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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
4章 戦争世界のマーチャント
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迷走中

 嫌がらせのような発言と行動でブルックリンを追い返した俺は、彼の後をつける事にした。

 奴が単独で行動を起こしたのか確認するためだ。


 正直なところ、準備不足でアドリブな対応をしてしまった自覚はある。多少は上手くやれたと思うが、完璧とは言い難い。

 推測推論も足りない時間の中で適当に思いついたことを採用しているだけで、細かい検証などはしていないし、そもそも証拠集めなどを怠っている。

 それを今のうちにどうにかしようというのだ。



 宿を出たブルックリンはそのまま店に戻らず、領主の館に入っていった。3階建ての大きな建物だ。

 スキル≪隠密≫により俺も屋敷の中に潜入する。


 領主の館は石でできた頑丈そうな建物だが、赤く染められた瓦葺きの屋根を見ると中世ヨーロッパ風というより中華風だった。元は他国の領地だったのかね? ここだけ文化圏が違う。

 ブルックリンはここではそれなりに顔が通っているようだが顔パスというほどではなく、途中途中で門番のような役目の者に身体チェックや審問を受けている。残念ながら王城よりも狭い屋敷の中をうろつくのは難しく、俺は途中で外から彼を追いかける羽目になった。庭には花木が植えてあり、隠れるのに困る事はない。少し離れた所で≪気配察知≫を使うだけで追うことができた。


 4度目の身体チェックを済ませたブルックリンは、とうとう領主の部屋に足を踏み入れる。

 ここに来て外から窺う事が不可能な場所に行かれてしまったので、何とか近くの空き部屋をと上の階から様子を探る事にした。さすがに領主の詰めている部屋は防諜ぐらいしているか。ガードが堅い。


「――では――断られ――」

「他の誰か――懐柔を――」

「――嫌われ――しかし――」


 防諜が、為されているようだ。

 頑張って様子を窺っているが、声は途切れ途切れにしか聞こえてこない。

 そもそも頑張った程度で領主の会話が聞こえてしまうような部屋なら、兵士たちなどが普段から詰めているだろうが。


「では――手筈――」

「――兵――手配――」


 内容は断片すぎて予測しにくい。

 だが領主とブルックリンが繋がっている事だけは確認できた。ついでに何か企んでいるだろうことも。



 それなら俺はおもてなしの準備をするとしよう。





 やはり迎撃をするには、地形の把握が肝心だ。

 俺は街の地図をどんどん埋めていく。

 人気のない所に迷い込んだふりをするにしても、説得力が無ければ相手を警戒させる。相手が誘導しようとしてくれるならそれに乗ればいいだけなんだが。どう出るか分からない以上、準備を怠るのは愚策だろう。……力押しで何とでもなるんだけどな!


 次にこちらの目的を悟らせないよう、適当な相手に商談を持ちかけるべきか?

 となると相手はこの街で一番と二番の高級娼館にするか、あえて奴隷商に話を振ってみるか。

 最初に街をうろついた時は金物などを中心に見て回った。

 だから食料品を商業的に扱う事がこの国でどんな意味を持つのか俺はあまり詳しくないので、そのあたりも調べる必要があるかね? 街中でも干し肉を一般販売していたことを考えると、肉は大丈夫か? でも生肉を扱う店は未だ見つかっていないんだよな。いや、街中で家畜を飼っている場所が見つからなかったことを考えると、牧畜関係は農村に任せてしまっているのか? まだ行っていないエリアに放牧地でもある……可能性は低いのだが。外周は見て回ったし、それは無いと断言できる。徒歩1日圏内にそれ専用の村でもあるのかな。モンスター肉が一般的で家畜は育てない主義? さすがにそれは無いか……。


