「イラブンドウ」――魔の海の底で
カイトは、目を覚ました。
船がギシギシときしみながら、上下左右に揺れている。
「ザバン、ザッバン」
手荒く船体を洗う波の音が、聞こえる。
(さっきまでは、とても静かだったのに……)
眠りにつくまでは、満点の星が輝く穏やかな夜だった。
「カイト君、大丈夫かい」
ハンが、声を掛けてきた。
「はい……、波がだいぶ荒いですね」
小さくうなずきながら答えた。
起き上がり、揺れと戦いつつ身支度を整えた。
「急に荒れ出すなんてねぇ」
ハンは、ロウソク箱を抱えている。
眉をひそめ、不安そうな顔だ。
「ビヨーン、ビヨーン、ビヨーン、ビヨーン」
聞き慣れない音色が甲板の方から響いてきた。
「あれは、何の音ですか?」
声をひそめ、ハンに尋ねた。
「兵士たちが、弓の弦を弾いているんだよ」
頭上を見通すかのように低い天井を見上げ、ハンが答えた。
「物の怪」を払う「鳴弦の儀」をおこなっているのだろうという。
「ちょっとのぞいて見ようか?」
ハンの手には、木の柄がついた小刀のようなものが握られている。
「それ何ですか?」
こんな状況ではあったが、興味にかられて尋ねた。
細身の両刃ナイフのようでもあるが、刃は付いていない。
「磯ノミだよ。
岩から貝をはがすのに使うんだ」
ロウソクの灯りに近づけて、見せてくれた。
「……?」
「魔除けなんだ。
ほら、この柄の部分に印があるだろ」
木の柄を指で指し示す。
そこには、五つ角の五芒星が刻まれていた。
「アマミコ様が、彫ってくださったんだ」
ハンは、自慢げに言った。
海人は、海の魔物の存在を身近に感じ、こうしたお守りを身に付けている。アヅミが、全身に文身を入れているのも、そのためだ。
「行こう」
ハンは、磯ノミを帯にはさみ、出口へ向かった。
「うん」
カイトも義宝からもらった刀を帯に差して、ゴムサンダルをはいた。
そっと甲板へ上がる蓋を持ち上げ、目だけ出した。
雨は、降っていない。
目の先には帆柱があり、三分の一ほど上がった網代帆が塀のようになっている。
這いながら、そこまで進んだ。
正面の祭壇に、ミーカナの背中が見えた。
祭壇には、炎が立っている。香草の香りが漂ってきた。
火にかざして熱した海ガメの甲羅を、ジッと見つめている。
船の周囲の柵には、綱が張り渡されていた。
字なのか模様なのかわからないものが書かれた紙(呪符?)が下がっている。
五人の海士が、「座」を背にして囲んでいた。銛を立て、胡坐をかいている。
長のイサナは、船の舳先近くにドカッと腰を下ろし、前方を睨んでいた。
赤銅色の肌一面に彫られた文身が蛍光色を発し、浮き上がって見えた。
さらに船べりの左に白虎、右に玄武の護衛兵が外に向かって座っていた。
それぞれ剣を抜き、目の前に立てて、呪を唱えている。
頭には、黒くて目の粗い編み笠があり、それを目深にかぶっていた。
兵士は、その間に並んで弓を弾いている。
全員、編み笠をかぶり、その網目を通して前方を見つめていた。
「カイト君、この網代帆を通してしか、前を見ちゃぁ、いけないよ」
「もしイワトシガミが出てきたら、大変なことになるからね」
ハンは、念を押すようにいった。
「どうして?」
カイトは、すぐに問い返した。
「篭目には魔を遮り、撥ね返す効力がある。
六芒星は、五芒星と同じ力を持っているんだ」
確かに笠も帆も六芒星の形になっている。
「アレ?」
風の音がパタッとやみ、揺れもおさまった。
気味が悪いほどの静寂が訪れた。
「ドドォ――ン」
次の瞬間、崖崩れが起きたときのような音がした。
海面が盛り上がり、沈み込んだ。
船は、一挙に山頂へ持ち上げられ、「奈落の底」へと、真っ逆さまに落ちていく。
「ワアッ――」
天地が逆になり、水の壁が迫ってきた。
気がつくと寒さを感じ、震えがきた。
上から何かが被さり、身動きできない。網代帆の下敷きになっていた。
「ハンさん、大丈夫ですか?」
目の前に、倒れているハンの顔があった。
「やぁ、カイト君……」
ハンも、意識を取り戻した。
二人は、両手で帆を持ち上げながら身を起こし、座った。
近くにあった木箱二つを支柱にして、テント状の空間を作る。
「どこ?
