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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
1章 召喚世界のゲーマーズ
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無能力者

「あれ? 孝一も何も出てこなかったクチ?」

「おう」

「んー、何かゲームをやりこんでいた人はみーんな、何か出てきたのに。おかしいねー?」


 夏奈のところに合流するのは止められなかった。むしろ手間が省けたと思われたのか、道を開けてもらえるほどだった。

 女子グループに混じるのは気が進まないが、今はそうも言ってられない。たぶん、放置するとやばい事になる。


 それと、夏奈の方も強ステの条件に気が付いたようだ。

 条件が分かったところでその理由までは分からないけどな。


 なんでゲームをやっている奴が強くなるのかは分からないが、そういう世界なのだと割り切っておこう。

 そういった事を考え出すと「なんで水が凍るのか」とか「火を熱いと感じる理由」を考えるかのようにように、無駄な時間を過ごしてしまう。

 俺達がされた召喚はそういった法則が適用される。今はそれでいい。





 外に出ると、この世界でも時刻は夜だったらしい。満天の星空が広がっていた。

 ただ、この世界の月は地球の月よりも大きく見えるようで、ここが異世界なのだと主張している。


 俺たちが今までいたのは石造りの神殿みたいな建物で、ここは人里からそれなりに離れた場所にある宗教施設だったようだ。

 ヨーロッパの教会のように見えるが、近くに宿泊用の施設っぽい建屋一軒と壁があるだけで、周りを見渡しても何も見えない。


 壁の向こうには道があるだけで、これから向かう王都とやらはここから馬車で2時間ぐらいの場所らしい。夜も遅いので、向こうに着いたらそのまま寝て、翌朝、王様とか偉い人と会って細かい話をするという。

 ……寝ている間に何か仕込まれないだろうな? それに夕飯ぐらい出せよと言いたい。

 一つの馬車に全員が乗れるわけではないので、いくつかのグループに分かれて乗るように言われた。



 用意されていた馬車は4台ある。


 最初に大司教の白髪男が高ステ勇者的メンバーと乗り込んだ。

 ひときわ豪華で、少人数用のようだ。クラスメイト6人乗った段階で満員らしい。

 お偉いさんである大司教がいるのでその護衛もセットだし、馬車は大きめだ。


 次にゲームシステムが適用されている、それなりステのグループ。

 それなりステの連中と言ったが、中にはレベルと体力の表示しかないブラウザゲーム系の奴も混じっている。

 こっちの馬車はそこまで豪華という訳ではない。この馬車には9人が乗り込んだ。

 兵士とか、そういった感じの人が一緒に乗り込んではいない。


 最後に、俺達ステ表示無しの馬車。残る10人がこの馬車に乗り込んだ。

 この馬車の外観はそれなり連中と同じぐらい。この馬車にも兵士とかは乗り込んでいない。

 つまり、最初の馬車に乗った連中だけが特別扱いされたという事か。もっとも、俺にしてみればお偉いさん、あの白髪男が一緒なので乗せてもらえるとしても拒否しただろうな。


 残った馬車は兵士用。騎兵らしき連中も20人ほど外にいるが、歩兵はこちらに詰め込まれるらしい。20人ぐらいが乗った。かなり大きい馬車だけど、あれは詰め込みすぎだな。



 なお、トイレなど無いので、小用は野外で済ませる事になった。

 俺たち男連中はいいが、女子はこの段階でかなり気まずそうにしているのが約半数。一々突っ込まないが、ね。





 俺達の馬車には兵士らしき連中が乗り込まず、御者二人がいるだけだ。この二人には言葉が通じず、必然的に会話は自分たちだけでする事になる。


「それでさぁ、村上の奴が言う訳。「俺にはお前しかいないんだ」って。馬鹿じゃねーの。エロ目的の海綿脳に言われても嬉しくないっての」

「うわー、マジウケるんですけどー」

「「「キャハハ!!」」」


 一緒に乗っているのは、夏奈達のグループと冬杜さんのグループ。

 うちのクラス、イジメとかそんな深刻な事は特にやってなくて、そこまで仲が悪い関係の奴はあまりいない。とりあえず、今いるメンバーで問題になりそうな組み合わせは無いはずだ。


