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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
5章 迷宮世界のエトランジェ
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閑話 狂った日常(下)

 朝日の眩しさで目を覚ますのが中世ヨーロッパ風異世界の日常だろうが、俺の目覚めはスマホのアラームが決めている。

 午前7:00。ピピピと鳴る電子音で目を覚ました俺は、隣で眠る春香の頭をそっと撫でた。


 普段は早起きで俺よりも朝の早い春香だが、昨夜の運動で疲れ切っているため、アラーム程度の音量では目を覚ませない。

 あまり長く寝顔を見ていると怒られるから、俺は着替えると部屋を出た。



 基本的に食事は食堂で摂るものだ。時計を見れば7時半前、夜更かしするほど娯楽の無い村生活では早起きの者が多いため、食堂はすでに多くの人がいた。

 村民も俺たちも一緒に食事をするが、基本的に席は自由で指定なしでも決まったグループごとに固まって食べている為、ここでの交流は少ない。


 用意されている朝ごはんは和食と洋食の二種類。

 和食はご飯に味噌汁、焼き魚とおひたし。洋食はパンとベーコン入りオニオンスープ、スクランブルエッグにサラダ。ドリンクは冷えたお茶とオレンジジュースが設置されている。

 現地人には炊き上がったご飯の匂いが受け入れがたいという人もいて、和食が2割で洋食が8割といった売れ行きで安定している。魚よりもベーコンの方がいいという理由もある。


「和食を」

「ヘイお待ち!」


 俺は基本的に和食の方が好きだ。だから毎回和食を頼む。

 食べる場所は端っこの方で、1人飯だ。こちらに来てから何人かと話すようになったが、一緒に飯を食べようというほどではない。あちらも席が固定されているので俺を誘うぐらいはするけど、それは社交辞令だ。真に受けて輪に入っても、場を乱すぐらいしかできない。

 一緒に食事をしない一番の理由は、「大勢の女の中に男が混ざれるか!」という苦手意識があるからだけどな。





 仕事は毎日するものではない。今日は自由時間という事で、俺はいくつかの実験をしていた。

 考えているのは、「ゲームシステムを超えた力の獲得」だ。


 俺たちのギフトはゲームシステムに則った形で発言している。

 俺の『編成画面』は俺に『ブレタクⅢ』主人公のステータスをチート込みで与えてくれた。結果、俺は日本人チームの中でも古藤と並ぶ“双璧”として扱われている。

 ただし。

 俺の能力はレベル・全ステータスがカンストのため、これ以上になる事は、無い。


 しかし、だ。

 普通に考えて、人間の能力が「何をしても成長しない」なんて有り得るのだろうか?

 それを言ったら「何をしてもHPが減らない」なんてチート効果の再現もできなくなるのだが、そこは横に置いて。

 俺は、もっと成長できるのではないかと思うのだ。



 ゲームシステムが俺を定義するなら、定義されていない部分が成長すればいい。

 ゲーム時代に出来なかったあれこれを試し、力にしたいのだ。

 幸いにも、俺は三加村がくれた「TRPGキャラのステータス」というもう一つのステータスを持っている。貰ってからまだあんまり成長しておらず低レベルの為、そちらを鍛える事も可能だ。


 俺はまだ、強くなれる。



 『ブレタク』スキルの複数同時発動や、スキル未セット状態でのスキル再現。試している事は多々ある。

 主に魔法の並列起動による干渉実験。今は異世界召喚用魔法陣の解析が頭打ちなので、『ブレタク』側の魔法陣からシステム流用を行い、独自の技術へ昇華できないかと考えているからだ。


 普通に並列起動すると複数の魔法を同時に使うだけだが、魔法陣を干渉させることによって新しい一つの魔法へと変化させる事が出来る。

 新しい魔法は基本的に合成元になった魔法の影響を受けるのだが、全く新しい効果になる場合がある。

 例えば吹雪の魔法≪ブリザード≫に岩の弾丸を飛ばす≪アースショット≫を足すと、レーザー光線を撃つ魔法になる。

 足すのを≪アースショット≫ではなく相手を石化させる≪ストーン≫の魔法にすると相手を氷で閉じ込め圧殺する≪アイスコフィン≫とでも呼ぶべき魔法になり、こちらはまだ理解の範疇に収まる。


 理解し難い法則を持つ――他にも主と従を入れ替える事でも結果が変わる――ので、使いやすそうな魔法を探すのは思いのほか楽しい。

 攻略本の無いゲームで自分なりにデータベースを作る感覚というのか。

 俺はチート使いではあるが、自分の中のゲーマーの血が騒ぐ程度にゲームが好きなのだ。



 そうやって魔法で遊んでいると、客が来た。


「おっす、しほーどー」

「おう、冬杜か」


 やってきたのは「冬杜 静音」。クラス女子のまとめ役で、俺や古藤に次ぐ楯役でもある。日本ではエロ女だったが、こっちでは「面倒見のいいお姉さん」といった感じだ。

 服装を見ると、戦闘用装備。金属製の胸鎧に身体の半分以上を隠せる大楯と片手用の戦鎚(メイス)を装備している。

 つまり、いつも通り戦闘訓練に付き合えと言いたいのだろう。


「楯役の訓練ってさー、相手いねーとできねーのよ」

「新スキルの実験台で良ければ構わないがね」

「おけー。≪不死鳥の加護≫付けてるし? どーせ死んでも生き返るから、問題なーし」


 スキル≪不死鳥の加護≫。1戦闘に3回まで自動蘇生を可能にするスキルだ。ただ、この世界では死体蹴りができるため、訓練中の事故を防ぐ以外では用途が無かったりする。

 ……死体の損傷が激しすぎると、そのままでは生き返る事が出来んのだ。蘇生魔法を使っても失敗することがあるし、春香の作った蘇生アイテム以外に確実な死の回避は出来ないわけだ。


 訓練とは言え真剣な戦いをしなければ意味がない。俺は冬杜の軽い態度の裏にある、どこか真剣な目を見てしまったので、何も言わずに付き合う事にした。



 冬杜は、この世界に来た初日に友人を殺されている。

 召喚され、国難に挑む勇者として王都へ連れていかれたあの日。冬杜は何のギフトも持たず、無能者のグループで馬車に乗った。

 無能は要らないとその馬車は国の騎士が扮した野盗に襲われ、5人のクラスメイトが死んだ。騒ぎに気が付き救援に向かった俺が見たのは、死んだ友人を抱えて大泣きする冬杜の姿だ。死んだ仲間は魔法で生き返らせることができなかった。蘇生の制限はその時に知った。

 俺は襲撃者を全滅させ、そいつらを魔法でアンデッドモンスターに作り替え、引き出せる情報全てを聞き出し、たくらみを暴いた。


 その後はクラスメイト全員で国から逃亡し、ノース村に至ったわけだ。

 同じ馬車にいた春香の復活は早かったが、冬杜の心の傷は未だ癒えていない。



「あの時戦う力があれば」


 落ち込む冬杜に、俺はそう発破をかけて目的を与えた。

 その結果、俺の方で最低限の下地を作りはしただけなのに、今の冬杜は死ぬ気で努力を重ねてステータス差が無ければ俺や古藤を凌ぐほどの戦士になっている。

 後悔を力に変え、がむしゃらに、前に進んでいる。


 馬車に揺られていた、生ける屍よりはマシだと思うけど。

 最近は日本にいた頃のような口調に戻ってきたので、時間が解決してくれるとは思うけど。


 日本に帰った時。

 その時の冬杜が、俺は心配だった。

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