ここは……」
辺りは、暗闇の世界となっていた。
船のまわりだけボワーと明るい。
音は、まったく聞こえない。
船の外をクラゲが青白い光を発し、点滅しながら漂っている。
魚も目の前を、横切っていく。
「ここって、海の底なんでしょうかねぇ」
「たぶん……」
ハンと、言葉を交わす。
(死んでしまったのかしらん)
甲板前方に、目をやった。
そこには、先ほどと変わらない光景があった。
兵士たちが、真剣な顔つきで弓の弦を弾き鳴らしている。
四方神の護衛兵は、各々が奉ずる神に祈っていた。
炎と煙の上がる祭壇前では、ミーカナが祈祷をおこなっている。
黄色の祭服に身を包み、黄金色の錦の頭帯をしていた。
ハンカチ程度の極薄い白絹を、顔の前に垂らしている。
海士たちは、塑像のように身じろぎ一つしていない。
まるで、お寺のご本尊を取り囲む護法神のようだ。
心を落ち着かせて、グルリと見回す。
目に見えないドームが、覆っているのに気づいた。
大きな泡の中に居る感じである。
(念のバリヤーが、張られているんだ)
アニメかコミックでしか存在しないものだと、思っていた。
トンネル型水族館の中にいるようで、それほど違和感はない。
少しホッとした気分になり、ハンの方を見た。
目と口を大きく見開き、ガタガタ震えている。
「アアアッ――」
指差す先を見た。
カイトも、その場で凍り付いてしまった。
青白い顔をした大勢の人々が、ジリジリと船に近づいてくる。
船の明かりに引き寄せられているような感じだ。
結界の中にまで手を伸ばそうとするが、船の内側へ突っ込んだ腕の先は消えてしまう。
立ち止まり、手をダラリと提げ、ジッと、こちらを見つめている。
苦悶、悲嘆を表す表情――。
ユラユラと海草のように揺れ蠢いて、口をパクパクさせる。
カイトは、たまらず目を閉じた。
(船が、揺れている)
背中に冷水を注ぎこまれたかのような寒気が、襲った。
(ミーカナは……)
恐る恐る顔を上げる。
ミーカナは立ち上がり、炉の灰をつかみ、床に何か描いていた。
「あれは、星綱と言ってね、北斗七星を白灰で描いているんだ。
「禹歩」をやるんだろうね。
邪気悪霊を鎮めて、この場を安定させようとしているんだろうな。
明州に居た頃、道士(道教の修行者)がやっていたのをよく見たよ」
ハンが、横に居た。落ち着きを取り戻したようだ。
ミーカナは、星綱を描き終えた。
出発点に戻り、指を激しく動かしながら、鳥が地面をチョンチョンと跳ぶようにして線をたどっていく。
それを三回繰り返し、またストンと座る。
揺れは、収まった。
次いで小刀を手にし、何か唱えている。
頭の中に、声が響いた。
……天帝神師は、すでに汝らを知る 速やかに三千里を去れ
汝ら ただちに去らざれば 咬竜を遣わして汝らを食わしめん
急如律令(急ぐこと律令のごとくせよ)
ミーカナは、小刀を頭上高く差し挙げてから鋭く振り下げ、切っ先を突きつける。
亡霊たちの顔が歪んだ。後退りしていく。
ミーカナは立ち上がって左足と、小刀を持った左腕を前へ突き出す。
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行(りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・じん・ぎょう)!
