開かれた門③
伊澄という、聞いたことの無い名前を聞かされた俺は首を傾げた。
だが、そんな俺の態度を疑問に思った明宮隊長が今度は首を傾げる。
「伊澄君はクラスメイトで友人なんだろう? 心配するのがそんなに不思議かい?」
クラスメイト?
言われたことが理解できず、俺は眉をひそめた。
何だろう――この掛け違えたボタンのような違和感は。
「質問があります。俺のクラスメイトは、何人でしたか?」
「ふむ。――君たちのクラスは25人だ。間違いない」
「そうですか」
俺の質問に対し、明宮隊長は何か考えるようにしてから答えた。質問の意図を量ったのだろう、その意図に気が付きどこか悩むような顔をした。
俺の記憶では、クラスメイトの数は俺を含めて24人。
回答にあるクラスメイトが25人という事は、俺の記憶が違っているか、ゲートがパラレルワールドのような別世界に間違って繋がったか、明宮隊長の記憶が間違っているかの3択になる。
何かが違うのは間違いない。
そして俺の直観が言う。
「間違っているのは俺の記憶」だと。
思えば皇王竜を倒したあの日からしばらくして。俺は何にと言い表せないけれど、どこか違和感を感じていた。
それは手遅れになる前に気が付けという警告のようで。
これ以上愚を犯すなという怒りの声のようで。
早く帰って来いという、哀願のようであった。
俺は自分が間違っているという前提で思考を組み立てる。
俺の記憶が改ざんされたと考えるべきだろう。おそらくそれは誰かが意図した事。つまり犯人がいるはずだ。それも、身内の中に。
誰が、なんのために?
誰が得をしている?
いや、その前に確認しておくべきことがあった。
「もう一つ聞かせてもらえませんか? このノース村にいるクラスメイトは俺を含めて19人です。
クラスメイトが25人として、伊澄さん以外に日本にいるのは何人でしょうか?」
それは死んだはずのクラスメイトの安否。
もしも、あの時死んだと思っていたクラスメイトが生きていたならば。
「伊澄君を含め、6人だな。2ヶ月ほど前だろうか? 倒れているところを発見した。行方不明だった約半年間の記憶は持っていなかったが、全員無事だよ」
「ああ……そうですか…………。良かった」
俺の記憶の方が間違っていなくてもいい。むしろ、現実がどうであろうと間違っている事にしたい。
俺は天を仰ぎ、空を見る。
これで冬杜も大丈夫だろう。
この時の俺は、そんな甘い事を考えていた。




