アマミコと吊用之――因縁の対決
沖縄の空高く――。
雲の上で死闘を繰り広げていたアマミコと吊用之は、相打ちのかたちで落下していた。
お互いの雷撃は、相手に甚大なダメージを与えた。
アマミコは、とっさに膝を抱え、大打掛「飛衣」にくるまった。
眼下に突如現れた「光の波紋」の中へ吸い込まれていく。空間の歪みを感じた。
その伸縮に合わせて、身体も伸びたり縮んだりする。薄れゆく意識の中で、両手を左右に伸ばした。ゆったりとした幅広の袖がはためき、翼の形に拡がっていった。
一方、吊の身体は一瞬のうちに黒焦げとなり、宙に散った。だが、線香花火の玉のようなものが残って落ち続け、やがて海中に没した。
吊用之は、「尸解仙」(下級の仙人)であった。死を迎えたが息を吹き返し、棺桶から抜け出した。しかし、生き返ったわけではない。死後、ただちに肉体を離れるはずの「魂」と「魄」を、呪力で仮に留めているだけであった。よって、実年齢に見合わない容姿を保つことができ、妖物との融合も可能だった。
アマミコ(マツカネ)との闘いで、「魄」は消滅した。だが、「魂」は残った。ただ人としての記憶は、衝撃でほとんど失われた。「魂」が落下した地点は、奇遇なのか乗っていた船が、沈んだ辺りであった。
トカムと「呉」の艦船も、交戦状態へ入った。
「左列の先行二隻を挟撃する」
李船長が、指示を下した。
「えっ?」
今度こそは、真っすぐ突進するものと思っていた。しかし、命令である。ただちに舵を切った。両側から寄せて、敵船の腹に着ける。渡し板を掛けて、ダダッと甲板へ乗り込む。
「黒鎧の奴は、三人掛かりでやれ」
小隊長が、率いてきた兵たちに命じた。職業軍人である黒雲都を短槍で囲み、突き立てる。
他の船は煙幕に視界を遮られた上に、乗り込んできたアヅミと戦っている。よって、二隻の僚船が襲われていることにすら気付かなかった。
「カン、カン、カン――」
鉦の音が、海上に響いた。すると、一斉にアヅミの攻撃が止んだ。
しばらくして煙が収まったときには、敵の姿は甲板から消えていた。
海に目を遣ると、またイルカたちに乗って島の方へ向かっている。味方の損害は、ほとんどなかった。お互いに顔を見合わせて首を傾げたり、声を掛け合ったりしていた。
「オイ、あれを見ろ!」
兵士の一人が、叫んだ。二隻の僚船が燃えている。敵の船は、その場を離れ、逃走中だった。
「やられた――」
徐温は、手にした槍の柄尻を床にドンと突いた。口惜しさで身体が震えた。
正面から突っ込んでくるものと思い込んでいた自分を呪った。一国の将軍となり崇め立てられているうちに、野盗時代の融通無碍な戦い方を忘れ、旧来の戦略や戦術論に囚われてしまっていた。
(またしも謀られたわ――)
李の目的は、最初から二隻を食いちぎることにあった。アヅミの襲撃は他の船を混乱させ、救助に向かわせないためだけの「目くらまし」だったのだ。
トカム船団は、歓喜に沸いていた。最初は「決死の特攻」だと思って覚悟していただけに、その安堵感は、一入だった。
イルカに乗ったアヅミたちも、笑顔で手を振っている。だが、その「出し抜いてやった」という高揚感も、長く続かなかった。
「あれは、何だ!」
先頭を駆けていたアヅミが、叫んだ。




