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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
1章 召喚世界のゲーマーズ
6/122

ヒトゴロシ

 戦闘開始を意識したとたん、編成画面が消えた。

 ゲーム中もスキルセットができなかったので、これも仕様の一環だろう。


 敵戦力を『危険察知』で分析する。

 HPとMPの表記だけが出てきて、HPは人間側が60~200程度、馬が80前後となっている。MPは軒並み低く、50を超えている奴はいない。魔法使い系のクラスを持っている奴はいないようだ。

 質で言えば左の連中の方が低く右が高いと、かなり偏っている。


 ちなみに、こいつらのレベルはゲームの感覚で言えば2~10レベルぐらいと、かなり弱い。

 さすがにデータだけを見て油断するほど間抜けではないが、これぐらいなら初戦の相手に相応しいと少し緊張が解けた。



 敵が全員騎兵だから、一番有効なのは『バベル』だ。

 人間は俺の強さを計りきれない可能性が高いし、組織のしがらみを含む損得勘定で動く面があるから、言葉(・・)が通じようが()は通じない。調教されようと本能で生きている馬の方が理性的な判断ができるというものだ。


『軍馬たち。全員、乗せている人間を落とせ。従わねば、殺す』


 『バベル』の真骨頂は人間相手ではなく、人間以外(・・)とコミュニケーションを取れることにある。モンスターを自軍に引き込むのに使うのが本来の用途である。

 彼我の実力差が分かっていれば俺の言葉を聞き入れてくれるはず。敵が騎馬のままでは何かと都合がよろしくないので、まずは歩兵になってもらおうという訳だ。


「うわっ! 急に馬が!!」

「おい、暴れるな!!」

「なんだ、いったいどうした!?」


 馬の(いなな)きとともに、左の山賊連中から悲鳴が上がる。練度の低さからある程度は予想できたことだが、馬と常にふれあっている人種ではなさそうだ。馬の方も、落馬させることに躊躇いが無い。

 逆に右の方の連中を乗せた馬は何もしない。乗っている人間が自分の世話をしてくれる「家族」なのだろう、脅されたぐらいで裏切るような間柄ではないということ。

 ……馬を殺すの、勿体無いな。可能な限り引き込む努力をするか。


 馬から落ちた連中はしばらく放置しても大丈夫だろう。無理矢理落とされた事もあり、無事という事はまずない。落馬は下手をすれば死ぬ危険もあるのだ。


『人間を落とした者は馬車の後方に移動! 殺されぬことを第一とし、状況次第では離脱を許可する!』

『サー!! イエッサー!!』


 なので、こちらの言葉を聞き入れた馬たちに保身を命じる。大人しくいう事を聞いたというのに殺されては可哀想だからね。あと馬が言っている言葉もなんとなく分かるが、何ゆえ軍隊口調? 翻訳システムの暴走かね?

 とにかく馬たちは俺の命令に対し素直に従い、移動を開始する。

 さあ、ここからは人間同士の殺し合いだ。



「第二分隊、援護射撃を! 第一分隊、突撃!!」


 俺がただの命令だけで半数を戦闘不能にしたことに焦りを抱いたのか、右にいた騎士連中が問答無用で攻撃を仕掛けてきた。

 5人が騎射による支援射撃を行い、5人が突撃を仕掛けてきた。

 突撃する騎士たちはいずれも重装に身を包み、手にした騎乗槍は一撃必殺の武器なのだろう、圧倒的な迫力で迫ってくる。


 だから、接近されないようにカタを付ける。

 こちらのスピードはカンストしているうえにバフによる強化がなされているので、システム上の最高値をマークしている。これは人間種のレベルカンスト時が12~15というのに対し、100という、6倍以上の数値を叩き出す。

 結果、俺は相手が本当に動き出す前に6回は攻撃チャンスを持っているという事になる。

 ……ゲームと同じにはいかないかもしれないが、そうでも思わないと怖くて戦えないのだ。


「『ブレイブフォース』≪フルバースト・マジック≫」


 使う戦技スキルは『ブレイブフォース』の≪フルバースト・マジック≫だ。

 ≪フルバースト・マジック≫は魔導師(ウィザード)のクラスをマスターすることで使えるようになる戦技で、MPすべてを使って複数属性の攻撃魔法を叩き込む、広範囲攻撃スキルだ。威力は消費MPに比例するので、カンストしている現在であれば最大威力が出せる。

