ダンジョンの先の世界
話題にされず気が付いていない奴もいたけど、村人から避けられつつあるのは周知の事実だったらしい。
朝礼で話を振ってみるとそのことで落ち込む奴もいて、「ダンジョンよりも友情優先」とばかりに、もうダンジョンには行かないと言う流れになった。
赤井の話ではNPCダンジョンは放置するプレイヤーがほとんどで、潜らなくなったとしてもペナルティなどは無いらしい。今までのような毎日誰かがダンジョンにいる状況は異常なのだという。もし何かあるとしても、赤井のダンジョンに挑戦者が現れるぐらいだろう。
だから気が向いたら潜るだけにして、間引きとかは考えない。念のために柵と壁、空堀と水堀を作ってモンスターが簡単に出てこれないようにする結論になった。
「いや、漫画もゲームも無いし? 暇つぶしにちょうど良かったんだよ」
「そうそう。色々とスキルの熟練度が上がるし、成長してるって実感がなんか楽しくて」
「たまーにレアドロップするじゃん。あれが楽しくて、つい」
「……魔法を思いっきり使ってみたかったのよ。悪い?」
これがダンジョンに夢中になっていた連中の言である。
言っている意味は分かるし、共感できなくも無い。
ダンジョンは非日常、ちょっとした冒険、テーマパークのアトラクションみたいな「娯楽」だったわけだ。
その楽しさをクラスの仲間と「共有」できれば、そりゃあハマる奴も出て来るだろう。
しかし、その楽しい時間も空気を読まない俺によって壊された。
TCGが代表格だが、この手の楽しさはふと我に返ってみると「何が楽しかったのかが分からない」事がある。ダンジョンはブームが去った後の「元人気ゲーム」のような扱いに変わった。
クラス内の空気を読むに、みんながダンジョンに潜る事はほぼ無くなるだろう。
さて。
クラスの方向性は正せたし、本命をどうにかしますかね。
深夜0時。
月の無い夜は真っ暗闇の筈だが、ノース村は街灯があるのでわりと明るく、出歩くのも容易だ。
ただ、日が沈むとさっさと寝る習慣がある村民はほとんど寝ている。起きているとしたらクラスメイトの誰かぐらいか。もっとも冬の終わりか春の初めぐらいの今頃はまだ寒いので、ベッドの中でスマホを弄るぐらいしかしないだろうが。
俺は冬杜を空き家に呼び出した。
今回の、ダンジョン騒ぎの首謀者として。
冬杜はなんだかんだ言って、クラス内で影響力が強い。
女子グループの中でも派手な性生活をしていた冬杜はある種の英雄の様なもので、その言葉や行動は容易く周りを巻き込む。肉体関係のあった男子連中も以下同文。
特に隠れて動いていたわけでもないので、「ダンジョンに潜ろう」というクラス内の雰囲気を作ったのが冬杜だというのはすぐに特定できた。
思えば、冬杜は戦う事にかなり前向きだった。
壁役というもっともなり手のいない役割を選び、戦闘訓練を積み重ねてきた冬杜。彼女は戦闘行為を俺に任せて訓練に身の入らない女子の中では異色の存在だった。
未だにゲーム能力を持たない、そもそもゲームから縁遠かった冬杜がそこまで頑張るのは、いざという時に備えての事だと思っていた。
だから呼び出す本当の理由は違う。
ダンジョンに1人で潜るのは厳しいから取り巻きが欲しかった。結果、クラス全体を巻き込んだ。その程度の理由かもしれないし。俺はそこまで気にしていない。
本当の理由は密談というか、相談というか。みんなに聞かせるにはちょっと早い、俺が取り扱いに困っている情報のすり合わせとか。
ちょうどいい呼び出し理由があったから呼んだだけというのが真相で。
こうやって謎のダンジョンが出来た事で生じた疑問とか。不安とか。
この世界の謎みたいな話がしたいのだ、俺は。
俺達の能力はいったい何なのか。
この世界はどんな世界なのか。
――俺達は、この世界にとって何なのか。
色々と手遅れになる前に、考えておきたい。
冬杜なら、たぶん何かと考えを持っているんじゃないかと思う訳だ。
不死身の古藤を殺さなきゃいけないとか、そんな面倒事はごめんだからな。
あ。
その場合は俺も自殺しないと不味いか?
さすがに世界が終ろうが、自分の命まで差し出す気にはならないのでそんな事はしないけど。




