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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
1章 召喚世界のゲーマーズ
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状況確認

 美味しくない夕飯だったが空腹も手伝い、女子は貪るように麦粥を食べていた。

 あまり食べないだろうとタカを括っていたのだが、全く足りないと目で訴えかけられたので追加でシュークリームとコーヒーを提供する。


 『ポケット』からビニール袋を人数分取りだし、コーヒーとシュークリームをみんなに配る。

 みんな、女子連中はというと、誰もシュークリームや缶コーヒーに手を付けず、出された物を凝視するだけだ。

 はて? なんでだ? 冬杜さんも固まったままで、完全にフリーズしている。


「シュークリームは食べて大丈夫だぞ? ああ、コーヒーが苦手な奴でもいたか?」


 俺は声をかけてみるけど、全員固まったままだ。

 もっと食べたいと目で訴えてきたから渡したんだけどな。


 女子が再起動するまで手持無沙汰だし、先ほど作った麦醤油を空き缶――もちろん洗浄済み――に移し、「ストレージ」にしまっておく。

 蓋が無くてもこぼれない。とても助かる。


 なお、女子の再起動には5分ほどかかった。





 女子を引き受けることにした俺は、とりあえず全員、自軍に引き込むことにした。

 編成画面でいろいろできれば管理がしやすくなるし、何よりも戦闘能力を与える事が出来るというのが大きい。役立たずはいらないのだ。

 だから俺は自分の能力の一端を明かし、今後の方針について説明することにした。


 まずはデモンストレーション。

 上を指さしアクションスキル『魔導』の≪ファイア≫を使う。

 指先に直径1mぐらいの魔法陣が現れ、火の玉を放つ。天に放たれた火の玉は20mかそこらまで上ると掻き消える。


「見ての通り、俺もゲームの能力を持っている。今みたいに『魔導』――魔法の方が分かりやすいか? とにかく、普通じゃできないことができる。他にもあいつらの言葉が分かるようになるスキルとか、いろいろとできる。

 特に便利なスキルに『ポケット』っていうスキルがあるんだが、これを覚えると何もない場所から物を取りだすことができる。逆にしまう事も可能だ。ゲームで荷物をどこに仕舞っているんだろうって思った事はあるか? ……って、ゲームをやってない奴ばっかりだったな。某青タヌキの4次元ポケットと同じと思ってくれていい。

 で、だ。

 俺の場合、仕舞った物を無限に増やすことができる。

 今のところはシュークリームと缶コーヒーの入った袋と、スマホと充電器のセット、食料と雑貨の入ったコンテナを増やせるようにしてある」


 今度はスマホと充電器を取りだし、8個ほど並べてみる。

 シュークリームや缶コーヒーを見比べても、本当に同じかどうかは分からない。だが、スマホなら内部データが全く同じという事がない。シリアルを見比べてみればアイテム増殖の証明になる。


 俺は説明をいったん区切り、みんなの顔を見る。

 とりあえず全員が食べ終わるのを待って状況確認に入った。





「じゃあ、状況を整理しよう」


 これからの事を考えるなら、まずは全員が現状の認識を共有すべきだ。

 細かい結論・方針は人によって異なるかもしれないが、認識が共有されていれば摺合せも簡単になる。


・ 日本に帰る事が最終的な目標


 これは全員が肯いてくれた。


・ 王都に連れて行かれたクラスメイトとの合流

・ 王都にいる連中から帰る方法を聞き出す


 ここも異論はないようだ。

 その為にするべきこととして、


・ 全員の生存能力の向上(レベル上げとスキルの習得)

