夢日記 仄暗い空の街
こんな夢を見た。
いつも厚い雲におおわれ、仄暗くて寂れた饐えた臭いの空気が漂う街で俺は生まれ育った。
夢や実力があり、それを叶えるための金と運を持っているような奴は、高校を卒業すると出ていってしまい、二度と帰ってこないような終わった街だ。
俺は中学を卒業すると同時に働き始めた。
そこは岩城自動車という車の修理工場であり、印刷工場だった。
俺はそこの印刷工場で印刷機を動かしている。
手取り12万の安月給。
それで、両親と兄弟5人を養っていた。
「あなたを注目しているのです」
そう言って俺に近づいてきたのは、街で急速に勢力を伸ばしている慈善組織「蒼の焔」だった。
メンバーは青い帽子と、ツナギが特徴で、街中のゴミ拾いなどをしているが、悪い噂も絶えない連中だ。
「なんで俺なんかに声をかけるんですか? 何も取り柄も学歴も無い人間ですよ?」
正直、俺はあまり関わりたくなかった。
仕事場に押し掛けてきた斎藤と名乗る「蒼の焔」の団員に、俺は迷惑そうな顔で答えた。
「ぜひ、鰤鰤さんにもわれわれの活動に参加して欲しいのです」
斎藤は目を輝かせて言う。
「迷惑なんですよ。さっさと帰ってください。俺には仕事があるんです」
そう言って、俺は印刷機を動かし始めた。
「危ないから、早く出ていってください」
そう言うと斎藤はまた来ますからと言い残して出ていった。
しかし、斎藤は俺にそれから付きまとうようになる。
ストーカーのように。
俺はそれ以来、ツキが無くなった。
元々、ツキなどこの街に産まれた時点で無いようなものだったのだが、それ以上に悪化した。
仕事中に腕を骨折し、家が火事になり家族が焼死。
天涯孤独となった。
斎藤はそんな俺に付きまとう。
「いい加減にしろ!! お前に付きまとわれて以来、俺の生活はメタクチャだ」
俺は片手で斎藤の襟首を掴みながら言った。
「そんな事は無いじゃないですか。仕事中の怪我で労災が降り、家族はいなくなって扶養の必要は無くなった。残りの人生はあなただけのものです」
斎藤は笑顔でそう言う。
俺は斎藤を殴り倒した。
「どうした?」
騒動を聞き付けて、社長の岩城が出てきた。
岩城社長は倒れている斎藤の顔を蹴りあげると、こいつがお前に付きまとっているストーカーだなと言い、俺がそうだと答えると、後は任せろと言い、斎藤を引きづり起こすと工場の中につれていった。
工場の中から悲鳴。
俺も中にはいると自動車の修理工場の方で、血まみれの斎藤が倒れて死んでいた。
「これが家の裏家業でもあるんだけどな」
岩城社長はそう言って、酸を入れた浴槽に斎藤を入れると、物凄い勢いで肉が溶けていく。
「一件落着」
斎藤が完全に溶けると、岩城社長はそう言った。
それ以来、俺は岩城社長の裏家業も手伝うようになった。
今日も夜から二人ほど片付ける。
俺は目覚めて少し陰鬱な気分になりながら布団の中から這いずり出る。
そのとき布団がベトベトした液体で濡れていることに気がついた。
「なんじゃ、こりゃ?」
見ると部屋の畳も液体で濡れていることに気づく。
触って見ると、どうやら水では無いらしく、とても生臭い。
突然液体が湧き上がり、人形となって呟いた。
「酷いな。鰤鰤さん。でも、私は諦めませんから」
斎藤の声だった。