 冬杜さんらのグループは大きな声で喋っているけど、あれは空元気と言うか、無理をしてでも平静を保つためにやっている事としか思えない。馬鹿な話をしている方が気がまぎれるからな。でかい声で喋られようとも、うるさいとかそんなことを言う気にはならない。


「あーもー、泣かないで、ね?」

「そんな……ことっ、言ったってっ……」

「ほら、向こうからこっちに呼べたってことは、こっちから向こうに行けるって。ほら、大司教のおじさんも「神様なら送り帰せる」って言ってたじゃない」

「お父さん……お母さん……」


 夏奈の周りは空気が悪いからな。ああして空気が悪くならないように頑張っているわけだ。

 黙っていればあのお通夜みたいな空気が感染するだろうし。

 それに、今こっちにいるクラスメイトの話題ばかりを振って、日本の出来事に結び付けないように気を使っている。

 普段喋らない相手だし、こうまで周囲に気を使う人とは思わなかったな。



 それよりも、俺が耳を澄ませて聞いているのは馬車の外の会話。御者二人の、こっちが異世界言語を喋れないと思い込んで油断している、とんでもない計画についてだ。

 こいつら、悪党決定だな。


「そろそろ襲撃地点だよな」

「ああ。上手く逃げないと、俺達まで殺されかねない」

「騎士様が本当に回収してくれるか?」

「言うな。俺達は信じなきゃ、生き残れない。逆らって王都に戻っても殺されるだけだぞ」

「そうだな。仕方が無いよな。後ろのガキどもには悪いが――生贄になってもらわないといけないからな」

「ああ。敵地に潜入してきた(・・・・・・・・・)他国の軍が(・・・・・)仲間を殺すわけだ(・・・・・・・・)。敵討ちぐらい、誰か考えるだろうが」

「聞いた話じゃ、あいつら役立たずみたいだからな。せめてそれぐらい、役に立ってもらわないとな」


 なにかのブラフで、俺達を騙そうとしている可能性が――あるとは思えない。

 こんなところで計画の確認とか正気を疑うけど、言葉が通じないと思っていれば、慎重に考えて事前確認をしているだけだし。

 そもそも、演技の可能性は襲撃の有無だけですぐに分かる事だ。さすがにこいつらが敵国の間者(スパイ)で、俺達を王国側から引き離そうとする離間工作を仕掛けているとは思えない。

 なんにせよ、結果すぐに出るだろう。





 そうやって馬車に揺られる事、40分程度。

 とうとうその時はやってきた。

 俺たちの進む方向を正面に見て左右側面。挟み撃ちにするように、馬か何かの足音が響いて来た。俺の『気配察知』にも敵の反応があるし、20を超える騎兵による襲撃か。


「敵襲! 敵襲!! 護衛団! 迎撃せよ!!」

「勇者様方を乗せた馬車を急がせろ!!」


 わざわざ日本語で(・・・・)聞こえてくる、わざとらしい声。

 この馬車にはいなかったようだけど、他の馬車には日本語翻訳ができる奴らが乗り込んでいたらしい。説明台詞を大声で叫んでいる。

 あとは――


「ぐわぁっ!!」

「ぎゃあっ!!」


 俺たちの乗る馬車の、御者がいなくなるだけである。

 御者の二人があからさまで演技としか思えないセリフを言って、御者台から飛び降りた。


 悲鳴を上げたとはいえ、飛び降りるとかどうなんだろうね。

 俺たちの馬車は御者がいなくなったことで制御を失い、道を外れ、立ち往生してしまった。

 すぐ近くに御者の反応があるが、俺達から距離を取る様に逃げている。



 不本意ではあるが、編成画面やスキルの検証を含め、俺は戦闘準備を行う事にした。

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