交易品
商談をまとめた俺は、早々に街を立ち去る事にした。
だが、俺を襲ったのは領主の手の者で。
街の出入りには門番がいて彼らの許可を得る必要があって。
領主と物理的に敵対したままでは通れないのである。
「先ほど、街で何かあったらしくてね。今は誰も通すなとのご命令だ」
門番の態度は冷たく、こちらを睨む訳ではないが面白くなさそうな態度を取っている。
姿を隠し裏口から突破しても良かったのだが、それだと出入りの記録からこちらが不正な方法で出入りしているという事がばれてしまう。荷物を取りに外に行くことはガランド氏に告げてあるし、彼が荷物持ち込み時の税金を払う以上、裏口から出入りをこっそり行うというのもNGだ。いずればれる。
こういう時は枷を一つ外せばいいか。
ガランド氏に街の出入りができなくなったこと、そのため納品が遅れる旨を説明しに行くか。
さすがに彼でも門番に鼻薬を嗅がせるような真似は出来まい。
「むむむ……。それは何ともならんな。それより問題は納期だの。3日後に門を通れるようになったと仮定して、品はいつごろ用意できそうかの?」
「翌日には何とかなります。連絡するだけなら、門をくぐる必要もありませんので」
「一応、動いてはみましょう。せめて貴方だけでも外に出られれば良いわけですから」
騒ぎの犯人は俺なわけですがね。
ありがたく助けてもらうとするか。
俺は無理をせず、さっさと宿屋に戻……らず、街から抜け出し村に戻るのだった。
「何やってんのよ、このおバカ」
村に戻り、有識者会議と洒落こんだ。現状打破の為の知恵を借りる為だ。
その結果、参加者全員から呆れたような視線と罵声をいただきました。俺はMじゃないので嬉しくない。
「アンタなら領主に直接売り込みに行っても何とかなったっしょ? 領主にまで喧嘩を売るとか、マジで馬鹿じゃん」
俺に直接いろいろ言っているのは冬杜だ。
言われてもしょうがない失態なので甘んじて受けておくが。
「それにさー、人増やしたばっかでクソ忙しい時期に商談を取りまとめてくるとか意味分かんない。
しかも定期的な奴でしょ? それを相談なしでハナシ進める? 馬鹿なの? 死ぬの?」
冬杜の辛らつな言葉は他の仲間の心情でもある。今回は赤井を含む仲間からも擁護の声が無い。
今の冬杜たちは新人の研修で普段より仕事が多くなっている。更に行商の話を古藤らから聞いていたようで、俺に気を使いそちらの準備を進めていた様子。
つまり、忙しかったわけだ。
余計な仕事を増やした俺は戦犯である。
「四方堂……アンタ、古藤とセットで罰ゲーム。拒否できると思うなよ?」
「イエス、マム!」
「……楽に死ねると思うなよ」
青筋立てた冬杜に、俺は最敬礼で答えた。
が、不評だった。
物理・魔法的には死なないハズの俺たち相手への罰ゲーム。冬杜はいったい何を仕掛けてくるのだろうか?
「3日後に合わせて“私らが”荷物を届けるから」
「え?」
「何よ? 何か文句あんの?」
不出来な俺への叱責が終われば、その後は建設的な話し合いである。
新人研修並びに行商に関しては完全に手を離れている。そっちに口を出すのは止めておくことにしたので、議題はブリリアントの街へ届ける荷の話だ。
俺としては厄介事回避のために女子が出張るのは止めて欲しいのだが……。
「アンタが暴走するからでしょうが。アタシ以外に適任がいれば、変わるけど?」
こう言われれば止める事など出来ない。冬杜と三浦さん、赤井の参加が決まった。
さすがに女だけで動けば悪目立ちするからと、古藤と三加村も付いて来てくれる。
街と周辺との交易で、荷を運ぶために馬車を使う事になっている。使うのは王都からこっちに来た時の馬車と馬だ。この馬は編成画面を使わず強化をしていない普通の馬だ。目立ちたくない時には役に立つ。……見た目はそのままだけど、中身は魔改造しているがね。
ほとんどの売り物は保存の問題もありストレージを使うが、馬車は空荷で動かす訳ではない。周辺の村との交易用に酒樽を積んである。誰が主導かは知らないけど蒸留酒にブドウを漬けた疑似ワインで、日本では違法な品だが異世界なのだし問題ないだろうと興味本位で生産された品だ。
「酒は商品として鉄板だろう」という意見が強かったので、村との交易は酒を主力に、あとは薪を用意した。これぐらいなら、俺たちが居なくなった後も続けることができるだろうし。
俺が急遽決めたブリリアントとの交易だが、こちらは牛肉を100㎏、他にも果物や香辛料と調味料の類を馬車に詰め込み、これを売り物とすることになっている。
こっちは継続性を考えずに商品が決められた。突発的な話だったことに加え、相手のリクエストに応えるためだ。俺たちが居なくなり続けられなくなった時の言い訳は「害獣にやられて……」と言ってごまかすことに。
種子の問題は考えない事に。そこまで手を回すのは不可能だし、バナナのような種無しの品種ばかりでもないからな。
色々と準備を整え、そろそろ街に戻ろうかという所で、ふと決めておかねばならない事を思い出した。
「そうそう。女子全員、誰かの嫁の役を割り振るから。誰の嫁になるか、決めておくように」
異世界は、女性の人権をまだ認めていないのだ。