(兵たちがお前たちとの闘いに臨むため、みんな前で陣列をそろえ突撃しようとしている)
ひと言発する度に、小刀を左右に振る。
縦に四本、横に五本の直線を格子状に切っていった。
「九字の印!」
ハンは、少し興奮気味に言った。
カイトは、急に激しい疲労を感じた。
呼吸が速くなり、身体が重く、胸がゼーゼーいっている。
「どうしたの?
カイト君。顔色が悪いよ」
ハンが、心配そうに顔をのぞきこんだ。
意識が遠のいていく。
視界も揺れている。
その先に、崩れるように座り込むミーカナの姿が見えた。
頬の痛みで意識が戻った。何回か張られたらしい。
起き上がった。さっきの苦しさは、消えている。
「たぶんミーカナの意識と同調しちゃたんだね」
ホッとした表情でハンが、言った。
ミーカナを目で探す。
床に倒れ込んでいる。
周りを海士たちが囲んで陣を組み、外に向かって銛を構えていた。
兵士たちも、弓に矢をつがえ、船の先をねらっていた。
正面を見た。
「……!」
声にならない声が出た。
亡霊たちが、次々と寄り集まってきた。
直立した赤黒い円柱のようなものへ張り付いていく。
顔だけが、塔の表面に浮かび上がる。
目は赤く輝き、怒りの思念が波動として伝わってくる。
円柱は、集まってくる亡霊たちを次々と吸収し、見る見るうちに巨大化していった。
溶鉱炉から引き出されたばかりの鉄柱となり、溶岩色の身をくねらせ始めた。
先端には、イソギンチャクの触手のようなものが無数に出ており、広がったり閉じたりしていた。
「イワトシガミだ!」
ハンが、叫んだ。
瞬く間に五階建てのビルくらいになった。
身体の上半分を、船の方へ倒してきた。
カイトたちの顔面へ迫ってくる。
「ワアァァ――」
カイトは、ハンに抱きついた。
黒い影のようなものが、船の舳先に立ちふさがった。
(怪獣ガメラだ)
巨大な亀は、ジェット水流を放射している。
不気味な円柱は、水流の勢いに一瞬、グラッとした。
だが、すぐに身を持ち上げる。
青く輝く竜が、巻き付く。
牙をむいた白銀の虎が、飛びかかる。
燃え盛る炎の翼を広げた大きな鳥が、鋭い嘴で頭頂を襲う。
まるで怪獣映画を見ているようだ。
四名の護衛兵が死力を尽くして念じ、守護神を発動させているのだろう。
必死の形相で、印を結んでいる。
額からは玉の汗が、流れ落ちている。
「がんばれ、がんばれ」
カイトは拳を握り締め、声援を送った。
兵士たちも弓を引き、矢を射掛けていた。
ヒュッと放つ。
矢は、たがわず無数の目のいずれかに命中する。
当たったところの目は閉じられる。
だが、全体としては動じる様子もない。
闘いは、一進一退を繰り返した。
玄武が、消滅した。
護衛兵のクロさんの頭が、ガクッと前に落ちる。
次いでシロさんも、後ろへ倒れ込んだ。
白虎の姿がない。
残りの青竜と朱雀も色が薄くなっていき、見えなくなった。
(ああ、もうダメだ)
絶望が、カイトの胸を押し潰した。
イワトシガミの開いた口が眼前に広がり、直腸の内側みたいな内部の皺まで見えた。
触手がバリヤーを突き抜け、甲板上の兵士たちを襲おうと伸びてくる。
そのときだった。
漆黒の天を仰いだカイトの視界の隅に、流星の輝きが入った。
船に向かって、まっすぐにやってくる。
(白サギだ)
流星は間もなく十字となり、すぐに鳥のかたちとなった。
船の上空へ現れた白サギは、祭壇へと突っ込む。
祭壇の炎が、ボワッと吹き上がった。
純白の大打掛をまとったアマミコがいた。
背筋をのばし凛とした姿勢で、歩み出てくる。
祭壇前で倒れているミーカナへ近寄り、スゥーと背中へ吸い込まれていった。
ミーカナが、スクッと立ち上がった。
両目を大きく開いて、イワトシガミと対面する。
「禁!
