレゼントあげたいな」

「わあ、ありがとう! そうだ、リサのおとうさんとおかあさんとあかちゃんのプレゼントもえらんでいくといいわ!」

 

 おもちゃこうじょうのいりぐちをはいって、エルフについていったさきは、むこうがわがみえないほどのひろいへやでした。

 てんじょうまでとどくたながずらりとならんで、ありとあらゆるすてきなものがリサのほうをむいています。リサはくちをあけてたちつくしました。

「さあ、ここからなんでもすきなものをえらびなよ。もちろん、あいてのよろこぶかおをおもいうかべながらね。えらんだらぼくがきれいにつつんで、きんとぎんのリボンをかけてあげる」

 エルフがこえをかけても、リサはしばらくぼうっとしたままでした。

 ようやくいっぽあしをふみだして、プレゼントをえらびはじめます。

 ぬいぐるみだけでもせかいじゅうのどうぶつがそろっています。えほんはリサがよくしっているものから、見たこともないことばのものまで。ずらりとならんだおかしは、とおくからでもあまいかおりがわかるほどでした。

 リサはなんどもいったりきたりして、いっしょうけんめいプレゼントをえらびました。

 おとうさんにはチョコレート、おかあさんにはレースのしおり、あかちゃんにはちいさなスプーン。そしてイヴには、けいとをあんだあったかマフラー。

 エルフはそれらをみんな、ほうせきみたいにきれいにつつんでくれました。


 リサがプレゼントをかかえてこうじょうからでると、あたりはすっかりくらくなっていました。

 ひいらぎ村にあかりがともり、星とともにまたたきます。

 木につるしたかざりもきらきらひかります。

 イヴは赤いみをつけたひいらぎのしたでまっていました。いつのまにかジェド・マロースもいっしょです。

 かけよったリサをみて、イヴはそわそわとえみをもらしました。

「はい、イヴ。クリスマスおめでとう!」

「ありがとう、リサ!」

 イヴはリサがあげたマフラーをさっそくまいてくれました。それからジェド・マロースをみあげてききました。

「ねえ、言っていいでしょ、おじいちゃん?」

 ジェド・マロースのうなずきもまちきれずに、イヴはさっそくしゃべりだしました。

「リサ、あたし、らいねんからあんたのいえにプレゼントとどけにいくの!」

「ほんとうに! イヴ、きてくれるの?」

 イヴとリサはてをとりあってよろこびます。

「リサのおかげじゃよ。プレゼントをおくるよろこびをしったなら、イヴももういちにんまえのスネグラーチカじゃ」

「ほんとうにそう! リサ、あたしがいけるのはリサがねむったあとだから、おてがみをかいて、くつしたのなかににいれてくれる? クリスマスじゃないってこと、もっともっとしりたいの」

「もちろん! クリスマスじゃないすてきなこと、おしえてあげる。くつしたがいっぱいになるくらいね」


 いつまでもおしゃべりできそうなふたりに、ジェド・マロースはそっとこえをかけました。

「さびしいけれども、そろそろかえるじかんじゃな。いましがた、むかえのそりもついたようじゃ」

 ジェド・マロースがさしたさきには、赤いふくをきたひげのおじいさん。そう、サンタ・クロースです。

「メリークリスマス! リサ、ひいらぎ村はたのしめたかの?」

 サンタ・クロースはおおきな手をさしだしてリサとあくしゅしました。


 さいごにイヴとつよくだきあって、リサはサンタ・クロースのそりにのりました。

「ホー・ホー! さあダッシャー、ダンサー、プランサーにヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナーとブリッツェン、そしてルドルフ。リサのいえまでひとっとび!」

 なまえをよばれたトナカイたちはくびのすずをならしてそらへとかけあがりました。


 サンタ・クロースのそりからひいらぎ村をみおろすと、もみの木やいえやがいとうがかがやいて、まるでほしぞらをうつしたよう。

 リサがむちゅうになってながめていると、かげのようにくらいもりのなかから、ぎょろりとひかるめだまがこちらを見ました。

「クランプス!」

 リサはとっさにあたまをひっこめました。

「おや、クランプスをしっておるのかね。わしのたいせつなあいぼうじゃよ」

 サンタ・クロースはようきなこえでいいました。

「ほんとうに?」とリサはしんじられないおもいです。

「ほんとうじゃとも。きょうだって、こびとがきみにいたずらをせんよう、森をみまわっておった。こわがられるからといって、めったにひとまえにでてこようとはせんのじゃがね」

 リサはクランプスにもうしわけなくて、むねがいたくなりました。

「ホー・ホー! なかよくなるには、あかるいあいさつがいちばんじゃ!」

 サンタ・クロースはそりをぐっとじめんにちかづけて、クランプスに手をふります。そこでリサも「ありがとう、クランプス!」とみをのりだしておおきく手をふりました。

 クランプスはするどくながいきばをむきだしてわらい、手をふりかえしてくれました。


 そらのうえはひんやりといいきもち。トナカイのすずの音にさそわれて、リサはジングル・ベルをうたいます。

 サンタ・クロースもこえをあわせます。ポケットのなかから、ジンジャーブレッドマンのさんきょうだいも。

 うたいおえると、みんなじぶんたちのためにはくしゅをしました。


 いつしかあたりにはなじみぶかい町なみがひろがっています。

 そらとぶそりはだんだんとそくどをおとして、リサのいえのまえにとまりました。

 ジンジャーブレッドマンのさんきょうだいがリサのポケットからはいだします。

「またね、リサ」

「またきてね、リサ」

「またあそびにきてね、リサ」


 リサはおとうさんへのチョコレート、おかあさんへのレースのしおり、あかちゃんへのちいさなスプーン、そしてイヴからもらったにんぎょうをかかえてそりをおりました。

 ちょうどそのとき、おとうさんが「なんだろう、あのすずの音は?」とげんかんからかおをのぞかせました。

「ただいま、おとうさん! わたし、イヴとクリスマスしてたの!」

 リサはおとうさんにかけよりました。

「おかえり。たのしいクリスマスだったかな?」

「とっても! それにわたし、わかったの。クリスマスもなんでもない日も、どっちもとてもすてきな日だって!」

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