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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
5章 迷宮世界のエトランジェ
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そして朝が来る

「結論から言えば、俺達はすでに全員ギフトを持っている。

 その能力は簡単だ。世界の改変(・・・・・)、その一言に尽きる」


 暗闇の中で、誰かは語る。

 謡うように、俺に知識を授けようとしている。


「望む力を、望む形で。イメージ通りにギフトは形作られる。

 ゲームの能力を再現していた理由は簡単だな。“それがイメージしやすかったから”だ。

 ギフトに目覚めていないと思っている奴らは成功者の刷り込みで出来ないと思い込まされただけ。本当なら、今すぐにでも使えるようになるはずさ。

 ま、イメージが大事なのさ。出来ないイメージはギフトをあやふやにしてしまう」


 体は動かない。動かせない。喋るのも無理だ。

 俺はただ、語られる言葉を聞く事しかできない。


「疑念がギフトの発現を阻害しているわけだが、その力は消えるわけじゃない。本人の内に留まらず、外に向かう。

 あれだな。強い意志がギフトの形をとるなら、弱い意志、迷いと疑念は世界を歪める。

 ダンジョンや皇王竜の事だ。分かるな?」


 声から情報を得ようにも、俺の認識が狂わされている。

 男なのか女なのか、声の高い低いも分からない。聞こえている(・・・・・・)のに、理解できない(・・・・・・)


「しかし、あの皇王竜。アレは駄目だな。

 意志の具現。畏怖の特異点。幻想を纏うが故に、最強の存在。

 幻想種の王(ドラゴン)最強の存在(ドラゴン)具現化した天災(ドラゴン)神をも殺す竜種(ドラゴン)

 だと言うのに、あまりにも、弱すぎた。

 そのままでは勝てないから別の要素まで取り込んだのに、あの程度。ドラゴンの一角とは到底信じられない弱さだった」


 逆に考えろ。

 分からないようにしているという事は、俺が理解できないからじゃない。俺に理解されたら拙いから。

 だからこの声の持ち主は、きっと俺の知っている誰かだ。


「さて、ここからが本題だ。

 君たちには、二つの選択肢がある。日本に帰るか帰らないかという、ね。

 俺は君たちに、この世界に残ってもらいたいと考えている」


 だとすれば選択肢は少ない。クラスメイトの誰かぐらいだ。

 ……冬杜か?


「家族や友人との別れは辛いだろう。恋人を残してきた者もいるかもしれない。

 しかし、この世界には大きな可能性が有る。君たちが望む物、その全てに手が届くほどに。元の世界では決して得る事の出来ない物すらあるのだよ。

 例えばそれは、不老不死。

 例えばそれは、世界の覇権。

 君は要らないかもしれないが、ハーレムなんてのも可能だ」


 今何が起きているのか分からないが、原因を冬杜と仮定して、どうやっているのか?

 ギフト、それしか考えられない。

 動けないのは、相手を認識できないのは何故だ?


「……やれやれ。報酬で興味を引くどころか、会話が成立しないとはね。ここまで無視されると、いっそ清々しさすら感じるよ。

 それと、君が想像している内容は間違いだよ。

 声を認識できないのは、頭に直接語りかけているから。体が動かせないのは、そもそも体が無いから。信じないとは思うがね」


 ああ、信じないとも。

 絶対に冬杜だと言う気は無いけど、お前が冬杜じゃないという理由も無い。


「俺は世界の意思(NPC)の一人。いずれ会う事も……無いか。

 俺はソラの向こうに居るはず(・・)だから、今の君たちには無理だろう」


 ソラ?

 (ソラ)? (ソラ)? (ソラ)

 いや、いる「はず」ってなんだ?


「お。ようやく興味を引けたようだが、今はここまでだ。

 君たちの選択を、俺は見守っているよ」


 ……。





 ――こうちゃん?

 ――あれ、起きないね?

 ――楓、何をしようとしてるの?

 ――起こそうと、しただけだよ?



 閉じた瞼を、朝日が焼く。どこからか、小娘共の喧騒が聞こえる。

 ああ、煩い。

 俺はゆっくりと目を開いた。


 目の前にあるのは、赤井の顔。

 少し顔を動かせば、三浦さんの姿も見える。


「おはよう。で、お前らは何をしている?」

「おはよう、こうちゃん。私は朝ご飯の用意が出来たのに起きてこないから、起こしに来たんだよ」

「おはよう。私は楓の付き添いです」


 問う俺にぎこちない笑顔で挨拶をする2人。

 二人とも有罪(ギルティ)、だ。

 半ば八つ当たり気味の思考で、そんな事を考える。


「退け。着替えるから出ていけ」

「はーい」

「みんな待ってるから。早く来てね」


 人の私室に上がり込むんじゃない。

 たまには一人でゆっくり寝させろと――あれ?


 何かが、おかしい。

 今、何か違和感が無かったか?



 混乱する俺だが、何に違和感を感じたかも分からない。

 喉に小骨が引っ掛かったような気持ち悪さを胸に、俺の朝は始まった。

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