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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
5章 迷宮世界のエトランジェ
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訪れるは竜

 さらに一カ月が経った。



 春が来ると、農作業は忙しくなる。


 春香の能力で通常の開墾作業をする必要は無くなっていたが、それだけに頼らない普通の田植えなども行っている。

 植える作物などはどうやって育てればいいのか誰も知らない為、試行錯誤となる。俺達は普通科の高校生。農作業は全員専門外だった。聞きかじった知識では追肥、ノーフォーク農法、窒素肥料とかが有効だと思うのだが、実際にそれをどうやるのかまでは覚えていない。知識系のギフト持ちがいないとこんなものだ。

 子供たちには読み書きを――鬼のような話だが、日本語だ――教えているので、知識はちゃんと蓄積していてほしい。

 従来通りの小麦などはそれまで通りの育て方で問題ないんだけどな。家畜を使って効率化を進めていきたいところだし。その辺も試していきたいところだ。


 逆に家畜の世話に関しては特に問題ない。

 こちらは冬の間に好む食材なども調べてあるので、トウモロコシとかの栽培がうまくいけば致命的な事態にはならないだろう。

 一部の牛は発酵させた草とかを好むってことで、草原を作って食べ比べをさせたら、発酵した草の奪い合いになって大騒ぎになったのはいい思い出だ。



 魔法陣の解析は行き詰りつつある。


 試せる文章のパターンはほぼ完了し、単語の方も必要と思われた物は出揃った。

 だが、どうしても俺達のいた日本を特定する方法が分からない。何か見逃している事があるのかもしれないと、頭を悩ませている。

 過去に召喚された人の例から、俺達の地球から召喚されていると思うのだが。送還用魔法陣は今のところ日本の電波を受信してくれないので、人を送るのは試していない。念のためというかただの実験だが、ニワトリにスマホを括りつけて送り出してみたが、これがどんな結果に繋がるかは分からない。


 帰れないかもしれない。

 そんな空気が広まっているが、良くも悪くもこの世界に馴染んだからだろう。取り乱したりする奴はいないので俺としても助かっている。

 念の為に「世界間の移動の研究が半年も経たずに成果を出せるとか、考えが甘い」と言って時間がかかるものだからと誤魔化している。実際、現状の魔法陣を組み替えるだけでなく『ブレタク』の召喚魔法に使われている魔法陣も併せて研究してみたりとか、口だけで済ませる気はないけど。

 ただ、どこか無気力になった奴はいるので要注意だ。


 余談ではあるが、魔法陣が解析されたことで俺達が召喚されたことは間違いないだろうと結論付けられた。低めの可能性だけど「俺達のオリジナルがまだ日本にいて、この世界にいる俺達はコピーだった」という可能性もあったのだ。

 俺達がオリジナルではない可能性も潰されたし、ここが異世界である事も間違いなさそうだ。複数の世界を繋ぐための文章があったし。



 その他の話。クラスメイトと村人たちの関係は改善された。

 やっぱり殺気立っていたのが怖かっただけで、それが無くなれば大丈夫らしい。クラスメイトが子供たちと遊んでいる姿を見かけるようになった。他にも農作業関係で相談されていたりと、頼られている。


 俺の方も一度仲良くなったからか、今でも話かけられたりもする。

 ただ、それはほぼ女性からで、男連中は近寄ってこない。何故に?


 いや、分かっている。日本人メンバーの中で一番チョロそうな俺を籠絡しようというのだろう。

 元娼婦の女性はこの村で生活しているうちにガリガリにやせ細っていた体に健康的な肉を付け、美容品で髪や肌を整え、毎日の入浴でサッパリしている。歯だけは一朝一夕でどうにかなるものではないので黄色かったり不揃いだったりするが、それでも外見は劇的な変化を見せている。

 その美しくなった体で誘惑してくるのを見ると、逆に気持ちが萎えるから不思議だ。彼女らは俺を女性不信にしたいのだろうか?


 なお、男連中が話しかけてこない理由は明白だ。

 そんな暇があれば嫁探しに時間を使いたいというだけである。頑張れ若人。俺より年上だけど。





 そうやって穏やかに時間が過ぎていく。

 このままでも構わなかったのだが、状況は緩やかに変わっていた。俺達が気が付けない所で。

 そして、俺達が懸念していた通りに。


「モンスターだ! モンスターが出たぞ!! 馬鹿でかい蜥蜴みたいなのが――」

「……皇王竜、シュッタフガルド?」


 田島のつぶやきが聞こえた。


 村から見上げた空に浮かぶのは、全長数十mの巨大なドラゴン。黄金に輝く鱗を持ち圧倒的な存在感を放つ存在が俺達を見下ろしていた。

 皇王竜の異名を持つ竜種、シュッタフガルド。

 それは田島たちのやっていた人気アクションゲーム、「ドラゴン×ハンター」のラスボスだった。

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