第01話 プロローグ
突然だが、世間一般的に言われている『青春』は間違っている。 というより、嘘っぱちだ。
顔も性格も良い彼女と一緒にイオンやららぽーとで制服デートをしたり、女友達の紹介で他校の可愛い女の子と食事に行って付き合ったりと 思いがけない転校生と仲良くなったり、ゲームセンターで彼女の欲しがるぬいぐるみをクレーンゲームで取ってあげたり、そんな物は存在しない。
全部フィクション、作り物だ。
その嘘っぱちに魅せられた者たちは、どんなにキツイ部活も、悪い成績も、失恋の経験も、青春の為の糧としか思っていないのだ。
男同士で集まり、ゲームセンターでコインゲームをひたすらやり、フードコートやファミレスで人や学校の悪口を言い、リア充を見つけては爆発しろ と言う。
そんな俺の中学時代こそが、本当の青春だ。
青春ラブコメのような展開があるようなフィクションは青春ではないのだ。
つまり、焦燥感や劣等感に嫉妬、それらの感情こそ本物の青春を色濃く彩るスパイスなのだ。
数少ない友達とお別れになってしまうのは辛かった。何故なら、それらの経験が楽しくいい思い出だったと言えるからだ。
嘘だ。 大嘘だ。 そんなものはいい思い出でも何でもない。 砕け散れ。
俺だって制服デートもしてみたかったし、転校生と仲良くなって恋愛だってしてみたかった。
そんなのは存在しないし、期待出来ても、それは作り物だということを知ってしまった。
そして、その経験則から言えることがある。
全ての学校、全ての学校生活において、青春ラブコメな展開はない。
以上である。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
友達とは、傷を舐め合い、慰め合うためだけの存在である。
ソースは俺。 かつての俺が友達だと思っていた存在がそうであった。
そんな存在は学校が変われば関係は全部リセット。
かのゲームで、セーブをせずに電源を切った後に出てくる、もぐらのおっさんが怒るより早く関係は消えて無くなる。
小学校の時に仲良くなった友達としかつるんでいなかった俺は、中学3年間で1人も友達を作っていない。
まあ、作る必要もなかったから。と言い訳でもしておこう。
そんな俺が高校生になって、何ができる?
もちろん、ぼっちな学校生活だ。
中学3年間、友達を一切作ることのできなかった俺に、高校に入ってから友達を作れ と言われて 友達が作れるか? 否、無理に決まっている。
そんな俺の学校生活は至極単純だ。
登校する、空気になる、授業を受ける、帰る。
な? 単純だろ?
あ、空気になる以前に空気同然だったわ。
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「はあ、君はこれからどうするつもりだね?」
ため息をつきながら呆れた目でこちらを見るのは進路指導 兼 俺のクラスの担任の教師、植村 楓だ。
「さあ? 未来のことを決められるなら人生は苦労しないので」
「屁理屈をいうな。 私は未来のことではなく過去に君がしでかしてくれた失敗を問いただしているのだ」
そう言えば、中学時代の知り合いがロングヘアーの女教師は独り身説 って説を打ち立ててたな。
この数学教師はどうなのだろう?
腰まである長く艶のある黒髪、凄く美人とは言わないが美人な顔。
そして何より仕草がセクシーでエロい。
この容姿で独身貴族を気取ることになるならば、多分腐ってるな。 主に先生の性格が。
そんなことを考えてニヤニヤしながら先生を見ていると、丸めたプリントで叩かれた。
「人の話をちゃんと聞きたまえ」
「は、はぁ」
「それで、どうするつもりだ?」
「何のことですかね? 俺、なにもした覚えないんですけど・・・」
先生が丸めていたプリントをこちらに見せて、頭が痛そうに手を添える。
数学 12点
数学 14点
数学 32点
この先生が2学期の期末考査と3学期の中間考査と期末考査の数学のテストの結果を控えていたことに驚きだ。 というより気持ちが悪い。 ストーカーなの?
「この結果を踏まえて君はどう思うのだね?」
「さ、さあ?」
そう言えば、この人って数学教師だったな。
どちらにしろ俺にストーカーみたいな行為をするなんて、俺にもモテ期が来たのか!?