動くべからず」
手にした小刀をサッと振り下ろし、鋭く叫んだ。
幅広の袖が、飛び立つチョウの羽のようにひらめいた。
イワトシガミは、凍りついたように静止した。
直立したまま両手を合わせ、誦経を始める。
まぶしいくらいの金色の光が、全身から発した。
光は、イワトシガミと船を包み込むほどに広がった。
カイトたちも、すべての物が金に変わってしまったかのような体験をしていた。
「ハンさん、あれはお経なんですか?」
「観音経だね」
「ミーカナって、すごいな」
感心しきったようにカイトは、つぶやいた。
「ふふっ」
何がおかしいのかハンが、含み笑いをした。
声が止み、光が消えた。
イワトシガミが、また動き出した。
触手の付いた先端を持ち上げ、直立の姿勢に戻った。
胴体に散りばめられた亡者の目も、閉じられているようだ。
しかし、イワトシガミ自体が消えたわけではない。
(これから、どうするのだろう?)
ミーカナは、小刀の代わりにクバ扇を手にし、胸に当てたままジッとしている。
何かを待っているようにも見える。
「グルックヮ、グルックヮ、キュー、キュルルル、キュル……」
聞いたことのある声が、頭上から降ってきた。
上を仰ぐ。
ザトウクジラが頭を下にして尾びれを動かし、降るように向かってくる。
「アジャ大王だ!」
カイトは、弾んだ声で言った。
不安になりかけた気持ちが、持ち直した。
アジャ大王は、船の真上に位置した。
大きく口を開き、何かを吐き出した。
シュク(アイゴの幼魚)の群れだった。
小魚たちは、イワトシガミめざして先を争うように泳いでいく。
薄く開かれた目へ、身をくねらせ潜り込んでいった。
「汝らの『母が里』へ、帰るがよい」
ミーカナが、扇を斜め上へサッと振った。
イワトシガミの目が、一斉にカッと見開く。
そこから黄金色に輝くチョウが、光の鱗粉を散らしながら飛び立った。
アジャ大王は悠然と、身をひるがえし海面へと向かう。
すると、チョウたちも群れとなり、その後を追った。
(あのチョウの群れは、怨霊たちが姿を変えたものなんだろうな)
そこまでは、推察がついた。
(あれだけ怒って、暴れていたのに……)
カイトは、ミーカナの方を見た。
力尽きたかのように、肩を落として座り込んでいる。
身体から抜け出たアマミコが、寄り添い立っていた。
姿は、三次元映像を見ているような感じだ。
乗組員が皆、その前で額づいていた。
「アマミコさん!」
「アマミコ様!」
カイトとハンは、同時に声を発した。
網代帆の下から這い出て、駆け寄った。
「両名とも、息災のようだな」
アマミコは、いつもの微笑みを浮かべている。
「……」
カイトは言葉が喉に詰まり、涙だけがポロリとこぼれた。
「さあ、行かねばならぬ」
アマミコは、袖をフワッと振る。
炎がボッと大きくなった。
次の瞬間、炎の向こう側から輝く大きな白サギが出現した。
力強く羽ばたき、飛び去っていく。
意識が、戻った。
まだ頭は、ボンヤリとしている。
悪霊対策も、怠りなく整えてあった。
イワトシガミが出現したときも呪は唱えられたし、所作も正しくおこなえた。
(間違いはなかったはずだ。
だが……)
何かが足らなかったか、または未熟だったのだ。
ミーカナは、唇を噛んだ。
カイトは、イワトシガミがいた場所に目をやった。
一匹のイカリナマコが、コロンと海底に横たわっているだけだった。
「あれが、正体なんですかね?」
拍子抜けしたような気分であった。
「たぶん――。
あれに憑依していたんだろうね」
ハンも、うなずいた。
「私たちも戻りましょう」
立ち上がったミーカナが、みんなに声を掛けた。
「じゃあ、お願い」
片手を挙げ、言った。
「……?」
周りを見渡したが、誰も反応しない。
ハンも、澄ました顔で座ったままだ。
船が、グラリと揺れた。
少しずつ上昇していく。飛行機が離陸するときのような感じだ。
(えっ、どういうこと?)
