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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
6章 箱庭世界のリターナー
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冬杜 静音①

 扉を開けると、そこには冬杜がいた。


「お。珍しいな。てっきり外に行ってると思ってたけど」

「まーねー。それより、後ろの連中は?」

「ああ! そうだ、聞いてくれ、ようやく日本に帰れるようになったんだよ! こちらの皆さんは自衛隊の方々で――」


 冬杜が外で訓練中だろうと思っていた俺はそのことに意識を取られたが、すぐに自衛隊の方々の事を思い出し、みんなに成果を報告する。

 きっと喜んで思えるだろう、そう思っていたのだが。



 俺はその時、驚くべき光景を目にした。

 それまでの冬杜はただの私服で何も持っていなかったというのに、『装備』スキルだろうか、一瞬で戦装束を身に纏い、剣を振り上げ先頭にいた明宮隊長に振り下ろそうとしたのだ。


 咄嗟の事であったが何とか間に割り込むのに成功する。

 明宮隊長も冬杜の動きに反応していたようで、銃を構えて冬杜を睨む。


「四方堂君、説明を」

「いや、俺にもわかりませんよ……っと!」


 素手で剣をとめたが、このまま距離を詰めた状態では何をするにも後手になりかねない。一度冬杜を弾き飛ばし、距離を置く。

 明宮隊長が視線を冬杜に向けたまま状況説明を求めるけど、それはむしろ俺が聞きたい。


 もしかして、日本に帰りたくなかったとか?


「しほーどー、それ違う。別に日本に帰りたくないとか、そういう問題じゃないから」


 武器を向けられた。明宮隊長を殺されそうになった。

 だが、そうなっても俺は冬杜がどうしてこんな事をしているのか知ることが大事と考えてしまった。そのため、積極的に捕縛などを考えず、甘い対応をしてしまう。


 冬杜は俺の表情から考えを読み、先回りして否定の言葉を口にした。そんな冬杜の表情はどこか疲れ切った感じがして、何か悪意があるようには見えない。

 本当に、「なんで?」という考えで頭がいっぱいになる。


 一瞬だけ実は明宮隊長らが俺たちに悪意を潜ませているのではと勘繰ったが、それは無いとすぐに切り捨てる。

 多少は国家の利益などを優先する言動をするだろうし、上司の命令があれば不服だろうと俺たちを蔑にするだろうけど。勘でしかないが、そんなことはしない人だと思うのだ。


「完全に、利害の不一致。日本に帰れねーじょーきょーを作りたいだけなんよ、アタシは」

「おい、待て」


 ぼやく様に愚痴を垂れ流す冬杜。

 最後に「ああ、もう。アイツらを送り帰した意味が無いじゃん」と小声で付け加えたのを、俺の耳は聞き逃さなかった。


「待てよ。今、聞き捨てならないことを言ったな?」

「しょーがないじゃん。このままいくと、この世界って日本に蹂躙されるし」

「そっちじゃない。「アイツらを送り帰した」って、どういう事だよ」


 冬杜の行動原理は「日本をこの世界に関わらせない事」らしい。その割には行動に矛盾が多くあるけど、今はそれどころではない。

 大事なのは、送り帰されたという「アイツら」の事だ。

 そして、そこに関わる俺たちの記憶。


「ソレ。気が付いてないんじゃなくてさ、気が付きたくないだけでしょ?」


 認めたくない気持ちがあるのは確かだ。否定して欲しくて聞いているのも間違いない。


「はぁ。んじゃ、アタシのギフト解除するわ。説明するのもめんどーだし」


 どこか必死になっている俺に対し、冬杜はどこまでも疲れた顔のままだ。俺たちの様子を見守っている自衛隊の方々は状況がつかめないので口を開かず、空気になっている。



 そして冬杜が何かをした。

 具体的に何をしたのか分からないが、その何かが合図になり、俺たちの記憶が正しくあるべき状態になる。


 王都に連れて行かれる時、盗賊にふんした連中を返り討ちにしたこと。その時、誰も死なせていない。

 旅の先で見つけたノース村を開発したこと。あの時、まだ王都に何人もクラスメイトがいた。

 王都へ残りの連中を迎えに行ったこと。同じチート持ちの古藤と戦ったな。

 ブリリアントで村民を集め、商談をしたこと。奴隷という形ではあるが、穏便に連れ帰れる者を集めた。

 皇王竜を討伐したこと。何人かは最初に脱落したのであって、最初からいなかった訳ではない。


 ごちゃごちゃになった記憶は何が正しくて何が間違っていたのか、すぐに判別しきれない。

 ただ、ここ最近の俺たちは間違った記憶を基に生きてきたのだけは分かった。


 裏切られたという感情が、心の中の一部を削ぎ落す感覚。

 怒りのような感情ではなく、無関心からなる凍てつく心に動かされ、排除すべき敵を見定めようとする。



「やっぱりこうなっちゃうわけね」


 呟く冬杜はどこか悲しそうだった。

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