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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
4章 戦争世界のマーチャント
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踏み台確保

「コーイチさん、来客です」


 夜が明け、朝日が昇る頃。スマホで時間を確認するが、AM6時になる前に起こされたようだ。


 昨夜は早々に寝たので睡眠時間は6時間以上確保してあるが、俺としては常識知らずな時間である。

 この世界の人々は昇る太陽によって起床時間を決めるため、俺たちの常識が通用しない場面が多い。


「来客? 誰が来たんですか?」

「娼館「夜の夢」のオーナー、ブルックリンさんです」


 おや?

 思ってもみなかったところから人が来たな。


「どうします?」


 少し考えてみたが、とりあえず話を聞く事にした。

 訂正。

 少し嫌味を言う事にした。





「いやはや。お会いする機会を頂きありがとうございます」


 初めて会った「夜の夢」のオーナー、ブルックリンは身綺麗な中年男だった。

 すらっとした体に整った顔立ち。鼻下のカイゼル髭はちょっとした富貴の象徴だったはず。着ている服も新品っぽいし、実際に裕福なんだろうね。

 今はニコニコと人好きのする笑みを浮かべている。


「旅の商人、コーイチです」


 対するこちらもそれなりにいい服を着ている。これは糸の製作から服の縫製までスキルで作った物なので、デザイン以外は異世界仕様に近い。

 表情については取り繕うつもりも無いので、不機嫌な顔そのままだ。


「先日は当店をご利用いただき、ありがとうございます――」


 商人の交渉ごとにおいて、最初から目的を明かすというのはあまりやらない話だ。つまらない雑談から入り、情報収集と軽い牽制を行うのが常になっている。

 ブルックリンもその例に漏れず、客として店の評価その他を聞き出そうとするところから話を進めていく。

 店の雰囲気や応対した娼婦(キャスト)の話は、翻って客の能力や立場を計る物差しになる。絵画などの評価が分かりやすいが、高級品を高級品と理解できるようになるには相応の教養が必要なのだ。


「いえ、あのレベルの調度品を――」

「ですが雰囲気に合わせてと考えると――」


 舐められる気はないので、本気を出して応戦する。各種スキルを使って店内を観察をしていたので、武器は十分。

 俺の言葉には多少は趣味が混じっているが、相手の表情がわずかに硬くなった事を考えると合格ラインは越えているようだ。



「ははは、いや、参りました」


 ある程度話が進んだところで、ブルックリンはおどけたような物言いで降参の意を示した。

 両手を上げて首を左右に振る。


「ところで、いくつかお聞きしたいことがあるのですが」


 そして、商談を切り出した。





「私どものお店で貴方様が出した料理の数々。非常に素晴らしい物だったと聞いています」


 なるほどね。高級食材が狙い……? いや、それならここまで直接的には言わないか。


「ここ最近、店に卸す食材のいくつかが、王都からの供給が絞られているのですよ。なんでも持て成さねばならない相手が出来たとかで、城の方に持っていかれてしまったそうです。

 今は何とかやりくりしていますが、このままでは拙いと考えていたところに貴方様の登場です。肉を中心とした食材の数々。僅かばかりでも私どもに卸して頂くことは可能でしょうか?」


 ブルックリンはいかにも困っていますといった表情で俺の方に身を乗り出した。

 なので、こちらは椅子の背もたれに体重を預け、余裕の笑顔を持って切り返そう。


「お断りします」



 俺の笑顔に一瞬期待を見せたが、にべもない応対に分かりやすく肩を落とす。

 だからそのまま笑顔で続ける。


「我々は、貴方のお店で身請けの話を持ち出しました。

 この話が受け入れられない可能性は最初から考えていました。手持ちでは足りない金額を要求されることも。

 そんな我々に対し、貴方方は「話を聞く」と言い対価を求めました。ええ、それは当然の権利でしょう。ここまでは全く問題ありません」


 ブルックリンはこちらの言葉を聞きのがすまいと真剣な表情で俺を見ている。いや、睨んでいる。


「相手にこちらの待遇がどれほどかを分かってもらう機会を与えられたと思った我々は、今できる範囲で出来る限りの事をしたと思います。

 ですが、それは最初から無駄な行為だった」


 こちらも睨み返し、目に殺気を込める。


「分かりますか?

 それが我々に対する、明らかな侮辱だったと。

 商人として、いや人として。明らかな宣戦布告であったと私は考えています」


 相手も死線を潜り抜けてきたのだろう。物騒な連中との付き合いだってあるはずだ。

 だが、こちらの殺気に気圧された。

 冷や汗が頬を伝い、あごから落ちた。


「貧乏人。野蛮人。我々をそのように扱った人間とする取引はありません。お引き取りを」


 最後にもう一度笑顔に切り替え、口の端を持ち上げた。

 当然ながら、殺気は収めていない。


「我々は、この街の上層部とも取引があり――」

「でしょうね。ですがそれももうすぐ無意味になる。我々には関係の無い話です」


 相手がしているであろう勘違い(・・・)を利用し、トドメをさす。


 俺たちを縁を結ぶのが相手の本命だったのだろう。

 推測だが、俺たちの事は他国、敵国の商人と考えたのだろう。で、戦後のあれこれを考え、保険の為に接触した。


 それに対し俺はどうにでもとれる、誤解を助長する発言を織り込んだ。

 これで挑発を含む嫌味は完璧だな。直接的な手段に訴えてくるなら相応の対応をすればいいだけだし。

 だから積極的に襲ってきてほしい所だ。



 ブルックリン(踏み台君)はちゃんと仕事をしてくれるかな?

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