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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
4章 戦争世界のマーチャント
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閑話 ペナルティ

 ごたごたが片付いたことで、棚上げになっていた話が復活した。

 俺と古藤の、ペナルティの件だ。


「2人には、女装をしてもらいます」


 物理ダメージを無効化する俺たち。

 そんな俺たちに与えられた罰は、男のプライドをへし折る「女装」だった。


「うっわ、化粧のノリがいい。ほんとに男?」

「ウェストが細い……」

「肩幅、誤魔化すわよ」


 指定された服を着て、メイクやらなんやら、なすがままの俺。抵抗するよりさっさと終わらせてしまう方が傷が少ないとあきらめの境地に達した。

 最後の一線(下着)だけは死守できたが、その他に関しては大幅に譲歩する羽目になった。おかげでトランクス1枚の状態から弄られている。

 お笑い系ではなく、ガチ女装なのは救いか悪夢か……。


 って、夏奈! 錬金術でナニ作ってるんだ、オマエは!!

 髪を伸ばす薬は許容しよう。

 胸の詰め物も女装なのだから、身長とバランスを取るのだからと認めよう。

 だが、ガーターベルトにストッキング? 夏奈の錬金術は、そんな物を作るに至ったのか!


 髪の毛はHPに依存しないため、カットすることができる。無駄毛の処理もできる。

 だが、ガーターベルト? そして……メイド服だと!? いつの間に作った!! 驚かされてばっかりだな、無論悪い意味で!!

 精々誰かの服を借りる程度だと思っていたが、事態は俺の想像の斜め上を超えるどころか、虚数の世界に突入したらしい。女装させることに情熱を燃やす女子って一体…………。そんなに好きか、女装が?

 俺は溢れる涙を止める事が出来なかった。


「ちょっとこうちゃん、化粧が流れちゃうじゃない。止めないと……冬杜さんに代わって、オシオキだよ?」

「はい」


 涙はすぐに止まった。





 悪夢は終わっても、現実(悪夢)は終わらない。

 とうとうお披露目の時間になった。

 全員スマホを構え、写真撮影の意思をこれでもかと見せつけている。


 古藤とは別の部屋(地獄)で女装していたため、奴がどうなったのかを俺は知らない。ただ、声は聞こえていた。


「やめろ三浦! ぶっ飛ばすぞ!?」

「ふふふ、その言葉が聞きたかったんです。いい声で泣きなさい!」

「この、悪魔め!」

「大丈夫。これからあなたは悪魔では無く、オカマになるのですから」

「畜生、畜生! こん畜生ぅーー!!」


 奴もまた、越えたくない一線と戦っていたのだろう。奴の悪夢がどのような結末を迎えたのかは分からないが、等しく心を折られたはずだ。



「あっあははははっ! なんだよ古藤、それ!!」

「マジウケル! 後で写真見せてやんよ!」


 お披露目は古藤からだった。

 古藤の女装はお笑い系。いかにも「マッチョが女装しています」というネタに走った女装だ。食堂に作られた特設ステージの上で突っ立って(晒し者になって)いる。

 女装とは言っているが、どちらかと言えば古藤の男らしさを強調するように、女らしくならないような、下手なメイクをしていた。

 髪型はツインテール、服は腕むき出しでミニスカのゴスロリ、わざと肩幅を大きく男らしく見せ、化粧は白粉(おしろい)と一昔前の漫画のようなベタな口紅。


「しんちゃん、こっち向いてー」

「可愛いよ、しんちゃーん」


 これが、拷問という奴か……。

 動画と写真の撮影で永久保存とか、マジで鬼だな。古藤の目が死んでいく。なお、「しんちゃん」というのは古藤の名前だ。古藤真一。あとちょっとで名探偵になれた男と評判である。

 撮影終了時の古藤はすでに生ける屍だ。男の矜持を、心をレイプされたのだからしょうがない。口から魂が抜けている。女子はやり遂げたとばかりにドヤ顔をしていて、ちょっとイラっとした。



 そして、俺の番になった。赤井に手を引かれ、ステージに上がる。

 ただ、俺が舞台に上がると観客(アクマども)の声がやんだ。俺を凝視し、口を開けたままにしている。

 どうやら俺のガチ女装はインパクトがあったようだ。


「え? 四方堂? マジで!?」

「嘘……負けた?」


 口々に確認の声を上げるクラスメイト。

 負けたとか言っているのもいるけど、お前さんらも本気メイクすれば今より2~3個ぐらいはランクあがるからな? 今の俺は担当した女子の全力全開、奴らの作品のようなものだ。凄いのは奴らの情熱でしかない。


 写真撮影といった雰囲気でもないので、もう終わりにしようとさっさとステージから戻ろうとしたところで赤井に捕まった。


「まだ終わりじゃないよ、こうちゃん」


 俺はこの格好で喋りたくないので無言のまま。仕方ないとそのまま残る。


「ほらみんな、今日限定の女装こうちゃんだよ? 今のうちに撮影しないと、撮れないまま終わりになるよ?」

「今日限定!? まさか、今日一日この格好か!?」


 喋らないでいようという自身の制約も忘れ、思わず突っ込んでしまった。

 話では今日一日ではなく、このステージで撮影会をする間という話だった。だから耐えられそうだと思ったのにっ!


「みんなもそれでいいよねー!」

「「「おぉーーっ!!」」」

「断る! 話が違うぞ!!」


 激高する俺の方に、赤井は手を乗せ言う。


「女の子がそんな喋り方じゃ駄目だよ。その格好だし「お断りします。そのような話ではありませんでした」の方がいいんじゃないかな?」

「いや、むしろ女王様のように!」

「このままでもいいんじゃない? ギャップ萌えよ!」


 天使のように微笑む赤井。

 騒ぎ立てるクラスメイト。


 この場に、味方はいない。

 不利を悟った俺は身を翻し、逃亡を試みる。


「ははは。一人、どこへ行こうというんだ、なぁ四方堂?」


 仲間のはずの、同じ地獄に落ちたはずの古藤が俺の前に立ちふさがった。女装姿のままで。間近で見た衝撃の所為で足が止まる。

 他のクラスメイトも臨戦態勢に入り、包囲網を形成する。


 しかし俺は『ブレタク』全てのスキルをマスターした男。スキル『ショートジャンプ』『瞬天』をセットし、包囲網の向こうにテレポートしようと試みた。

 だが。


「予測済みっす!」


 橘がスキル『ゾーンガード』――自分の周囲を通ろうとする敵ユニットの動きを阻害するスキル――で俺の動きを止めた。

 こっちは熟練度カンストだぞ!? って、橘のスキルも意外と熟練度が高けぇ!?


 初手でしくじった俺は、完全に詰んだ。

 全員が『ゾーンガード』をセットし、逃げられないように手を打ってしまった。





 その後の事は思い出したくもない。

 子供たちから「こーいちおねーちゃん」などと呼ばれた辺りで考えるのを、その後を記憶することを止めたのだ。


 翌日には男の格好をしていたので、もう悪夢は終わった、朝が来たのだと本気で泣いてしまう。

 それ以来、俺はメイド服を見ると怖気が走るようになった。



 もう二度と、女装はしない!!

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