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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
6章 箱庭世界のリターナー
98/122

打つ手なし

 絶望しかない冬杜の顔。


 ああ、うん。

 馬鹿だ、こいつ。


 屍山血河?

 その死に、屍に、冬杜はどんな責任があるんだ?

 何も無いだろうがよ?


「なんでそんなどうでもいい(・・・・・・)ことに絶望するんだ?」


 だから気になった言葉がそのまま口を吐いて出た。


「冬杜が何かしても戦争を防げなかったとして。

 その決断をしたのは冬杜じゃないだろ? これから戦争が起きるって言っても、それは戦争を決断した奴の責任だろうに。

 なんでわざわざ、冬杜が背負うんだ?」


 これが疑問なんだよ。

 戦争が起こって欲しくない事は理解した。共感もできる。


「戦争が起きるっていうなら、最終手段を使えばいいだろうに。簡単じゃね?」


 宣戦布告がリアルタイムのライブ映像なら、宣戦布告直後に大統領なり首相なり、ライブ映像中にぶち殺せば済む話だろうに。

 それでも戦争をしたいなら、その国の政治家を皆殺しにすればいいだけだろ? たぶん半分も殺さないうちに戦争が終わるぞ? それで駄目なら≪メテオストライク≫連発するだけだな。国一つ全滅させる必要があるかどうかは知らないが。一国ぐらいなら、見せしめにするのもいい手段だな。


 たかが(・・・)その程度(・・・・)、出来ない筈も無かろうに。


「完璧を求めすぎなんだよ、冬杜は。

 戦争が起こるなら、起こしてしまえばいい。そのうえで被害を最小限に抑える。

 風評被害は横に置いて、人的被害は相手にだけ押し付ける。それでいいだろう?」


 戦後の苦労?

 俺は政治家じゃないからな。それは専門家に任せるさ。

 恐怖政治?

 いいえ、これはただの反撃です。





「ふざけんなぁっ!!」

「うぉっ!?」


 俺としては当然のことを言ったつもりだが、冬杜が激昂した。胸ぐらを掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。


「落ち着け。お前の言った“屍山血河は”防げるだろうが!」

「それを、防げるとは、言わねぇンだよ!! 結局死ぬ奴が大勢出るの! 戦中じゃなくて、戦後に! テロリストが、アタシらのいないところで、自爆テロすんのよ!

 ちったぁ考えろ、このバカヤロウ!!」


 おおぅ。

 確かにそれは防げないな。


「一回は諦めて、ゾンビ化を刑罰にするとか? ほれ、ああいった連中って死んで終われば満足って話を聞くし。だったら死んでも死ねないアンデッドにしてやれば諦めないか?」

「国民感情考えろよ!? やったら日本の評価が最悪になる!! それで終わるならアタシがやってるわよ!?」

「あ、考えたんだ」


 何百回、何を考えたか分からないが、この程度は冬杜の方で想定済みだったか。

 それなら、アレはいけるか?


「日本から他国を排除するか? 超大規模結界、必要なら組むけど?」

「それもっ、考えたわよ!! 閉塞感に負けて開国して、戦争になるか! それともそのまま自滅するか! アタシを舐めんな!!」


 やっぱ、他国を物理的に消去するか? 大日本帝国再び、じゃなくて。「地球から日本以外が消えましたが何か?」とか。


「じゃあさ、俺が魔王やるか?