 この戦技は“マジック”などと言いつつ魔法陣の構築が必要ではないので、非常に使い勝手がいいとゲームでも愛用していた。


 俺がスキル使用を宣言すると、七つの光球が足元から浮かび上がった。ゲーム時代は人数分の光球が出てくるのだが、俺の設定する目標に応じて数が変わるらしい。

 俺はスキルに導かれるまま右手を敵に向けて突出し、トリガーを引く。


発射(ファイア)


 何もしなければ殺される状況下だというのに、これから人を殺すのだというのに、自分でも驚くぐらいその瞬間は冷静だった。

 光球は尾を引き、矢となって敵めがけて飛翔する。ゲームと現実は違うはずなのに、俺は何故かスキルの影響範囲がどこまでなのかを把握していて、冷静に、冷徹に、殺す(・・)相手を選別していた。


 光球の一つが敵・第一分隊の手前に突き刺さる。

 光球は地面にぶつかると爆発し、敵の足を止めた。

 そして残る光球が敵に突き刺さり大きな爆発を引き起こした。

 突撃していた敵の数は5人。足止めに一発、5人殺すのに五発。残る一発は後ろの第二分隊に突き刺さり、固まっていた連中を吹き飛ばした。直撃した奴はそのまま即死したが、残りは瀕死や重症程度で済んでおり、死んではいない。

 ただ、馬は全滅してしまった。手加減などは考えていなかったので、鎧などが無い分、騎士たちよりも死にやすかったようだ。鎧の防御力はかなり高いのかもしれないと心のメモ帳に記録しておく。

 あと、こちらの馬を生き残らせるのは現実的ではないと諦めを付ける。最優先は生存であり、自身の性能を把握しきっていない今の段階で手を抜く理由にはならない。勿体無いとか可哀想だとは思うけど、自分の命を差し出してまで通したい感情ではない。


「『ブレイブフォース』≪フルバースト・マジック≫発射」


 第二分隊の連中から捕虜を確保すればいいと思い、第三分隊であろう、残る連中に≪フルバースト・マジック≫を使う。今度は五発だけで終了させる。

 MPの方は消費されておらず、そこはチートだからと気にしない。チートコードの効果の一つが「HPとMPが減らない」だったので、むしろ当然だという気持ちでいる。


 最後に後ろにいた左の連中、山賊側も殲滅しておく。こちらも一人ぐらいは生き残らせようと思ったが、あとの事を考えると生き残らせるメリットが薄く、やっぱり皆殺しにすることにした。捕虜の管理は面倒くさいし。下手に生き残られると情報が漏れるかもしれないから、殺さずに放置というのもあり得ない。

 捕虜候補を残して他すべて殺し終えると、戦闘状況は終了し、再び編成画面が使えるようになった。


 戦闘後の事後処理として馬15頭すべてを自軍に組み込み、部下とした。

 あとは捕虜1名を魔法で回復させてから編入し、死んだ敵の装備を剥いで戦利品とする。

 アイテムというか装備類はほとんどが使い物にならないほど破損していたが、金属製品というのは中世ヨーロッパにおいて貴重品なのだ。この世界の文明レベルがどれほどか知らないが、クズ鉄のように扱ったところで高く売れるという期待が持てる。回収しない手はない。剥ぎ取りが近寄るだけでストレージに自動回収できるから、手間が少ないのもやっておこうという気になる理由だが。



 あと、こいつらは補給物資を少し離れたところに隠していた。そこには物資を守るための兵士もいたけど、これもさっくり殺して終了。弓が手に入ったので使ってみたが、クラスかスキルの影響で当たり前のように使えた。

 それと、事後処理扱いだったからか、それとも隠れて狙撃したからか。弓を手にして攻撃する瞬間でも編成画面は普通に使えた。うん、編成画面のON/OFFする条件がよく分からない。戦闘と暗殺は違うのかね? これも要検証という事で。





 こうして、俺にとって初めての戦闘、初めての人殺しは終わりを告げた。

 俺は人を殺すことに対して何の感慨も無い事に気落ちしつつ、これからの事に頭を働かせるのだった。

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