カイトは、柵の間から下をのぞきこんだ。
五頭のクジラが、船を背中で押し上げている。
しだいに周囲が、明るくなっていく。
ザバアーンと大きな波しぶきをあげ、船は海上に浮かび上がった。
「アジャ大王――。
ありがとう!」
ミーカナが、柵から身を乗り出すようにして思いっきり手を振った。
アジャ大王も、上半身を海面から現して応えた。
クジラたちは、東の海へと去っていった。
船は、ただ海上に浮かんでいた。
空は、よく晴れており、波も静かだ。
水夫たちは、散乱した荷物や道具類を片付けている。
僚船は無事であるようだ。少し先行していたため、運よく難を逃れたらしい。
カイトは、木箱に腰掛けていた。
あの訴えかけるような怨霊たちの表情が、目に焼きついていて消し去れなかった。
背後からポンと肩をたたかれ振り返ると、リンレイがいた。
「元気がないな」
「うん、ちょっとね。
何がどうだったのか、わからなくってさ」
モヤモヤ感が、胸に残っていた。
「ミーカナに聞けば、いいじゃない」
「そうだよね」
カイトは、うなずいた。
「ところで、リンレイは、今までどうしていたの?」
話を変えて、尋ねた。
あの騒動の最中、姿が見えなかったからだ。
「船室で、部族のカミに祈っていた。
でも、あまり心配はしていなかった。
とっても大きな力で、船全体が守られているのを感じていたから」
そこへ当のミーカナが、歩み寄ってきた。
「二人で何か、ご相談?」
「カイトが、ミーカナに聞きたいことがあるんだって」
リンレイは、答える。
カイトは、率直に疑問をぶつけた。
「そうね。
私は最初、怨霊を払うことだけを考えていたの。
でも、払おうとすればするほど、怨霊たちは怒り狂った。
だから、とてもアセった」
ミーカナは、深いタメ息をついた。
「――後で考えたことだけどね」
そう前振りしてから、考えたことを話し始めた。
「怨霊の立場からすれば、自分の不運を嘆いたり、天を呪ったりしているわけでしょ。
そんな霊たちに対して『お前たちは、害をなすものだから去れ!』と言ったって、反感をかうだけだよね」
ミーカナは、しみじみと語り出した。
「怨霊たちだって、好き好んで私たちの船を襲ったわけじゃないと思うの。
この地に呪縛され動けない自分たちと比べて、私たちの船が幸福そうに見えたんじゃないのかな。
イワトシガミが、ときどき島へ上陸するのも、人恋しさのあまりからなんですって――。
怨霊たちの故郷や家族を想う気持ちが高まるとイワトシガミとなって夜の海を泳ぎ渡り、民家の明かりをめざすそうなの」
その狂おしいほどの孤独感が、鳴き(泣き)声として人の心に伝わり、恐怖を感じさせるのではないかという。
「そんな気持ちを癒せるものは……。
他の人から存在を認められ、理解されることしかないのね」
観音経の主旨は、「どんな悪人でも、見捨てない」という「大慈の心」だ。
(現代の東京には、目に見えないイワトシガミが、暴れまくっているかもしれない)
カイトは、東京での暮らしを振り返った。