 人類VS魔王・俺。これなら――」

「日本が裏で手ぇ引いてるって、結局攻められる!!」


 駄目か。


「ノース村を独立国家にして、日本以外と取引しないって異世界側から言い出す案も没。考えてたっしょ」

「……切り札(ジョーカー)をいきなり封じられたか。つーか、気が付いてたんだ」


 ノース村は()王国領だけど。今は王国の統治を受けていないんだよな。

 だから国と言っても問題なく、国家の決定、国交の問題で余所の国を排除する方向で動きたかったんだけど。

 これは困ったな。



 って、ああ。

 そう言えば、これは冬杜にも言ってなかったな。


「宇宙開発を餌にするのは?」

「は?」

「だからさ、宇宙開発。軌道エレベーター建造に素材増殖とか資金提供とか。そのあとは月のテラフォーミングだな。いろいろ手を出すつもりだったけどさ。それは考えたか?」

「へ?」

「フロンティアは一つじゃないって話だ。少し()ファンタジー()な話を考えていたんだけどな」


 異世界産業って、何が換金できるかって話を総理としてたんだよな。

 希少生物コレクションで荒稼ぎとかも考えたんだけど、出回る量をコントロールするにしても情報不足で売れない可能性を指摘された。

 金銀を出回らせるにしても、限界があるし。レアアースとか、今更増やす気にもならない。つか、どれだけの市場規模か知らないけど、すぐに頭打ちになるって言われた。

 いっそのこと、春香や八峰(やつみね)さん――シム系ギフトの人だ――を派遣して、海外のインフラ整備で無双することも考えたんだけど、それでも信用を得て味方を増やすのは難しいと言われた。金で解決する話だし、金で解決するなら戦争なんてしないと言われた。


 じゃあって話で、もっと夢があって、大衆でも想像できる大きな事ってなんだろうって話になった。

 生活を一変するっていうなら航空機に変わる移動手段としてテレポート施設を作れないかって話をされたけど、それって俺がいないと使えないし? 意味が無いんだよな、俺頼みでは。

 某魔法先生じゃあるまいし、魔法を日本に持ち込む気はない。回復魔法だけなら、とか甘いことを言う気だってない。


 そしたら首相が「いっそ、ガ○ダムでも作るか? オタク大国の本領発揮だろう」などと言いだした。

 それなら、と、スペースコロニー、月面都市、軌道エレベーター、巨大太陽光発電施設、恒星間移民船、テラフォーミングプロジェクトなどと、宇宙事業の計画が次々と立案され、俺の協力でどの程度実現可能になるかを試算してもらっている。



「そうね、それは試してなかったわ!」


 腐りかけていた冬杜の全身に活気が満ちていく。ようやく見つけた未知に希望を見出したようだ。

 それならばと、目を輝かせ、前倒しになる宇宙産業がどのような結末になるか『未来予知』を使い。


「……駄目。戦争になる……。しかも、過去最悪の」

「あちゃー」


 直接利権に関われるということで、争いが激化するまでの期間が過去最短になるらしい。主に、どこでも自分の物にしたがる某人口最大国家の所為で。


 そうか。これも駄目か。

 二枚目の切り札、それも駄目出しされた俺は覚悟を決める事にした。


「よし、諦めよう!」


 やってきた事は変えられない。

 戦争は起きる。

 戦争を防いでもテロは防げない。鬼畜行為による恐怖支配は味方がいなくなる。

 だったらもう。


「なるようになる。多大な被害は気にするな!」


 拳を握り、ニヤリと笑い、力強くそう宣言した。

 だって、出来ない事は出来ないだろ。


 冬杜が魂の抜けたような顔をしたけど、打てる手が無いなら周囲と情報共有をして被害を減らす方向で動くしかないと思うんだ。

 だから色々と、諦めよう。





 しかし、未来って本当に変えられるものなのかね?

 口にはしないが、元々地球で戦争が起こるルートだったんじゃないかと思う訳だ、俺は。そして歴史の修正力とやらで元の戦争ルートに戻ろうとしているように感じる。

 一部でも変えてきた事実が冬杜の目を曇らせてるだけで、実は大きく変わっていないとか。


 逆説的に、「個人が歴史に与える影響の小ささ」を示している可能性もあるけどな。

 歴史を変える奴が決まっているという可能性も否定しきれないが。とにかく、俺や冬杜は「今度の戦争において無力」でしかないわけだ。

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