ダンジョンの産声
「こうちゃん! 大変!!」
ある日の昼下がり。ランチを食べ終えた俺は地面に描かれた魔法陣で実験をしていた。
ブリリアントへの訪問が終わり、商売に関する残りの仕事はほとんど人任せ。
戦力増強などは俺一人で行っているわけじゃないし、それなりに自由な時間が取れるようになってきた。そしてその自由時間は魔法陣解析とその試験に費やしている。
帰還目的で行っている魔法陣の解析に関してだが、「帰還」の文字は見付からなかったが、「維持」に関する部分のみ目処が付いた。これで長時間の術式維持が可能になり、実験も安定して行えるようになった。今は二つの異なる世界間を繋げる実験は5分間の接続を可能にしている。時間制限は魔力供給部分の都合なので、これ以上の延長は難しい。
が、そんな俺のところに赤井が突撃してきた。慌てた様子で、余裕が全く見られない。
赤井はとりあえず落ち着かせようと飲み物を出そうとした俺を止め、荒い息を吐きながらも俺に緊急事態を告げるのだった。
「ダンジョンが、私以外の誰かが管理するダンジョンが出来たの!!」
赤井のギフトは、「ダンジョン作成」。
入り口を決めると地下に降りる階段ができ、その先に部屋ができる。そこを中心に部屋を広げ、モンスターを配置し、罠を仕掛け、侵入者を殺す為の迷宮を作り上げるゲーム能力だ。
ただ、ダンジョンを作った後は侵入者が必要になる。
NPC、プレイヤーではなくゲーム側がAI制御の冒険者を送り込んでくることもあるが、やはりメインは対人戦となっている。今時のゲームらしくオンラインで全国のユーザーと対戦できるようになっている。一応だがゲーム側が用意したNPCダンジョンも攻略対象になっている。
細かい仕様は省くが、「ダンジョンを作る」だけでなく「ダンジョンを攻略する」のも同じゲームという事だ。
「つまり、ゲーム能力の拡張部分と考えていいと思う。自分のダンジョンだけじゃなくて、自分が攻略するためのダンジョンも作ったんじゃないかと思う訳だ」
「それ、笑えねーんですけど? 今後もどっかてきとーにダンジョンができるって事じゃない?」
「うん。その通りだ」
「はぁ!? どうにかできないの、赤井?」
「ごめんなさい、できません……」
赤井がそれに気が付いたのは自分のステータス画面を見ていた時の事。
今まで灰色になっていた「ダンジョン攻略に向かう」というコマンドが点滅していて、確認するとノース村の近くにダンジョンが出来ていたというわけだ。
この情報を共有するために、俺はクラスメイトのみんなを集めた。一部の代表者だけでは不安だったので、全員集めてみた。
一番の問題は、これが他人事じゃないという点だ。
特に問題があるのはハンティングゲームの連中か? 無限POPする強力な大型モンスターとか、シャレにならない。倒せる連中が常時確保できれば問題ないが、それができなければ待っているのは破滅でしかない。
俺の場合は……変わる事も無いか。『ブレタク』シリーズは人間のドロドロした争いを中心にしたシナリオ構成からな。本家の『エタブレ』シリーズは……どうだったか? シリーズ内のどれが影響するか次第なんだけど。
いくつかの確認を全員に行ってみたが、結論は「何もわからない」だった。自分のゲームがどのような影響を及ぼすのか、想像できないという。
強いて言うなら、自分の能力が他の連中にも使えるようになるとかだけど。この世界の十分の今までを見る限りは問題なさそうな気がする。
「でさー、結局、ダンジョンはどうすんの?」
冬杜はこの件に対して不真面目というか、緊張感の無い態度を取っている。自身がゲーム能力を発現しておらず、他人事といった雰囲気だ。
「無論、潰しに往くさ」
「ふーん。誰を動かすの?」
「俺と古藤は確定として、他4人だな」
ダンジョンはモンスターと倒すだけで素材や宝物が手に入るという。だったら行かない手はない。
アイテム関係の荷物運びは要らないし、人数は最小限で。それで問題ないだろう。
「んー? どうせだったらさ、ある程度ローテ組んで、戦闘を経験しとかない? いざって時考えるとさ、戦った事が無いのって不味いっしょ。
みんなはどう思う?」
俺がさっさと終わらせる方向で考えを披露すると、冬杜はダンジョンを熟練度稼ぎの場として使えないかと別の意見を言い出す。
ダンジョンを資源にする……それが正しいかどうか、俺には分からなかった。




