表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
6章 箱庭世界のリターナー
81/122

開かれた門②

 ゲートを開き、10分が経過した。


「今回も失敗か……」


 黒い球体、ゲートを見ながら俺は落胆の声を漏らした。


 今回の実験には、多少なりとも自信があった。

 前回までは生者を使う事を忌避していたためにアンデッドを使った事が失敗の要因だと思っていたのだ。


 アンデッドなど、地球にはいなかった。少なくとも、俺の知る限りは。

 であれば、向こう(地球)の法則に従い、アンデッドは土に還ったのではないかと考えたのだ。


 ゲートの維持限界は15分。

 「もしかしたら」という思いが捨てきれず、残り5分の間、俺は空を見上げる事にした。





「うぉっ! 本当に異世界だ!」

「馬鹿野郎、足を止めるな! 後続がつかえるぞ!!」

「すみません隊長!!」


 さらに2分が経過した頃、突然聞こえた声に俺は驚き、ゲートの方を見た。

 するとそこには自衛隊と思わしき人間が5人、完全武装で立っていた。


「本部との連絡、途絶えました! 連絡のあった通りです!」

「周辺、人影はそこにいる1名以外、ありません!」

「該当者1名、『四方堂 孝一』。間違いありません!」


 自衛隊らしき人たちは、わざわざ俺の目の前で寸劇をしてくれた。

 普通、本人の目の前ではやらないような会話をしてくれるあたり、俺に情報を与えようという意図が透けて見える。


 いやいやいあいあ。ってハスターか!

 いや、つまり目の前にいるのは自衛隊の隊員さんで?

 日本から来たのか?

 というか、俺の送ったメッセージを受け取ったって事だよな、さっきの発言。


 目の前の出来事に理解が追い付かず、パニックに陥る俺。

 そんな俺に話しかける事もなく、銃を向ける訳でもなく、整列して見守るだけの自衛隊。

 俺がマトモに喋れるようになったのはそれから3分後、ゲートが閉じてからだった。





「落ち着いたか?」

「ええ。お待たせしてすみません」


 混乱を抑え込むためストレージからお茶を取りだし、一息入れた。脳みその中はまだグチャグチャだが、話をする方がまだ整理できるだろう所まで落ち付いた。

 そんな俺に、自衛隊の隊長と呼ばれた人が話しかけてきた。


「まずは自己紹介からだな。私は陸上自衛隊第一師団第一偵察隊所属、明宮(あけみや)1等陸尉だ」

「私は同所属、日香里(ひかり)1等陸曹です」

「同所属――」


 5人全員が俺に挨拶した。今度は俺の番か。


「日本人で元高校三年、四方堂孝一です。今はノース村って所の村長補佐と防衛隊隊長を兼任しています」


 まずは無難に。彼らに合わせ、所属付きで名乗ってみる。

 すると彼らは破顔した。写真などで俺が誰だか分かっていても、確実な何かが欲しかったのだろう。どこかほっとした様子だ。


「我々は君たちを保護しに来たんだ。まずは、話を聞いてほしい」





 自衛隊の方々から聞かされたが、俺の作ったゲートは通っていた高校の、俺のクラスの教室に現れたらしい。


 最初に俺が帰還実験をしたのは俺達が異世界に来てからすでに半年以上過ぎてからの事。年は移り変わり、日本は秋らしい。そうなると新しい3年生が俺達の教室を使っていたのだが、彼らを弾き飛ばしてゲートは現れたらしい。

 突如目の前に現れたゲートに触れようとした奴もいたらしいけど、その前にゲートからアンデッドが現れ、それどころではなくなったそうだ。アンデッドはすぐに動かなくなったらしいが、それでも大騒ぎだったという。

 結果、ゲートに触れた奴、つまりこちらに来る奴がだれもおらず、俺は実験を失敗と判断したわけだ。


 2回目の実験でも同じ場所にゲートができて同じようにアンデッドが現れた為、学校は閉鎖。教室は3回目のゲート発生に備えて自衛隊が駐留し、今回の異世界偵察部隊が送られる運びになった。

 俺の実験で日本に送られたスマホにあった情報はもちろん警察に確認されており、それが今回自衛隊派遣の理由になったという話でもある。行方不明者が誘拐されたと救助を求めており、その行き先が異世界という荒唐無稽な場所であれ、自衛隊を派遣するのに必要な大義があったというのは大きい。俺と同じようにゲートの向こうという奴に不安はあったらしいが、周囲の圧力でいきなり人間が突入という流れになった。


 直接口にされなかったが、周囲の圧力ってのは俺が送った情報で日本中どころか世界中が大騒ぎだかららしい。なにせ異世界だ。そこと自由に行き来ができるとなれば、騒がない方がおかしいだろう。土地に資源に未知の何か。そして誘拐犯な他国。国として欲しがらない訳が無い。

 教室にゲートができるというのが確定情報でなくとも、教室の所有権というか異世界行きのゲートを巡って特に某お隣の大国や北の小国などが騒いでいるのだろう事が容易に想像できる。



 そこまで聞いて、俺は開いた口がふさがらなかった。

 こちらはこの世界で生きていくのに必死で、あまり日本の状況などは考えていなかった。というより、この情報が周囲に洩れたと仮定しても、誰も信じないだろうと考えていたのだ。身内以外は。

 そして家族に信じてもらえたとしても、物証が無ければ周囲は本気にしない。だから来るとしても家族が一縷の望みに賭けてとか、そう思っていた。


 なのに騒ぎになった理由を聞いてみれば、教室にゲートが出来た最初の時にスマホで○コ生へ投稿した奴がいたからだという。もちろんアンデッドが出て来るところも含めて。

 ……どれだけだ、うちの後輩どもは。事件に対して危機感なさすぎ、他人事すぎだろう、この日本人どもめ。まずは逃げろよ。



 いや、それはどうでもいいか。

 とにかく、俺達の世界とこの世界をゲートが繋げてくれるのが確定し、自由に行き来できると考えて間違いない。

 日本に残された家族に再び会えるし、クラスメイトのみんなを送り帰すこともできる。


 俺はゲートの管理上、すぐに戻る事など出来ないだろう。「魔力の杯」をコピーした者として、もう少し実験が必要になるし。

 家族に会うだけならこっちに来てもらうというのもいいかな?



 俺がそんな事を考えているときだった。

 明宮隊長は、俺にこんなことを言った。


「伊澄君も君のことを心配していた。君ももうすぐ友人と再会できるわけだな」


 伊澄君?

 誰だそれは?

伊澄君=「伊澄 夏奈」

四方堂の友人です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