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第02話 ネココスの少女

 現実から目を背けるように、 臭い物に蓋をするように、見て見ぬ振りをするように、教室から出てそっと扉を閉めた。


 教室ではバッタンバッタンと音がしている。

 何をしているかの想像は容易だったが、深く考えないことにした。

 誰にでも知られたくないことはあるのだ。


 俺は教室から音が無くなり、静かな空気が流れて始めた後、扉を三回ノックする。

 因みに、ノックをする時に二回ノックする人がいるのだが、それはトイレをノックする時らしいから気をつけるように。


「どうぞ」 と返答が来たあと、扉を開ける。


 その教室では、先ほどネコのコスプレをしていた少女が何事もなかったかのように座って本を読んでいた。


「・・・えーっと」


 話しかけようとした俺の事を少女はゴミでも見るような目で見る。 切れ長の目をこちらに向け、低く冷たい声を漏らす。


「殺すわよ?」


 うへぇ。 何今の目、野生のライオン?

 先生と言い、この少女と言い、この学校には肉食動物の目を持つ人多すぎだろ。

 何、けものフレ○ズのホラーバージョンなの?


 その少女の口から発せられた言葉をあまり理解しないように適当な事を頭で考える。


 そんな俺の考えを見抜いたのか、少し息を吐くとその少女は再び口を開いた。


「今、見た事を誰かに喋ったら殺す。ってことよ」


「安心しろ、俺にはそんなくだらないことを話すような友達はいない」


 というか、真面目な話をするような友達も居ないんだけどね。 と言う自虐してると普通に死にたくなる。


「驚いた。 ぼっちですよって宣言をそこまで爽やかに高らかに自慢気に出来るなんて凄いわね」


 ライオンのような目から心底馬鹿にしたような目に変わり、ふっ と鼻で笑われた。


「悪かったな、ぼっちで」


「誰も悪いなんて言ってないわ。

 それで、何の用かしら? 私の姿を見るためだけにここまで来たのならストーカーとして警察に突き出そうと思うのだけれど」


 少女の手元を見ると、カッターナイフとスマホが握られていて、スマホには既に 110 と電話入力されていた。

 いや、それマジでシャレにならないから。


「違うから。 なんで名前すら知らない相手をストーキングしにゃならんのだ」


 その少女は一瞬だけ『え?違うの?』と言わんばかりの驚いた表情を見せる。

 確かに顔は可愛いと思う。 けどその自信過剰、自意識過剰なのは俺でもちょっと引く。


「・・・それで、何の用なのかしら?」


 なんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情けって言うけど俺が聞いても大体のことが答えてもらえないんだよな。


「先生にこれを持って行けって言われたんだよ」


 俺が先生に渡された封筒を少女に渡すと、少女は持っていたカッターナイフで乱雑に封筒を縦に引き裂いた。


「何かしら? こっちをその死んだ目で見ないでくれる? 悪寒が走るのだけれど」


 え、俺って目死んでるの?それと、悪寒が走る は間違ってるからな。 正しくは 悪寒がする だ。




 少女は封筒の中の紙を読み終わると、汚物でも見る目でこちらを見る。

 本当にその目をやめてくれ。 人生そのものを悲観したくなる。


「あなた・・・相当気持ち悪いわね」


 真顔で淡々と言われたその暴言に傷つけられた。


『バッカじゃないの?やめてよね! ホント気持ち悪い! 』みたいなツンデレ混じりで言われてみたいな〜 と現実逃避するくらい傷ついていた。


「何がだよ。いきなり感想だけを述べられても腑に落ちねぇ」


 少女はこちらを一瞥すると、所々切れている紙を渡して来た。

 封筒の中身ごと切り裂くほど、この少女は不器用なようだ。


 [私、日比野 翔はリア充の存在意義に疑問を持ったので、リア充について学びたいと思います。

 なので俺をリア充にしてください]



「うっわ、痛々しい」


 こんな物を書く奴ってどうなんだよ?品性を疑うね。

 あ、俺の担任か。


「よく分かっているじゃない。

 いい? 一時の感情だけで行動をすると後悔する という事がよく分かったでしょ?」


 とことん馬鹿にして心底蔑むような目で見てくる。

『死ね、キモい、失せろ』って感じですか、そうですか。


「いや、ネコのコスプレしてたお前にゃ言われたくねーよ。 あと、それ書いたの先生だから」


「そう、分かったわ。この依頼、承りましょう」


 艶やかな黒髪を掻き上げ、切り込みが入っている紙を俺から奪い取り、ズタズタに引き裂かれた封筒にしまう。 いや、それ仕舞う意味ないから。誰がどう見ても紙クズだから。


「いや、承らなくていいから。 そもそも俺はリア充になることなんて望んでないから」


「何を言っているの? 私は先生のお願いを承ったのよ。あなたに請願権も拒否権も人権もないわ」


 少女は席を立ち上がり、シワを伸ばすように制服をはたく。 女子のこういう行動は少しエロくて、うっかり惚れそうになるから本当にやめてくれ。

 あと、人権くらいよこせ。


「じゃあ、行くわよ」


 少女は俺の横を通り過ぎ、何処かへ歩いて行った。


 その後、俺は帰宅した。



 教室に女子と2人っきり、さらに俺はその女子の秘密を知ってしまう。

 そんなラブコメのような展開になっても、ラブコメになることは無いのだ。

 フラグを立てても回収はされない。ハッピーエンドで万歳三唱、おててを繋いでみんな幸せ、とはならないのだ。

 期待させておいて、その期待を裏切る

 そんな事は日常茶飯事だ。

 それを青春、とのたまうリア充はやっぱり爆ぜるべき。

 異論も反論も認めん。


 へっ、汚ねぇ花火だぜ。





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