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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
4章 戦争世界のマーチャント
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娼婦、購入

「そうですか。では、我々はこれで失礼します」

「は?」

「また縁があったら会う事もあるでしょうね。

 全員、撤収!!」

「「「応!!」」」

「え?」



 名前も知らない娼婦に身請けを断られた俺達は、交渉することも無く撤収を開始する。

 冷静になって考え直したのは俺だけじゃなかったようで、他のみんなもここで身請けをすることに意味を見いだせず、待ってましたと言わんばかりの勢いで厨房の片づけをし始めた。……食べかけの、賄いを。胃の中に。

 娼婦たちの相手をしていた俺以外のメンバーは厨房スタッフとして働いていたが、さっきまで牛肉しゃぶしゃぶを楽しんでいたらしい。携帯コンロもどきにかけられた湯を張った鍋、薄切りにされた牛肉ロースとポン酢の入った小鉢がその証拠だ。これでしゃぶしゃぶ以外だったらそっちの方が驚きだ。

 古藤たちは残った肉を湯にくぐらせ、ポン酢で食べていく。薬味はネギや大根おろしを使っているが、個人ごとに好みは違うらしい。それぞれ入れている物が違う。

 人が仕事している最中に寛いでるなぁ、オイ。……仕方ないんだけどさ。


 ここで俺まで食べ始めたら収拾がつかないので、俺の昼食はまた後だ。

 鍋やらなんやら、持ち込んだものを適当に箱詰めする。ストレージに仕舞うところは見られたくないので、片づけられる物から順に片づけしていく。



 得る物は少なく失った時間が大きい商談は、こちらが大損といった風情であるが、実際の被害は大したことも無い。

 なので気持ちを切り替え、さっさと本命の行動に移る事にする。


「各自、銀貨2000枚持ったな?」

「おう」

「大丈夫だ」

「方法は任せるが、適当な娼館に行って身請けの話をしてくる事。人数は何人でも構わない。

 病気の方は『リカバリー』で治して、部位欠損などの場合はストレージの霊薬(エリクサー)を使う事。

 集合時刻は遅くとも夕方の5時までに、宿屋『黄金の夜明け亭』に戻る事。遅くなる場合はストレージに手紙を入れておく事。最悪、ヘルプを呼ぶときは『花火』を使って。

 もう準備はいいな?

 よし! じゃあ、解散!!」


 娼館は街の中でも一ヵ所に固まって存在する。風紀の乱れというか、場の雰囲気が周囲に悪影響を及ぼすから、隔離されているのだ。

 俺達はそんな娼館通りの一角で簡単なミーティングを行い、それから個人行動に移る。





 娼館通りを適当に歩くが、「ここだ!」という直感は働かない。俺はもともと直感で行動するタイプではないから閃かないのも当たり前なんだけど。

 それに、今は朝だ。時間が時間だから客引きのや立ちんぼすらいない。外をただ歩くだけのこの状況下では、自分の考える場末の娼館を探し当てるのは困難だ。

 多少無謀でも、建物の外観だけで判断しないと結果を出せないだろう。


 そんなわけで、適当な娼館に飛び込んで無茶を承知で我儘を言う。


「すまない。娼婦を買いたいんだが――」



 飛び込みで商談を吹っ掛けたにも拘らず、俺はほんの1時間で7人もの娼婦を購入できた。

 7人セットで銀貨2000枚。一人平均300枚(30万円)に満たない額で身請けできた。


 購入した娼婦たちは全員ガリガリに痩せこけていて、最低限の食事しかとっていないことが分かる。健康状態も思わしくない。

 「最近は娼館の経営が厳しく、娼婦を減らしたかったのでちょうど良かった」とは娼館の主の言だ。


 なんでも、この街が前線になり、兵士が増えたのは良かった。兵士は基本的に男ばかりで、客が増えたと思ったからだ。

 だが兵士たちはそこまで裕福ではなく、そもそも街にはとどまらずに砦に向かう。そして砦で消耗する物資は増加するので、街の流通が砦へと回される。減った物資の補充は減少分の半分も行われず、街で物不足が発生する。更には疎開を強要され、人口が1割ほど周辺の村々へと散っていった。

 砦への供給をする連中はいい。しかし街で生きている連中は一切の恩恵を受けることなく節制を強いられているのだった。



 話を聞く限り、もしも奴隷商に在庫(・・)いる(・・)として、買い手は付くのだろうか?

 街の人間には売れないだろう。

 そうなると売却先は国などの、徴発と称して買い叩きそうな連中ぐらいしかないはずで。

 ……もしかすると、足元を見るどころか安く買えるかもしれないな。



 とりあえず、買った娼婦たちに食事をさせるか。

 その後話を聞いて、ゆっくり考えよう。





 宿屋に戻り、ついでに部屋を借りた。

 まずは食事をとらせ、腹を満たしてもらう。いきなりガッツリ食べさせるのは胃に良くないので、魚介出汁の鮭粥を用意した。鮭は春香の作った湖産だけど……なんで鮭が釣れるのかは考えちゃいけないんだろうな…………。


 腹ペコな元娼婦たちは喜んでそれを貪り、笑顔を見せる。

 こう、素直な反応を示されると嬉しいね。最初の娼婦たちは嫌な感じだったからな。


 次に身を綺麗にする。

 水場に連れていき、服をひんむいたら石鹸とシャンプーで体から汚れを落とす。

 元娼婦たちは骨と皮だけというのは言い過ぎだが、こちらの性欲を誘うような状態ではなかった。髪はバサバサ、垢は皮膚のごとく厚みがあり肌を黒ずんで見せた。

 それが身を綺麗にしただけでずいぶん変わった。

 「髪はしっとり肌は艶々」とまではいかずとも、日本で普通に街を歩いている女の子程度に見えるようになった。

 頬が痩せこけ具合はちょっと普通とは違うけど、ダイエットしすぎと考えれば常識の範疇か?


 最後に新しい服を用意した。

 クラス女子の複製した服を出すわけではなく、こちらの世界準拠の、一般的な服だ。目立つからな、日本の服は。

 デザインはシンプルなワンピース。今は冬だからそれだけだと寒いので、羽織るものとしてカーディガンも渡す。



 元娼婦たちを身綺麗にし終えた頃には他の連中も戻ってきて、身請けした元娼婦は総勢20人になり、宿を貸し切る事になった。

 あー、もう一回同じことをしないとな。

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