………と現実から目を背け、先生の顔からも目を背けた。
「・・・・はあ。 君は人の話を聞くのが苦手なのか? さっきから上の空になっているぞ?」
仕方ないだろう。この約1年、いや中学の3年間を合わせると約4年間 6回以上話した人間は、親と妹と、中学の時の『友達』といえる存在の2人だけだ。
身内と内輪 としか会話をしていないのだ、人の話を聞く能力が劣っていてもおかしくない。
「惜しいですね。 聞くのだけでなく話すのも苦手です。 さらに言えば数学はもっと苦手です」
「開き直るな、全く。 そんな性格で君には友達が居るのか?」
友達が居ないことを前提で話を進めるのかよ。
「まずは、友達と知り合いの線引きを定義してもらいたいですね」
いやほら、自分が友達だと思っていても相手が思っていないなんて良くあることだし。
ソースは俺。
「じゃあ彼女は………居るわけないか」
友達も彼女も居ない前提で話をされる俺、可哀想。
事実なんだけどさ。 はあ、泣きたい。
「そうですね。リア充は全て撃滅してしまえ とさえ思ってるので」
本心をためらわずに言ったら再びプリントで叩かれた。
「その意見に同意はするが、君は高校生だ。 そんなネガティブ思考では疲れてしまうぞ?」
「ネガティブ思考 というより、『世間様に迷惑を掛けない努力』と言って欲しいですね」
「ほお? どういうことか言ってみろ」
この先生は中途半端で分かりにくいことを言えばすぐに食いついてくる。 飢えた魚かよ。
「リア充というのは大体が友達と呼ばれる取り巻きが居るなり、彼女がいるなりします」
「まあ、概ね合ってるな。続けたまえ」
「その関係のほとんどが上辺だけの付き合いで、少しの考え方の違いだけで破綻するような繋がりです」
「・・・・」
「その破綻した後を先生は知ってますか?
まず、一緒の空間にいると気まずい空気になる。そして、目があっただけで険悪な雰囲気になって場の空気を悪くするんですよ」
「・・・・はぁ」
「で、破綻しなかったとしても人目をはばからずイチャコライチャコラする連中もその場の空気を悪くするんです。
つまり、リア充はリア充である時でも迷惑をかけて、非リア充になってからも迷惑をかけるんです。
だからリア充は悪であり……って先生?」
先生は体の向きを机の方に向けて熱心に何かを書き始めた。
人に話を聞くのが苦手とか言っておきながら自分も苦手なんじゃねぇのか?
「君には呆れて言葉も出てこないな。 中学時代に何があったらそこまで捻くれた人間が出来上がるのか不思議でたまらないな」
ため息まじりに俺のリア充に対する偏見と嫉妬の入り混じった意見に対する評価をしてくださった。
後半は俺に対しての評価にしか聞こえなかったが。
「ほら、これを持って特別棟の3階、旧被服室に行きたまえ」
先生が先ほど書いていた紙を封筒に包み、俺に渡してきた。
それを素直に受け取ると、進路指導室を無理やり追い出され、『絶対に中を見るなよ』と後押しされた。
無駄にカッコよくて なまじ美人な所為で睨みつけられると目力が凄くて圧倒されてしまう。
つか、超怖い。 何、野生の虎なの?
この高校は特別棟と呼ばれる校舎がある。
その校舎の3階と4階の役目は既に終わり、そこの階層にある特別教室は新校舎に移されたのだ。
だから人が寄り付かない。 気味が悪いしな。
ぼっち飯には最適なポジションだ。
基本的に気味が悪くても俺は気にしない。 そもそもオカルト系なんて信じてないうえ、たとえ幽霊が出たとしても、幽霊は元人間だ。
『あ、あいつに話しかけるのはやめておこう』みたいなこと考えて俺に声すらかけないだろう。
考えてて悲しくなるな、これ。
見るな、と言われると見たくなってしまうのが人間という生き物なのだ。
だから鶴の恩返しでも女風呂でもR18コーナーでも覗きたくなってしまう。
しかし、リスクリターンを図る能力が長けている俺はそんな事しない。
先生にバレたら即死だし。
というか、成績のことで呼び出しくらったのになんでこんな物を渡されて旧被服室に向かってるんだろ?
まあいいや。 楽だし。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
特別棟は静まり返り、ひんやりとした空気が漂っていた。
旧被服室は3階の1番奥の教室だ。
その教室に近づくにつれて、気味の悪さがドンドン増えていく。
そんな事を気にするような俺ではない。
こんな事を気にするようでは、ぼっちを哀れむような視線に耐えれないからな。
ぼっちを極める上で必須のスキルだ。
旧被服室の前まで来て、扉に手を掛ける。
ふう と一呼吸を置いてから扉をからりと開ける。
その教室には、電子ケトルやテレビ、ソファーなど、完全に私物化されていた。
そしてその教室の真ん中には、ネコミミと尻尾を付けた黒髪の少女がいた。
色々と混乱した俺は・・・・・・
———取り敢えず、扉を閉めて見なかったことにした。
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