「お姉さん、これ何の肉?」


 好奇心を抑えきれず、俺は近くにあった干し肉を扱っている店で店員に聞いてみる事にした。


「これはブッラックウルフの塩漬け干し肉だよ! この塊一つで銀貨1枚さ!」


 店員のおばちゃんは「お姉さん」呼ばわりに機嫌を良くしたのか、満面の笑みで商品の説明をしてくれる。

 聞いた値段と見た目から推測できる肉の量を計算してみるが、銀貨1枚で平均200gといった所か。他の店と比べてみたいが、値札を置いている店などどこにもない。だから相場は分からない。


「じゃあ3つ貰おうかな」

「あいよ! 毎度アリ!!」


 値切る事も考えたが、ただの市場調査でそこまでする気にもならない。メモ帳に「ブラックウルフの塩漬け干し肉:銀貨1枚で200g」と書いておく。

 そういえば、他の売り物から銀貨1枚を1000円程度って考えていたけど……これ、日本なら相当高いよな? 肉が高級品や嗜好品なのか、干して塩に漬けて乾燥させるための手間賃が高いのか。庶民の食べ物じゃないな。



 他の店にも入って市場調査を進める。

 どちらかと言えば銅貨1枚が基本単位になっているこの街の買い物事情だが、穀物や野菜類は総じて安く、肉などは割高という印象を受けた。肉は庶民の食べ物ではないらしい。……庶民の肉食って、近代からだっけ?


 そんなことを考えながら歩いていると、俺を付けて回るチンピラ共の気配がした。

 今はまだ昼前。もしも領主絡みであれば相当動きが早く、勤勉だなぁとのんきな事を思い浮かべる。

 街の調査はまだ不十分でどこに誘導するかも決めていなかったが、とにかく人気の無い所に向かって足早に移動することにした。



「おおっと。ちょっと待ちな、坊主」


 誰が坊主か、このハゲ頭。


 適当に選んだ裏路地、スラムと言っていいほど荒れた区画。そこで奴らは姿を見せた。

 速足で動いていたとはいえ、そこは常人レベルの話。土地勘のある地元民にとって回り込むのも容易である。


 敵の数は約30。たった一人に大げさな話である。

 ただし大半は姿を見せず、表にいるのはたった6人。隠れている理由は後詰めと言うより別枠か。チラリと見えた姿は兵士のようだし、衛兵などを配備してもめ事を起こしたとして俺をしょっ引くつもりなのかね?


「おまえさあ、ずいぶん羽振りがいいようじゃねぇか。ちょっとぐらい、俺らにも分けてもらおうとおも――」

「ほい」


 相手が言い終るよりも早く、俺は銀貨の詰まった袋を相手の足元に投げてみた。

 まずは挑発してみよう。と言うか、からかってみようという訳だ。


 金が欲しいというなら、くれてやろう。

 所詮はコピー品。惜しいとは全く思わない。むしろ銀貨を入れている袋がもったいないという話だな。 


 ハゲは口をパクパクさせて俺と袋を交互に見る。

 固まってしまったハゲに代わり、取り巻き一号が袋を拾って中を確認し――こいつも固まった。

 袋には銀貨1000枚が入っていて、それ一つでそれなりの資産価値がある。



 他の取り巻きも袋の中を見ようと集まっている。俺の方は誰も見ていない。

 その場のノリと勢いで、俺は逃げ出すことにした。





 逃げ出すついでに隠れていた連中数人を始末して死体をアイテムボックスに回収し、俺は再び人通りの多い場所に出る。殺したのは逃げる時にどうしても見つかるからだ。好き好んで殺しをするわけじゃない。

 時刻は既に昼であった。俺はおにぎりで素早く腹を満たし、この後の事を考える。


 「夜の夢」と揉めはしたが、あの店はこの街で3番目の高級娼館だった。つまり、上にあと2店舗あるわけだ。

 俺としては夜の夢の評判が下がって4番手になればいいかという程度の、俺にとっては軽く彼らにしては重めのペナルティのつもりだった。領主と組んで動き、いきなり荒事に持ち込むのは想定外である。


 こうなったらライバル店舗に営業をするか?



 行き当たりばったりで考え無しの行動であるが、俺は他の高級娼館を味方につけるべく行動を開始した。

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