皇王竜適応種
あの戦いで疲労困憊になった俺達は、予定通りその日は休み、翌日村に帰参した。
自動蘇生のような死亡回避の保険はあったけど、今回死者が出なかったのは奇跡に近い。そのため全員精神的な負荷は相当高かったと思う。
いくらチートでHPが減らないとはいえ、精神的な疲労だけはどうしようもない。俺は昼飯を食べた後には泥のように眠ることになったし、みんなも似たようなものだったらしい。
打ち上げは村に帰ってから行った。
参加した者はいかに自分たちがピンチだったか、そこでどれだけ機転を利かせて戦ったかを自慢し、初日に脱落したクラスメイトを悔しがらせた。
逆に最初から残るつもりでいた春香たちはそれを自分たちの仕事とばかりに聞き役に回り、語り部の自尊心を大いに満足させた。
これで当面の脅威が去ったと考えるか、まだ続く試練の幕開けと取るかで言えば、後者が正解だろう。
『ドラハン』のボスは27種類。亜種やら希少種を含めればその数は70を超える。
「古代竜が出てきたら、国が亡ぶし」
田島の予想が外れる事を期待したいけど、最悪に備えるのを怠っていい理由にはならない。
まだまだ忙しい日々は続くだろう。
皇王竜が一回死んで変異した理由についてだが、その正しい答えは分からない。
人数が多くてバグった、この異世界に馴染んだのが死んだタイミングだった、死ぬことでこの世界に馴染んだ、俺達の魔法をラーニングした、神様的な誰かが裏で干渉したなど。
推論はいくつも出たけど、証拠になりそうなものが無い。
雑魚はゲームのままだったから、ボス固有の現象なのかもしれないし、そのうち雑魚もこの世界に適応するのかもしれない。
それが分かるのは、もっと後の事だろう。
最後に、残念な話が一つ。
手に入れた素材は良い状態だったが、それで田島たちのギフトを活かせる武器を作ることは出来なかったのだ。
皇王竜が変異していたせいで。
そのままの尻尾は手に入ったけど、それだけで作れる素材は皆無らしい。哀れ。
雑魚狩りもそんなにやっていないし、鉱石なども装備一式を揃えられるほどの数は無い。そしてあの場所にまた行こうという話は今のところ出ていない。
田島たちがその真価を発揮するのは、当分先になりそうだ。
「しかしまぁ、予想通りと言えば予想通りだな」
結局、何に使うか用途も決まらない皇王竜適応種の死体。今は赤井のダンジョン奥に置かれていた。
大量に素材を確保されたのだが、巨大ゆえにそれでもほぼ原形をとどめている。というか、消費しきれるとは思わない。
あの変異した皇王竜は「皇王竜適応種」と名付けられ、通常の皇王竜とは別物として扱う事になった。
そしてその死体から大量の鱗と皮、翼膜、角、ブレス袋、骨などが手に入ったわけだが。
スキルなどで加工できなかったら武器防具にする当てがあるはずも無く、ほぼ全ての素材が手付かずだ。
肉に関しては食用可能だが、肉質が硬すぎて加工するのも大変だ。『料理』スキルで柔らかくしてからじゃないととても使えない食材だ。味は美味しいんだけど、俺は牛肉の方が好きだからそこまで食べたいとは思わない。
食べたら何かバフが付かないかと期待したけどそれも無し。
例外は舌で、夏奈が錬金術で『竜舌ステーキの岩塩風味』を作り、これだけは強力なHP回復効果が付いた。……意味ねぇ。HP回復ポーションで十分だっての。
俺がアンデッド化させて支配下に置く事も考えたけど、リスクが高すぎると一部から大反対を喰らったのでそれはお預け。
本当に、使い道が無い。
「『ブレタク』側の影響か。本当に、業が深い」
俺は死体をよく観察する。
『危険察知』スキルで相手ステータスの確認ができるのだが、そのデータは『ブレタクⅢ』にコンバートされており、あの戦いで使われた各種行動・攻撃などがスキル化されていた。
スキル欄には『突進』『回転アタック』『飛翔』『ブレス』『毒攻撃』『竜言語魔法』など、ゲームではおなじみのスキル群がセットされている。それに付け加え『無限再生』という見慣れぬスキルが付いていた。
『無限再生』の項目を見れば「行動するごとにHP超回復」とある。通常のバフ効果『再生』の上位互換みたいなものか。膨大すぎるHPと相まって、ゲームならクソゲー認定されかねないレベルだったな。
HPやMPなどが見えるのは、現地人とかでも同じ。
ただ、スキルの項目は原則としてユニークスキルと『ブレタク』にしか対応していない。俺の知る限り例外は無い。
これは『無限再生』ってスキルが『ブレタクⅢ』に無い事からこれがユニークスキルであれば、残りが『ブレタクⅢ』に対応していたことからも明らかで。
皇王竜が『ブレタクⅢ』に適応したと考えることができるわけで。
「さて。影響はどこまで広がるかね?」
特殊な個体だけが適応するならいいんだけど。
まさかこの世界の人間まで適応しないだろうな?