・ 生活拠点の確保


 これぐらいはしないといけない。

 が、ここで異論というか、疑問が出てきたようだ。夏奈が口を開いた。


「生存能力の向上って言われても、何をやるの?」

「俺の能力『編成画面』の話になるんだけど、みんなを俺のチームに編入して、レベル上げをしてもらう。

 レベルが上がれば死ににくくなるし、その途中でスキルを覚えてもらえばさっき俺がやったみたいなこと、魔法が使えるようになったりする。

 怪我をしても魔法で治せる。敵が襲ってきてもスキルで迎撃できる。実際戦わなきゃいけないかは横に置くけど、戦えるようになって損はない」

「私には、その「レベルが上がると死ににくくなる」っていうのが分からないかなー?」

「ゲームの話になるんだけど、HPっていうパラメータがあって、それが0になると死ぬって奴なんだけど。

 レベルが上がると、HPが増えて同じダメージを負っても死ににくくなるんだ。それに防御力が上がれば同じ威力の攻撃をくらってもダメージそのものが減る。

 とにかく、「レベルが上がると生き残りやすくなる」とだけ分かってもらえればいい」

「人間、首を切られたら死ぬよ?」

「HPが低いと簡単に刃物が肌を通るけど、HPが上がれば傷が深くならなくなる、かもしれない。

 悪いけど、そこは検証できない世界だから。一回実戦を経験してみた感想だけを言うなら、HPが低い奴ほど簡単に死ぬのは間違いない」

「怪我をしにくくなるって事?」

「ああ。“かもしれない”ってだけでも、やる価値はあるだろ」

「うん」


 生活拠点が欲しいというのは全員の共通した意見なので、こちらについては反対意見は出なかった。

 一所に落ち着いた場合、襲撃される危険がある。

 しかし、やっぱり家に住みたいというのが日本人の考え方だ。というより、馬車で生活するのはいろいろと問題がある。特に()がいるのだし。


 あと、他に言っておくこととして


・ 物資の確認


をしておこうと思う。


「物資?」

「食料や服なんかの雑貨だな。増やせるとはいっても、何があるか把握しておくのは大事だろ」


 襲撃してきたあの騎士たちから装備品を、拠点にしていた場所から食料や食器に調理器具といった雑貨を手に入れた。他にも銅貨と銀貨を何枚かと、貨幣を幾ばかりか手に入れた。

 回収した俺は何があるのかを知っているが、みんなは知らない。

 何があるのか知らなければ、何があるかを要求できない。そのため、今この場で確認しておこうと思うのだ。

 そして。


「で、だな。言いにくいが、絶対に今やっておくことがある」

「?」

「脱げ」

「はぁっ!?」


 言い間違えた。


「みんなの服を、複製できるようにしておきたい。せっかくの日本からの持ち込み品だ、使い潰してお終いじゃあ、勿体無いだろ」

「……」

「俺の『ポケット』の容量は10枠。むやみやたらに増やすことはできないし、今後のために調味料や食料、アルコールの類も増やしたいから、みんなの私物と衣類はコンテナを使って1枠に収めさせてもらう」

「……っ!」


 俺もそうだが、今は日本にいた時から同じ格好でいる。だが、今着ている服がダメになったらどうするのか?

 この世界の服がどんなものか、俺は知らない。もし着心地が悪かったら。肌に合わなかったら。俺は男だから我慢の許容範囲も広いと思うが、女子にとって下着などが合わないというのは致命的ではないだろうか?

 だから劣化の少ない今のうちに複製しておくべきだと思うのだ。


 言うべきことを言い終えたが、女子の反応は芳しくない。というか、空気が悪い。

 俺にたいして一番肯定的な冬杜さんすら、親の仇を見るような目で見ている。夏奈や春香も恨みがましい目で俺を睨んでいる。


 口を開き文句を言わないのは、それが最善であることを理解しているからであろう。

 ただ、一日中着たままの服を、洗うことなく複製することに忌避感を持っているのかもしれないし、異性である俺に渡す間は裸になってしまうのが嫌というのもあるだろう。


 騎士から奪った荷物の中にはマントが含まれる。とりあえず人数分用意して、行動を促す。

 馬車の入口近くに空のコンテナを置き、そこに詰め込むように言っておく。馬車の入口はカーテンのようなものがるので、直接中をのぞくことはできない。着替え――でなく脱衣をするには最低限であるが、環境はある。

 脱ぐように言ってから、誰も口を開かない。「覗くなよ」とも言われない。俺以外、全員無言である。


 それでも外でしばらく待っていると、馬車の中から「終わったよ」と声がかかった。

 今度は俺も脱ぎ、全裸にマントだけの格好になるとコンテナに服と塩や貨幣、他いくつもの小物を入れ、『ポケット』に仕舞う。

 服を入れるときに一番上にあった下着類に目が行ったが、無言でスルーした。というか、コメントできる事じゃない。……俺に対する挑戦状だろうか?


 俺は衣類のコンテナをポケットから一箱取り出すと、回収すべきものを回収して、服を着るように女子に声をかける。

 この日はレベル上げやなんかは後回しにして、早々に就寝してもらった。

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