三浦瑤子の冒険物語
忘れている奴も多いが、日本どころか世界的に見ても、近代以前の世界において女性は立場が低い。
男性と女性の肉体的な差異に加え、主神が男神という宗教的な話により、男性上位な世界なのだ。異世界であっても魔法などが男女の性差を軽減するほど広まっていない事もあり、地球側の事情と大差ない。
だから、男性上位の街中には女性陣を連れて行きたくなかったのだ。性的な意味で関係を強要されかねないから。この世界、身分に問題なければ脅迫からの強姦が犯罪行為ではないのだ。
一応、結婚している女性であれば不義を理由に身を守る事が出来る。女性の権利がどうこうではなく、相手の男性に配慮するという意味で。貴族相手だと、平民には拒めそうもないらしいけどな……。
完全でなくともお護りにはなるのだ、偽装結婚で身を守ってもらおうと思ったのだが。
何故か女性陣の反応が変である。
「四方堂の嫁は赤井? それともヨーコ?」
「私でもいいんですか?」
「いんじゃね? アタシ、別にアンタの事、嫌ってないし」
「……そうですね、それでいいと思います」
「ヨーコは退いちゃったか。ま、いーけど」
赤井は冬杜の申し出に驚いているが、冬杜は手をひらひらさせて「どうでもいい」と話を軽く流す。
三浦さんは少し迷っているけど、赤井を俺の嫁役にすることに同意した。特に異論はないようだ。
俺としても、赤井が嫁役をやるのは想定内だ。本人が希望するだろうし、二人がそれを反対する理由を持たないので。
赤井は俺の元恋人と嫌な関係だが、だからといって不幸になれとは思っていないし、未然に防げる不幸を無視してまで関わりたくないと言い出すほど子供じゃないつもりだ。適度に距離を取りつつ、突き放すこともしないのが大人の対応だろう、きっと。
「まとめて全員俺の嫁とか言わないのか?」などと野次があったが、ハーレムルートは却下の方向で。
一夫多妻が認められるのは貴族だけである。一般人なら妾を囲うのが精々であり、複数の娘を嫁にできない。
そもそも、複数の嫁とかどんなドMだ。好き好んで多くの責任など、持ちたくない。
お金を出して遊ぶぐらいなら構わないけどな。既定の金額さえ払えばそこで責任終了だし。
商品の「性」は買うけど、代金や報酬の「性」は要らないんだよ、俺。
馬車で移動する組は今から出発し、ブリリアントを目指す。馬車による移動時間の確認が目的だ。
メンバーは交易を提案した青年に、護衛としてクラスメイトの男連中からもう二人。元娼婦の村娘さんも二人加え、世話役に任命。
荷物の事もあり、これだけ人数がいると十人乗りの馬車でも狭く感じるが、そこはもう諦めてもらおう。普通の行商は馬車には荷物だけを載せ、人は歩いて付いて行くのが普通らしいし。移動速度は半減するが、馬への負担なども考えるとその方が効率がいいらしいので。馬車に乗るのは貴族様、らしいね。
これに関しては経験者がいないので、「聞いた話」程度の正確さでしかない情報だけど。
俺は転移門で独りブリリアントに戻る。
今回はこっそり外に出たので、街中に入るのもばれない様に、だ。
宿に戻っても客が来たとかそういった話は無く、その後も何か問題が起こる事も無く、平和に時間が過ぎていくのであった。
村に戻ってから三日目。馬車組がブリリアントに到着した。
彼らにはすぐに街に入らず、転移門の近く、街の外で待機してもらっている。冬杜らを転移門で迎えに行くためだ。
伝言役の田島は道中に問題が無かったことを報告してくれたが、その表情には疲れが見える。問題が無いとは言っても不都合が無かったわけじゃなさそうだ。そのあたりは今度の改善内容として挙げてもらう事にしよう。
その後は俺も街の外に行って全員を合流させ、最後の打ち合わせを行い、宿まで来てもらう事にした。
なお、馬車は待機である。馬車から必要最低限の荷物だけを持ちだし、冬杜ら五人だけに来てもらう。税金対策していますよ、というアピールの為に。そして売り物はストレージの外に出した状態での運搬となる。
頑張れ古藤。頑張れ三加村。1人当たり肉50㎏は大変だろうが、女性陣に手伝う気が無いぞ。彼女らも果物や香辛料を持ち込むわけだし、サボっていないしな。
門の所で税金を立て替えてもらう事を証明し、冬杜らは俺と合流する。
50㎏もの肉を持った状態で5㎞ぐらい歩かされた古藤らはそれでも疲れを見せず、高ステータスの面目を保った。女子三人も大きいリュック(こちらの世界に合わせて作った、目立たない物)に果物を詰め込み歩いて来たのだが、こちらは疲れた様子。この差は精神的なものが原因で、物理的な出力などはあまり関係ないようだと思う。ステータスの差は少ないのだ。
「肉を税と偽って持っていかれそうになったが、立て替えの約束があるのでそれを盾に逃げ切った」だの、最後の最後であった苦労話を聞かされた。
クラス「商人」のスキル≪交渉≫≪値引き≫などを事前にセットしていたため、それらが助けになったと三浦さんは言っていた。スキルの熟練度も上昇していたし、対人系スキルを今のうちに鍛えておくのもいいかもしれない。村だとほとんど上がらないからな。
合流した後は「幻霧楼」で荷物を減らす。
持ってきた物は約束したとおりの物なので、目録と品質の確認をされただけですぐに今回の商談は終わった。
売った商品の一部はそのままこちらが調理して味見という流れになったが、肉も果物のどちらも好評であり、本格的に俺達と継続的な商談を望まれる。
それについては三浦さんが対応してくれた。
正直なところ、こういった交渉では俺が出張らなければ冬杜が前に出ると思っていた。三浦さんが交渉に臨むとは考えていなかった。
「私もゲーム能力? それが使えるようになったのよ」
三浦さんのゲーム能力はADVゲーム系で、何かするときに選択肢から行動を選ぶというものらしい。選択肢の中には必ず正解があり、しかも商談であればクラスを商人にして、戦闘中であれば戦闘系のクラスにするいくつかスキルをセットするだけで正解を引き当てる確率を高めることができるという。
しかし問題もあるようで、選択肢の方は任意で出せるけど、その選択肢を読み込み、どれを選ぶか決めるまでに時間がかかる。即断即決をするには習熟の度合いが低く、「戦闘では選び終わる前に倒されちゃうと思います」ということだ。商談の時も、喋り出すまでに不自然な間が何度か空いていた。即答が要求されるときは逆に足を引っ張りそうなのである。
余談だが、正解を選んだ時は「ぴろりろりん」で、間違った時は「ちろりろりん」とSEが入る。
……たぶんだが、恋愛ADVなのだろう。ゲームのタイトルは教えて貰えなかった。




