未来視のお告げ
『未来予知』。
未来を予め知る、この手の能力は様々な物語で扱われ、その能力の詳細は多岐にわたる。
だが、大きくは二つに分かれる。
変えられる未来を見る能力と、変えられない未来を見る能力だ。
冬杜の場合は、もちろん変えられる未来を見る能力である。
「いったい、いつからだ?」
「初日の、馬車で移動して、襲われた時よ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。そんなことを考えてたら、ね。
たぶんだけど、どうにかして周りの事を知ろうとしたから未来予知のギフトに思い至ったんだと思う」
一度は激昂してみせた冬杜だが、叫んだことで落ち着いたようだ。憑き物が落ちたように脱力している。
そして当時のことを思い出すように、ポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。
「焦ったわよ。四方堂に見捨てられたら死ぬ未来しかなかったし、当のアンタは何もしなきゃ、確実にアタシたちを見捨ててた。
頭下げて、体を差し出して。どうにかして繋ぎとめようとして。
……やってたことは、あんまり上手くなかったけどね。それでもあの時までは何とかなったのよ」
未来が見える事と、正解を選べることは全然違う。
冬杜は「不正解を知る」ことができても「望んだ未来への道筋」を知る事が出来なかった。
だからどこかおかしい行動を選ぶこともあったわけか。
しかし、気になる事がいくつかある。
「俺の方でみんなの能力を調べれるんだけど、冬杜のギフトが分からなかったのは?」
「さぁ? アタシが知るわけないじゃん。ゲームの能力だし、なんか制限でもあるんじゃない?」
謎は謎のままか。
気を取り直し、続きを促す。
「村をどうにかして、みんな合流して。
このままでいいって思ってたけど、帰りたかったのも嘘じゃない。だから、村を大きくするために奴隷を買いに行くのも賛成したし」
そう言えば、冬杜は反対しなかったな。
「ただ、アンタに任せてたらあの街と戦争になったみたいだから手ぇ出させてもらったけど」
「あー。俺たちだけだと、失敗したって事か?」
「そう。あの時の四方堂って喧嘩腰だったし。話し合いになる前に殺し合いしかしなかったわ」
まぁ、言われても仕方がない。
あの時は殺し合いを前提に行動していたからな。
「って事は、皇王竜の件も? 放置は拙かったとか?」
「そ。放置した場合、国のいくつかと、ノース村が消えてたわ。被害が出る前に潰さなきゃ、出さずに済む被害なら、なんとかしたいと思うのは当然っしょ?」
大枠では、間違ったことを言っていない。
助けられるなら、助けてもいいと思う。
でもなぁ。
全てを助けられる訳、無いだろう?
それができるのは、世界を滅ぼす破壊神ぐらいじゃないか?
唯一神、絶対神、主神、大神、国主神。
人を治める側の神が完璧だった事は無い。神々でさえ、いつだって失敗してきた。
破壊と再生を繰り返し、疑似的な永遠を作る事で偽りの救済を、あたかも完璧な統治に見せかける。
神の似姿でしかない人間に、それ以上ができるはずがないだろう?
「まぁ、助けたいって言うのは人情だよな」
とはいえ、それをここで口にする意味はない。
ただの一般論でお茶を濁す。
「それでも、上手くいかない」
でも、それは冬杜の望んだ答えじゃなかったのか。一度は落ち着いたと思った冬杜の顔が苦痛にゆがむ。
「何回も繰り返した。10回、20回と回数を重ねて。100回を超えた頃から、もう数えたくも無くなった。
繰り返すたびに絶望を見せつけられて。それでも足掻いた。みんなにも説明した事もあったのよ。でも、結果が悪くなることがあっても良くなった事は一度も無い。みんなが早く死ぬようになるだけ。
ふふふ、知ってる? もうすぐ戦争になる。日本はヨーロッパ圏から宣戦布告を受けて第三次世界大戦が始まる。それを防いでも、異世界と日本の戦争が起きる。日本は宣戦布告なんてしないけど、宣戦布告されない訳じゃないの。で、また世界大戦なのよ?
どうにかしたかったけど、それをやっても無駄だと予め知って。考えて考えて考えて。打てる手は全部無駄で。結局1年以内に戦争が始まる。たとえあんたをここで殺してもそれは変わらない。
もうすぐ、大勢死ぬわ。私じゃあ、止められない」
戦争?
止められない?
詰んだって、その事か。
「何をやっても手遅れ。
どこをどうやっても戦争が起きるわ」
冬杜の表情が一変した。
苦痛に歪んだその顔が、清々しいほどの笑顔になった。
「これから大勢の人が死ぬ。屍山血河って知ってる? これがアンタの望んだ結末よ、四方堂」
ただし。
その目の映るのは。
どこまでも暗い、絶望に満ちた呪いでしかなかった。




