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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
5章 迷宮世界のエトランジェ
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皇王竜討伐②

 特に急ぐ理由も無いのだが、それでも俺たちは準備が終わり次第すぐに出撃した。

 最速で移動するために馬車の類を使わずスキルによる高速移動を決めたのだが、遠出だというのに自分たちに出番が無いと知って馬たちが愕然としていたが、そこは些細な問題だろう。


 装備品に関しては良質な鉄の装備に夏奈が祝福を与えた「祝福された鉄の~~」シリーズで統一している。ゲームの違いにより装備ボーナスなど有るが装備スキルははない。

 他にもピッケルに虫網、採取籠なども用意した。田島曰く、「道中の素材で色々作れる」らしい。



 夜明け前に出発し、ゆっくり眠って翌日討伐。その日もそのまま泊まり、翌朝帰るというのが今回のプランだ。

 俺一人なら片道1時間程度で着くのだが、移動系スキルの熟練度が足りない連中が多く、今回そこまで速度を出せない。何人かはそれなりに使い込んでいたが、足の遅い奴に合わせるとどうしても時間がかかる。

 時間がかかる事については全員納得済みで、俺一人に戦って来いとはだれも言わない。むしろ俺一人に行かせてなるものかという気迫すらあった。……みんなが順調に戦闘民族の道をたどっているというのは複雑だ。頼もしくあり、これでいいのかという気持ちもある。できれば危険から遠ざけたいところだが、本人たちが納得しない。


 空中を高速移動するのはそこまで難しくない。普通に地面を蹴って移動する感覚で行ける。

 何もない所に足場があるのなら怖いかもしれないが、スキル使用中はなんとなく空中に道があるように見え、その上を走るだけなのだ。慣れてしまえば複数の足場を自分の中の選択肢として生み出せ、高度や方向を自由自在に設定できる。慣れないうちは目の前に一本道を作るのが限界らしい。俺はこの世界に来た段階で熟練度がカンストしていたので、未熟な状態がどうなのかというのはみんなからの聞き取りでしか知らないけど。

 それでも高度が上がれば高所恐怖症でなくとも怖がる奴は出てきて、なかなか考えていたほどスピードが出ない。「早く動くだけでも怖いのに高い所とか、マジで無理」と言い出すのが出てきて、仕方がないので5人ほど置いて行くことにした。やってみようとは思っても、いざやってみるとダメだとか。よくあること、と割り切っておく。





 人数が途中で減ってしまったがその分移動速度が上がり、昼過ぎには目的地にたどり着いた。

 そのまま挑むわけではないが、周辺の偵察という事で4人1グループになって探索に向かわせる。残るメンバーは拠点の設置だ。テントなどを設置し寝床を作る。


 今回の討伐については田島がリーダーをやった方がいいと思うのだけど、なぜか指示は俺が出している。全員が『ドラハン』プレイヤーなら田島をリーダーにした方がいいのだが、ほとんどが俺の『ブレタク』側の人間だからシステム的な面から見て運用は俺の方が都合がいいという結論になったからだ。

 ……俺も大規模戦闘の指揮を執った経験なんて無いんだけどな。



 設営や探索が終われば夕飯の時間まで自由行動だ。ボスの皇王竜のそばに行かないことを条件に、自由行動を認めている。

 主な目的は採取で、山肌からは何故か大量の鉱石が手に入った。ゲームに出てくる虫なども捕獲できたようで、田島らは多少の失敗を重ねながらもスタングレネードや各種罠などを量産していた。その工程についてはスキル同様に謎の省略が行われていて、気が付いたときには完成品があるという不思議な話だ。無論、俺たちには真似できない。

 こういったアイテムも無限増殖するべきかと考えたが、それは今後の案件としよう。ボスを倒そうと採取できなくなるわけじゃないし。


 ちなみに夕飯はカレーライスである。キャンプの定番という事でそのようになった。

 カレールゥについては足りないスパイスもあったはずだが、ターメリック(ウコン)や唐辛子、クミンにサフランなどの僅かなスパイスに小麦粉とラードを加え、≪料理≫スキルで無理矢理作った。スキル熟練度の関係で日本で食べているカレーよりも美味しい物に仕上がったと自負している。



 目立つからキャンプファイヤーはやらないけど、酒を振る舞ったのでそれなりに盛り上がっている。

 大勢でたき火を囲み、飲んで、歌って。実に賑やかだが、俺はそれを少し離れたところから見ていた。

 どうにもああいった空気にはなじめず、俺が輪に加わるとたまに会話が止まる。話の上手い奴なら俺の発言が加わってもスムーズに流すが、気を使われるのはあまり好きではない。というより、女子率が高すぎで肩身が狭い。

 これでも普段よりはマシな筈だけどな。



「あれ? どうしたの、こんなとこでー」


 そうやってみんなを見ていると、夏奈が俺に気が付いた。

 足がふらついている。顔が赤い。息が酒臭い。呑み過ぎだ馬鹿者め。


「孝一も飲もう。ねー?」

「はいはいはいはい。ほれ、グラス貸せ。注いでやるから」

「えー? あ、ありがとー」


 何が楽しいのか、夏奈はケラケラ笑っている。笑い上戸か。まだマシだな。

 俺は夏奈が手にしていたグラスにワインを注ぐ。冷やした状態で保管しておいたので、グラスはうっすらと白くなる。

 夏奈はグラスを軽く回し、匂いを嗅ぐと一気に飲み干した。もっとゆっくり飲めと言いたい。


「ねぇ、孝一」

「ん?」

「シよ?」


 一瞬何を言われたのか分からなかったが、俺にしなだれかかってくる夏奈の顔を見て言いたい事を理解した。酔って発情したようだ。幼い顔立ちながらも、潤んだ瞳に上目使いのコンボはそれなりに色気がある。

 だから俺は溜め息を吐くと、夏奈の方を向き、


「≪スリープ≫で眠れ」


問答無用で眠らせた。


 それに抵抗できなかった夏奈はそのまま寝息を立ててしまう。


「明日はボス戦ってのを忘れて羽目を外すとか。ありえないんだけど」


 たき火の方をよく見れば飲み過ぎの奴が意外と多い。意外か? それとも妥当か?

 どちらにせよ明日のことを考えれば放っておくわけにもいくまい。


 俺は立ち上がると問題児どもを強制的に眠らせ、抑えに回っていた連中と一緒にテントに放り込む作業を始めた。

 気が張っているよりマシと考えるか、楽観的すぎると考えるべきか。

 悲壮感漂うよりはいいと、俺は前向きに考える事にした。

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