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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
1章 召喚世界のゲーマーズ
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逃亡

 俺と行動を共にすると決めると、すぐに強権を使って逃げる準備を整えさせた。

 それよりもと話し合いを求められたが、事は拙速を貴ぶ状態だ。ここは王都に近く、すぐに動かないと翌朝には眠ったまま起きることができなくなるかもしれない。永眠という奴だな。


「細かい説明は後にするけど、すぐに動かないと不味い。捕まったら何をされるか分からないし、明日の朝まで強行軍になる。

 とはいえ、馬に頑張ってもらうだけだし、みんなは寝てていいけどね。

 で、繰り返すようで悪いけど、これが最後の確認。

 俺に付いてくる。それでいいんだな?

 俺は無茶を言うし、いろいろやらせる。しかも細かい説明をしない事もある。約束できるのは、物理的に守る事と、いずれ日本に帰るために全力を尽くす事。

 本当に付いてくるんだな?」


 睨むような強い視線を一人一人の顔に動かす。

 こればかりは説明なしでも俺を信用するかどうか、最後の試練だ。


 正直、上手く説明する自信は無い。

 今後も似たような、説明しにくい話はいろいろと出て来ると思う。

 そこでグダグダされない為にも、ここでしっかり締めておく必要がある。しばらくの間だけだが、俺は暴君にならないといけないのだから。


 辺りを見渡せば案の定、不安そうに互いを見る女子たち。

 俺に何をやらされるのか、怖いのだろう。人を殺したかどうかは横に置き、男に強要される事と言われ、妄想たくましくなっている奴もいる。蒼白な顔で涙を流している奴もいる。仕方が無いと言えば仕方が無い。

 ただ、この場に留まっても地獄行きだと思えば「どちらも選びたくない」と現実逃避している気がする。



「アタシは、ついて行くよ」


 そんな中、最初に意志を示したのは冬杜さんだ。

 そして一人が決めれば残りも、「私も」、と、追従するように付いてくることを決める。

 一介の女子高生に一人でこの場に残る選択など出来る筈も無い。寄らば大樹の陰とはよくいったものだ。日本人的気質で集団行動を好むのも幸いしたのだと思う。

 いざという時には簡単に崩れるだろうが、今だけでも意思統一ができたのは良かった。誰も見捨てず、無駄に揉めなくていい。





 俺達は夜を徹しての移動を開始する。

 朝には相手も動くだろうし、今のうちに距離を稼がないと面倒なことになると思ったからだ。


 馬と喋れる俺が御者をやるとして、女子連中には寝てもらう事にした。

 が、襲われた挙句、助ける側だったとしても人殺しかつ異性の俺がいて、振動の激しい馬車の中で眠れるほど現代の女子高生は図太くない。

 体の方は慣れない緊張を強いられたことで疲労しているのだが、それ以上に恐怖やらなんやらで興奮状態にあるのだ。眠れる訳が無い。


 とはいえ俺が喋りかけると余計に眠れなくなるだろうし、この日は馬が休みを欲しがるまで移動をして、翌日の昼にゆっくり休むことになった。





 昼過ぎに寝て、その日の夜に目が覚めた。

 あたりを見渡せば女子連中はまだ眠っていて、酷い寝顔を見せている。

 たまにベッドを同じにした男女が、翌朝に微笑み合うシーンがあるけど、現実はこんなもんだな。もうすぐ起きるのだろうけど、むくんでいたり、クマができていたり。ぼさぼさの髪と相まって、色気のイの字も無い。


 あまり寝顔を眺めているのも失礼な話だし、俺は1人外に出て、大きく体を伸ばす。マントに包まっていたが、外にある板張りの椅子のような御者台で眠っていたにもかかわらず、体に疲れは残っていない。軽くほぐすだけで意識がはっきりとしてきた。

 腹に手を当ててみればお腹が減っていたので、軽く摘まめる物をとコーヒーとシュークリームを取りだし、朝ご飯にする。


 俺は適当な体をしているからこれでいいけど、女子にはこんな朝ご飯は厳しかもしれない。そんなわけで、俺はオートミールもどき、麦粥を作る事にした。



 麦粥のレシピなどを知っているわけではなく、作り方は適当だ。

 麦を煮て、塩で味を調え、乾燥野菜で彩を添える。たったそれだけだ。

 近くに落ちている石ころを拾い、コの字型に置いて簡易(かまど)を作る。ストレージにある要らない可燃物を放り込み、魔法で火を付けた。

 今度はコンテナを取りだし、その中から鍋と粉になっていない麦、乾燥野菜と塩を用意する。塩っ気がきつい方が食べやすいだろう、竈に鍋を置き、気持ち塩を多めに混ぜて麦を煮る。


 20分も煮れば麦はそれなりに柔らかくなり、木製のサジで押してみれば簡単に潰れるほどになった。

 少し掬って味を見るが、まぁ、こんなものだろう。米の粥と違い苦みがあり、甘さを感じないが食べられないほど不味くは無い。

 俺としては卵か肉が欲しくなる淡白な味だが、起き抜けに食べる食事なのだからこの程度でもいいだろう。



「あれ、四方堂、ここにいたんだ」


 もう完成だからと竈から火を消したところで冬杜さんが出てきた。

 メイクの類はしていないが先ほどまでと違い、髪は整えられて服もちゃんとしている。


「朝飯? 晩飯? とにかく食べる物を作っておいた。不味いがこれからはこれが主食になるんだ、諦めて食え」

「朝飯って……。何作ったの?」

「麦粥。塩で麦を煮ただけだ。乾燥野菜もあるけど、そこはお好みってことで」

「へぇ。料理できるんだ」

「煮るのと焼くのは誰でもできるだろ? さすがにこれを作って「料理ができる」とは言いたくない」

「変なトコに拘るね?」

「それとこれとは話が別ってだけだ。あと、スキル的な意味で『料理』は出来る」


 そう言って、今度は麦と塩を同量だけ取りだし空の鍋に入れて『熟成』スキルを使う。

 出来上がったのは、麦で出来た醤油。

 大豆や米麹がないとできないと思われている醤油だが、他の穀物でも代用は出来る。味などの面で劣っているが、これはこれでありだと思う。余談だが醤油の「醤」は塩と麹で食物を発酵させた調味料の意味である。

 なお、出来上がった醤油はまだ未完成で、カスを搾り、火を入れてようやく完成するのだが。

 そして『熟成』は料理と違うのだが、見た目の面で採用してみた。


 案の定、通常3ヶ月は発酵に時間を使う醤油の作成を一瞬で仕上げた事に、冬杜さんは目を丸くしている。

 物理法則を無視しているのだから驚くのも無理はない。


「へ? なに? 今何やったの、四方堂」

「スキルを使った調味料作成。そこらへんも含めてみんなに説明するよ。

 でもその前にご飯を食べよう。ご飯が冷めると不味くなるだろうから」


 聞きたい事はいろいろとあるだろうけど。

 二度手間三度手間を避けるために、今は我慢してもらおう。

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