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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
6章 箱庭世界のリターナー
88/122

懐かしい世界(表)

「親父! 母さん!」


 日本に戻った俺は校舎の一室でたった1時間の短い詰問を受け、親元に帰される事になった。

 異世界の情報は欲しいが、周囲への配慮を忘れていないというアピールだと思う。もちろん、俺にそういった配慮をして、悪感情を持たれないようにするという意味合いもある。

 なにせ、今の俺は異世界にいた時と同じように力が使えるのだから。


 こちらとあちらは同じように時間が流れているようだが、細かい時間関係はズレがいくつもある。季節だったり、現在時刻だったり。

 感覚的には5月の夕方前に日本に来たと思っていた俺だが、外に出た時には8月の昼前ぐらいで、はっきり言ってかなり暑い。思わず氷系の魔法を使いたくなった。


 そして校舎の外で見たのは、自衛隊の質問から自由になった俺を迎えに来た両親の姿だった。



 数ヶ月ぶりに見た両親は、すっかり年を取ったように見えた。

 両親は大学卒業後に結婚しすぐに俺を作ったので、まだ40代前半の働き盛りのハズだった。

 その両親はやせ細り、白髪が増え、今にも消えそうなほど儚い印象を受けた。

 だが弱々しい姿とは違い、久しぶりに会えた息子()を力強く抱きしめた。


「孝一……本当に、本当に良かった……っ」

「春ちゃんもいなくなって、半年以上経って、もう会えないかと……」


 泣きながら抱き付く両親に、俺も思わず涙をこぼす。


「ただいま」

「ああ、おかえり!」


 俺も二人を抱き返し、しばらくの間、そうしていた。

 暑さなんて気にもならなかった。





「春香ちゃんも、無事なんだな」

「ああ、間違いなく」

「孝一、春ちゃんに手なんて出してないわよね?」

「え? あ、それは……」

「こうちゃん?」


 時差はあるが、そろそろ俺のお腹がすく頃合いだった。

 両親にとっては昼前と言う事もあり、3人で近くのファミレスに向かった。

 親父は「折角だから」と高い店に行きたがったが、俺としては久しぶりの日本食だ、「食べ慣れたものが良い」と我儘を言ってファミレスに替えさせた。


 そこで俺は異世界での出来事を説明することになった。

 とは言え、うちの両親はゲームなどに詳しい人間ではない。ファ○コンなどが流行った世代らしいが、手を出さずにいたらしい。だから主にみんなの近況などを話すことになった。

 特に全員無事だというのは朗報らしく、今回の件で知り合った他の親御さんらとも関係を持っていたので、みんな安心するだろうとホッとしていた。


 ただなぁ。

 色々と、記憶改竄と言う理由もあり、春香に手を出してしまった事が、両親に早々にばれてしまった。

 手を出そうなんて考えていなかったからあまり意識していなかったが、うちの両親や春香の両親は俺が春香に手を出すことをよく思っていない事を昔から知っていたけど、ばれた後の事とか、冬杜の件ですっかり考えずにここまで来てしまったという事もあり。不意打ち気味にされた質問に反応してしまったのだ。

 母親の目が怖かったが、ノーコメントで押し通した。



 余談ではあるが、俺に対し国の方から今回の件に関する緘口令は敷かれていない。

 むしろ情報を色々と発信してもらいたいような印象だった。

 政治の事はよく分からないけど、たぶん俺がいろんな所で出した情報から、正しい情報を抽出したいんじゃないかな? どの情報が本当で、どの情報が嘘なのか。1人から判断しようと思ったら、情報の向け先を多方面にするしか無いし。





 ファミレスでの食事を終えたら、この日はそのまま家に帰った。

 今度は両親が日本で何をしていたかの話を聞いたが、聞かなきゃよかったと思うほど鬱になりそうな内容だった。主に、絶対に見つからない家族を探す絶望感が半端なかった。

 それでもこうやって見つかったんだし、無事が確認されたんだしと、そうやって締められなかったら俺はどうすればいいか分からなかったよ。



 両親との話を終え、風呂に入り、自室に戻ってベッドに身を横たえる。


 仕事を抜け出してきた両親は揃って会社に有休を申請し、しばらくは家にいる事を選んだ。


 しかし、残念ながら俺の方は仕事の予定がびっしり詰まってしまった。

 主に異世界の情報を教える事と、俺の持っているギフトに関する話を聞かせて欲しいと言われた。他にもギフトの検証などを予定している。



 俺の『ポケット』の枠は、あと3つ。

 大体のものなら無限増殖可能な枠が3つと言うのが、周囲にどういう波紋を広げるかは想像できない。大事になるのは分かるけど、その規模が読み切れないのだ。

 他にもHP固定とかは物理現象を無視しているし、何より魔法の存在は、かなりやばい。世界一危険な人物と評価されるのは一介の高校生である俺でも想像できるけど。


「下手すると、モルモットコースまっしぐら」


 呟いた言葉は、何もしなければそうなるであろう未来だ。

 それに俺には「異世界と日本を繋ぐ魔法陣の開発者」という肩書があり、それがどこまで重要視されるかと言う問題でもあり。拉致監禁するには戦闘能力が高すぎて。


 いやもう、日本政府が何を求めてくるのかすら分からない。人権がどうとか言える状況じゃないのだ。



 出た所勝負しかない。

 行き当たりばったりとも言うが、この状況下で未来予測など出来る能力が俺には無い。


 何をしたいのかだけを考え、俺は眠りに就いた。

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