恋を知らぬ女
「私には恋がどのようなものかわからないの。だから、恋をしたことがあるかも分からないの。」
夜涼みをしている時に女は呟くように言った。
男は彼女に男がないことに安心する一方で、彼女がどのような意図でそう言ったのかが分からなかった。
「個人差はあると思いますが…俺の場合は相手の一言一言に一喜一憂したり、大切にしてやりたいと思ったり…ですかね」
男は自嘲気味に女に話す。
「そう…では私はきっと恋をしたことがないのかもしれませんね…いえね、知り合いから恋とは良いものだと聞かされましてね、そんなに良いものなら私もしてみたいと思ったのですが…難しいものなのですね」
女は少し笑んだ、男は彼女のこの表情がとてもすきであった。
「じゃあ俺に恋してくださいよ。そうすれば恋がどういうものかもわかるでしょう。」
くだけた調子で男は言った。
今までこのような話をした事がない彼女に告白するには良い機会であるが、仲が良い彼女と気まずくはなりたくはなかった。
「では…恋をするよう善処いたしましょう」
「善処ですか。あなたらしいっちゃあなたらしいですが。俺はまずあなたに恋をさせないといけませんな」
男がそう言い笑った。