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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
4章 戦争世界のマーチャント
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口約束

 三浦さんの活躍により、「幻霧楼(げんむろう)」での商談は無事に終わった。

 空になったリュックを背負い、俺達は宿に向かう。


 別にそのまま馬車に合流するとか村に帰るとかでもいいのだが、普通に考え、重い荷物を抱えて街に入った人間が、休みもとらずに街を出るというのは一般的ではない。もうすぐ夜になるので、外に出るより一泊することを選ぶのが普通の商人(戦えない人)の感性だろう。

 それに、商人であれば売れそうなものを安く買い集める方が普通じゃないだろうか? 空荷で動くのは無駄なのである。


 目立たない為の偽装工作というより、商人らしいロールプレイを楽しむため。

 冬杜と三浦さんは街に来たのはこれが初めてだ。どうせだから楽しんでいこう。



「それじゃあ、今日はもう宿で休むとして。明日は「街だから安く買える物」ってやつを探そうか」

「おっけー」

「分かったよ」


 反対するような意見も無かったので、今日明日の予定はそれで決まりだ。

 こうなると「村で欲しい物」を判断するために、誰か連れてこれば良かったと少し後悔する。

 もっとも、たとえ男でも戦えない奴を街に入れるのは、安全面から却下される意見だけど。狙われるかもしれない場所に、非戦闘員は連れていけないのだ。





「うえっ! 何これ! クソ不味いんだけど!!」

「ホントですね。塩辛かった方が、まだマシですよ?」

「だから言ったのに。ほれ、おにぎり」

「さんきゅー」

「あ。私にもください」


 せっかくの異世界なんだから、不味いと分かっていても現地の料理を食べてみたくなるのが人情だ。

 俺が買っておいた干し肉を湯で柔らかくしてみたのだが、豪快にかぶりついた冬杜は思わず吐きそうになり、警戒していた三浦さんは本当に小さく齧っただけで上手く逃げた。


 冬杜は涙目でおにぎりを齧り、口直しをしている。

 俺達はニヤニヤとそれを見ている。冬杜が恨みがましい目線を向けるが、それすらも笑いを誘うだけである。


 赤井は王都にいた時期があったので、この世界の素材については既に経験済みだ。襲ってきた兵士から奪った食料は低品質としか言いようのない品だったらしい。まぁ、一般兵の食事なんて最低品質とは言わないけど、高価なものを使うとは思えないし、しょうがないだろう。

 肉は血抜きなどが適当らしく、雑味が強い。膀胱などの処理に失敗しようと喰える部位なら売ってしまえという風潮なので、外れる(マズい)のも必然だ。他にも、日本では売り場に出ないような、味の無い部位なども売られているので、本当に残念な肉が多いようだ。

 ……それでも庶民にとって肉は高級品で、口にできるだけ幸せなのだ。そんな庶民の普段の食事風景など、想像したくもないな。



「コウイチさん、お客さんが会いに来ています。どうされますか?」

「どちらさん?」

「娼館「天津風」の使いです」

「……ああ、あの店か。すぐに行きますね」


 そんなふうに俺達が宿屋で食事をしていると、宿の店員が来客を告げた。

 言われて1階の食堂に顔を出すと、つい最近知り合ったばかりの顔がそこにあった。この街一番の娼館のオーナー、ではなく、門番の青年である。名前は知らない。彼は俺の顔を見つけると軽く会釈した。


「どうも、お久しぶりで……す?」


 門番の彼は爽やかな笑顔を浮かべている。が、ある程度近付くと、その笑顔がわずかに曇った。俺が不機嫌そうだからである。挨拶も最後は疑問形になってしまった。

 前回、俺は門前払いを喰らった。その事自体は当然の判断だし、こちらに非があるので気にしてはいない。

 だが用があるからと押し掛けた使者がただの門番でしかないのは、こちらの事を軽んじている証拠である。いきなりオーナーが出て来るなどあり得ないが、それが不機嫌の原因だ。


「それで、何用でしょうか?」


 商談は通常、本題を持ってこない。関係の無い雑談程度の話をしてから切り出すのが普通である。が、彼は商人ではないし、ただのお使いだ。半人前どころか論外といった対応をしてみせる。


「当店の者がお会いしたいという事で、場を設けよ――」

「不要です。この街での商談は終わりました。お引き取りを」

「この話は領主――」

「くどい。早く帰れ」


 どうでもいい内容だったので、相手の言葉に被せる様に返事をした。表情を動かさず、冷たくあしらう。

 さすがにこちらが邪険にしている事が分かったので、門番の彼は顔をひきつらせた。商談を持ちかけた人間の態度ではないと、内心では相当憤慨しているだろうな。


 これは相手が俺にとった態度でもある。

 敵を減らし味方を増やすのが正しい行動なので、俺の態度は褒められたものではない。周囲からはまるで子供のように映るだろう。

 俺がここで相手の言葉に唯々諾々と従うようでは、相手に舐められてしまう。ある程度強硬な姿勢を貫き、「我々は対等である」と伝えねばならない。その為に同じような事をし返したのだ。


「おいおい、少しぐらい話を聞いてやってもいいんじゃないか?」

「……そうか?」


 だが、強硬な主張だけでは話にならない。意味も無く敵を作る趣味は無い。

 硬軟取り入れた対応のため、俺はヘルプに三加村を呼ぶ。


「すまんね。アンタの所から一度追い返されてるからさ、コイツ、意固地になってるんだ。許してやってくれ」


 三加村に俺と門番の間を取り成してもらい、譲歩の余地を作る。

 主である俺が険のある態度で臨み、従である三加村が緩衝材として話を聞く。こうすることで相手は「難しい相手だけど、とりあえず話だけは聞いてもらえる」といった心境になる。相手は無理を言い難くなり、こちらに有利な条件で商談をスタートできるのだ。


 門番はようやく何とかなりそうだと安堵の表情を作り、三加村をターゲットに話を進めていく。

 ときどき「そんな条件が呑めるか」「話にならん」などと口を挟み、相手に有利な条件を潰し、少しでも話を有利に進める。


 相手の言いたいことを要約すると、「領主主導で交易をさせてやるから、こちらに物資を流せ。それと、近日中に契約を結ぶから時間を空けておけ」という事だ。完全に上から目線である。娼館の門番のくせになぜか領主の使いなので、虎の威を借る狐状態なのだが。

 話をそのまま受け入れる気は無いので、「話ぐらいは聞いてやるが、こっちも暇じゃない。大体一月後ぐらいにまた来るから、話を聞くのはその時だ」というニュアンスで返答してみた。


 この街の物資が足りない理由は王都にクラスメイトがいたからである。奴らが消費していた分、地方に回らなくなったというのが原因だ。

 だから王都からクラスメイトをこっちに引っ張って約一月。更に一月経てば王都でクラスメイトが消費していた食材なども届くだろう。俺も大きい態度を取ったので、話は自然消滅すると思われる。


 それにこういった事は相談して決めたい。また独断専行で懲罰を喰らっては堪ったモノではない。

 一応だが、俺は学習しているのだ。やったばかりのミスを繰り返すような真似はしないのだ。





 そうして俺達は門番と口約束(・・・)をして、その場を離れた。

 これでいざとなれば逃げ切る事もできるな。


 相手が強権を使わなければ、な。

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