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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
6章 箱庭世界のリターナー
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開かれた門①

 この世界に来て、初めての夏。


「長距離移動なら≪転移門≫を使えばいいんじゃね? つか、みんなで空を行く必要は無かったよな? そうすれば帰りも即日楽勝だったと思うんだけど」


 皇王竜適応種との戦いに行けなかったメンバーが、ふとそんな事を言った。

 そんな一言の所為で、俺は王国の外まで拠点づくりを余儀なくされた。


 東奔西走。どこへでも。

 「夏は海で泳ぎたい」「万年雪の手に入る山って無い?」「他国の状況を調べるなら、現地に行くのが一番だよね」

 ああ、もう。

 行けばいいんだろう、行けば。

 作った後の事まで考えているのかね、まったく。防衛陣地を作って警備員のモンスターをテイムして。忙しいんだぞ、本当に。


 三加村のキャラクターシートがもっとあればなぁ。俺以外に仕事を――振れないか。移動速度その他の問題がある。

 どこの社畜だと言わんばかりの労働状況に、俺はため息を吐いた。





「というわけで、27回帰還実験を行う」


 たまの休み、拠点制作の仕事が無い日は日本への帰還実験に費やす。


 ブリリアント周辺での商業規模は現状維持、ダンジョンはたまに確認をする程度で基本放置、『ドラハン』の討伐地はいくつか解放されたけど全部対処済みで竜種の再発生はしていない。

 すべてが日常に変化し、日本への帰還実験も形骸化してきた。

 とは言え、日本への帰還は俺の大目標だ。諦めるつもりなど無い。


 周囲に人影は無く、協力者――主にテイムして支配下に置いた動物魔獣のみんな――の前で俺は宣言する。



「じゃ、始めるぞ」


 巨大な帰還用実験魔法陣に「魔力の杯」から魔力を注ぐ。自分で出来ればいいんだけど、こればかりは何度やっても上手くいかないのでもう諦めた。

 魔法陣の直径は20mもあり、直径5mの円を中心にして1mごとに円を描き、そこに術式制御の文言を書き加えてある。単語の並びや紋章の配置などを計算しつくし配置して。それらに魔力を通すと、中心の円の上に黒い球体が浮かび上がる。

 浮かび上がった球体を俺達は『門』と呼んでいる。これが日本に繋がる異世界移動用ゲートであり、俺達の研究の成果だ。


 浮かび上がったゲート。

 そこにニワトリ軍団が列をなして飛び込んでいく。 


 俺は敬礼をして、その雄姿を見送った。





 帰還用実験魔法陣は完成しているが、その先の安全確認ができていない為、人体実験はまだ行われていない。


 本当に日本に繋がったのか?

 もしかしたらゲートの向こうは深海や成層圏、宇宙の果てという可能性すらありうる。

 そこに入るのは蛮勇だろう、俺達の誰もがゲートを潜ろうとはしない。


 能動的に出入りしようという者以外は通さないため、ゲートの向こうを推測するための情報が手に入らない。元々「狙った相手のみ」召喚する魔法陣だったので、「能動的にゲートを潜ろうとする相手のみ」に変更するのは簡単だった。

 ……もしも、ゲートがなんでも自由に通すと設定されていると、向こうが宇宙空間であればこちらの空気が大量に流れ込むし、向こうが深海ならこちらに海水が溢れ出てくるだろう。この設定を解除するリスクは許容できない。



 では、どうやって情報を得るか?

 アンデッドな皆さんをぶち込み、帰って来いと命令するだけである。

 ユニコーンやペガサスなどを偵察に出すことも考えたが、生きている仲間を死地に送り込むような真似はしたくない。だからもう死んでるアンデッド(死にぞこない)を送り込むのだ。


 アンデッドに知能は無いので、スマホを録画モードで複数装備させ、家族か日本大使館へと手紙を持たせ、20体ほど送り込んでみた。探索時間は1分と10分に設定してみた。

 最悪こちらに戻ってこなくても、日本語か英語が読める人が手紙やスマホを見つけてくれれば、俺達の情報を得るだろうから。送り込むだけで意味のある実験のはずだ。


 ここまでが前々回の話。25回目の帰還実験の内容だ。

 結果だけ言えば、アンデッドは全滅。誰一人戻ってこなかったので、大失敗と言える。


 残念ではあるが実験に失敗はつきものという事で前回、26回目では行ってすぐ戻ってくる事を命令した。

 それでも戻ってきた数はゼロ。俺達はアンデッドだから駄目なんじゃないかと考えるようになった。



 そこで今度は動物だ。藤村さんが購入したニワトリに依頼しゲートを潜らせ、すぐに戻ってくるようお願いした。他にも近くを飛んでいた鳥さんなどにも餌を与えて懐柔し、お願いしてある。

 さすがにスマホはニワトリの背に一つ括り付けるのが限界だったが、それでも問題ないはずだ。


 安全は、全てにおいて優先する。

 情報を制する者が全てを制する。


 俺は今度こそ上手くいくことを願った。

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