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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
5章 迷宮世界のエトランジェ
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閑話 終わりに至った夢の話

「これは夢の話だ」





 戦争の為に召喚されたことは知っていた。


 人殺しなんて嫌だと言う皆の中で、俺一人が戦えた。

 別に「友達が~~」とか「クラスメイトが~~」などと、どうこう言う訳ではない。だけど戦うぐらい大したことじゃないと、チート持ちだから大丈夫だという安心感で俺は戦争に参加した。


 何人も殺し、いくつもの戦場を駆け抜け、確かに俺は全ての戦に勝利をもたらした。

 その代償に、クラスメイト達の恐怖に満ちた視線を浴びる事になっても。



 もともと、守ろうという気は無かった。

 だから切り捨て、気にしない事にした。

 国としてもクラスメイト全員を養うのは厳しかったのだろう。俺が許可を出した途端、クラスメイトを外の世界に放り出した。

 俺はたった一人、王城に残った。


 放り出されたクラスメイトは俺の庇護が、国の生活保障が無くなった途端に路頭に迷い、全員死んだらしい。言葉も通じない異世界だし、当然の結果だろう。

 彼らの怨嗟の声は、俺の心に何も響かなかった。





 やる事が無くなった。

 ギフトや学校で学んだ知識を使って何かしようと思ったけど、俺には目標が無かった。何をすればいいのか分からなくなった。


 国がくれた報奨金で豪遊? 漫画やゲームも何もないのに?

 国中の美食を堪能する? 日本のコンビニ飯より劣るけど?

 美女・美少女を集めてハーレム? 何のために?

 国の支配者? 何をしろと?


 何かをするたびに、俺の心にあった輝きが消えていく気がする。

 暗く澱んでいく心は凄惨な遊びをしろと俺に言うが、それにすら興味が湧かない。



 ――何でも出来る(チート)っていうのは、これほどまでにつまらないのか。



 たまに国に何か言われ、力を振るう。

 周囲が俺を褒めそやすが、心に響く言葉は無い。


 日本にいた時、無料小説でチート主人公たちの活躍を読んだ。誰も彼も異世界で心のままに力を振るい、周囲の称賛を浴び、生を謳歌していた。とても楽しそうだった。

 だけど俺にはそれを楽しむ資格が無かったらしい。何をやっても面白くない。


 戦場で敵を蹂躙した。敵対する全てから死神と畏れられた。だからどうした?

 死にそうな病人を癒した。本人から家族から、救いの神の如く感謝された。だからどうした?

 救国の英雄となった。国中が、俺がいれば大丈夫と信頼を寄せる。だからどうした?

 善良な人々を踏みつぶす? する気も起きない。しなくても望みが叶う。いや、そんな事をして叶う望み()無い。


 出来ると分かっている事、すでに成功が約束された未来。神の視点で自由にできる世界。

 そこには何一つ、「面白い」がない。





 ある日の夜、冬杜さんが窓から俺の部屋に入って来た。

 襤褸(ぼろ)を身に纏い、幽鬼の様に現れた。


「久しぶり、しほーどー」

「死んだはずじゃなかったっけ?」


 いつの事か覚えていなかったけど、クラスメイトの保護者を辞めた日。冬杜さんはそのしばらく後に殺され死んだと聞いている。


「皆の復讐に来たって言ったら?」

「される理由が無いな。お帰り願うだけだ」


 あの時、クラスの誰もが俺に怯えていた。

 俺の保護下にありながら、俺が戦場に出る事で生きていけたにも拘らず、人を殺してるというだけで俺を拒絶した連中。

 そんな連中をわざわざ生かしておく理由は無い。殺す理由も救う理由も、等しく無価値だっただけだ。


「アンタさえいなければ――」

「最初から放り出されて野垂れ死んでいたな。あれだけ生きていけたのは、俺が戦場で有用だったからだろうが」

「それでもっ!!」


 冬杜(・・)はどこから入手したのか、大ぶりのナイフを俺の腹に突き立てた。

 チートで無敵のハズの俺の腹に、ナイフは深々と刺さる。血が流れ、死の臭いが立ち込める。久しぶりに痛みを感じ、自分が生きている事を実感できた。


「『神殺(カミゴロシ)』。いくら四方堂でもこれなら殺せる」


 HPが減っている。

 うん。現在HPが(・・・・・)減っている。それも結構な量が。半分以上持っていかれた。


 俺は呼吸を整えると、HPを最大値に戻した。

 腹に刺さっていたナイフが抜け落ち、流れ出た血が録画の巻き戻しの様に体の中に戻る。


「嘘……」

「慣れると簡単だぞ、これぐらい。意識すれば冬杜さんも出来る」


 刺されるぐらいは大したことじゃない。だから俺は微笑もうとした。

 そんな俺を見て、冬杜は後ずさった。


「なんで……」

「俺達の持ってるギフトってさ、意外と万能だよ。イメージさえあれば何でもできる。『無敵』は簡単なギフトの一つだよ」


 この世界に来て、いろいろと出来るようになった。

 どっかの小説で読んだ『原初魔法』だっけ? とにかく魔力とイメージさえあれば何でもできるってやつ。俺達のこれ(・・)は魔力無しでもできるけど。

 冬杜の『神殺』も「防御無視・致死属性」と考えれば簡単だ。「即死属性」だろうが防げる俺には意味が無い。

 これでも数多の戦場を経験してきたんだよ? これぐらい(・・・・・)出来るさ。


 攻撃しても俺を殺せることなどありえない。それでも冬杜は果敢に俺を攻める

 だけど、甘い。戦闘経験に差がありすぎる。俺は無敵とはいえ、チート頼りの戦い方だったわけじゃない。むしろチート無しの戦い方を好んでいた。そんな俺にしてみれば、冬杜は新兵も同然の雑魚だった。


 俺は冬杜の攻撃を適当に流し、怪我をさせないように武器を奪い、一切の攻撃をしなかった。

 最近は、ここ数年はまともに俺と戦おうという奴がいなかったのだ。俺を殺そうとする冬杜は貴重な遊び相手だった。彼女の相手をするのはとても楽しかった。

 冬杜の体力が尽きれば俺はそのまま捕え、何もせずに王都の外へ放り出した。こんなところで遊び相手を失うのは惜しいと思った。



「――という夢を見たんだ」

「兄さんごめんね? 何を言いたかったかさっぱり分からないよ」

「夢の話に理屈を求めないでくれ。ただ、そういう夢を見たってだけなんだから」


 俺は春香と他愛もない雑談をしていた。

 大切な幼馴染で従妹の春香と過ごす時間は貴重だ。こちらに来てから振られてしまったが、それでも大切な人には変わりない。

 ただまぁ。今話しているのはわりとどうでも良くて、あまり意味の無い夢の話だけど。



 自分でもなんでこんな夢を見たのか分からないけど、とにかくそういう内容の夢を見たのだ。

 何か引っかかる夢で、何故か鮮明に覚えているその内容に嫌な感じを覚える、不快な気分。

 誰かに吐き出せばまだマジになるようで、春香に話すことでずいぶん楽になった。


 聞かされる春香は終始引きつり気味で、今の心境を言い表すなら「なんでこんな話をしているのかな?」といった所だろう。

 すまん、誰かに話さずにはいられなかったんだ。



 「実は並行世界の俺が、夢の形で自分の追体験を俺に――」などと電波な事を思う訳でもないけど。

 うん。なかなか意味の分からない夢だった。

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