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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
1章 召喚世界のゲーマーズ
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召喚者

 ここにきて1時間が経過しただろうか。そろそろクラスメイトが焦れてきた。トイレなんかの事情もあるんだろうけど、閉鎖空間に閉じ込められたままと言うのがいけなかったのだろうね。

 ああ、ちなみに、外への扉はみんなには分からない。俺はスキルを駆使したから分かるけど、パッと見ただけではただの壁にしか見えないように魔法(?)で偽装されている。


 そうやって焦りだしたクラスメイトの前に、とうとう異世界人(?)が姿を現した。

 偽装されていた壁が横にスライドしたかと思うと、白地に金の装飾品をジャラジャラと身に着けた50歳ぐらいの白髪男と、10人近い全身鎧と槍で完全武装した兵士が部屋になだれ込んでくる。

 急いで『バベル』をセットしようとしたが、その前に相手の言葉が分かるかどうかを試すことにした。

 装飾品過多の男が代表なのだろう、にこやかな笑みを浮かべたそいつは他の奴よりも一歩前に出て、両手を軽く広げて喋り出す。



「長らくお待たせして申し訳ありません、勇者様方。

 (ワタクシ)、リンデンロード王国で神官長を務める『アドマイヤー=ツェッペリン』と申します。以後、お見知り置きを」


 喋っている言葉が、強制的に理解できるようになったようだ。

 口の動きを観察してみるが、言葉とリンクしているように見えない。「あいうえお」の音と口の動きと一致しないのだ。

 つまり、相手側にも『バベル』相応のスキルか何かがあるという事だろう。

 ……面倒だな。

 俺は相手を“こちらの状況を理解していて、一方的な交渉をしてくるだろう厄介な相手”と認識し、脅威度をワンランク上げた。

 異世界から召喚した相手には言葉が通じない事を分かっているというのは、前例があったとみていいのかもしれない。こちらの手持ちの知識、ラノベ情報は信用度が今ひとつなのだ。交渉ではそれが大きなマイナスポイントになる。ついでに、こちらが日本語で喋れば相手に内容がばれないという事も無い。内緒話は小さな声でしないと拙いか。



「待たせたって、いったい何のことだよ! つーか、テメェらが俺たちをここに連れてきたってことだよな。さっさと元の場所に帰せよ!!」


 俺が思考の海に浸っている間も、状況は進む。

 男子の一人が喋った男に掴みかからん勢いで罵声を浴びせる。だが近くにいる兵士に気後れしたのだろう。本当に掴みかかるほど詰め寄ってはいない。


 対する男は笑みを消し、悲痛な表情を浮かべる。


「申し訳ありませんが、それはできません。なぜなら、皆様方を呼んだのは私ではなく、この国の守護神様なのですから」


 男は身振り手振りを交え、俺たちの身に何があったかを説明する。


 今、この男が所属する国、リンデンロード王国は未曽有の危機にさらされている。邪悪な他国が侵略戦争を仕掛けてきたというのだ。

 一対一なら何とか押し返すこともできるのだが、卑怯にも周辺国家5ヶ国のうち3ヶ国が攻めてきている。王国側にも同盟国はあるが、一対三では分が悪く、すでにいくつかの村が焼かれ、大きな町も占拠されたらしい。

 そこで自国の神に縋ったところ、その神様が俺たちをここに召喚するので、戦力として役立てるようにと神託が下りたらしい(・・・)


 一言で言えば嘘くさい話であり、信用するに値しない。

 普通に考え、攻められる側の言い分だけで事を判断するのは愚かだ。両者の意見を聞き、自身で調べ、ようやく公平な判断ができるというもの。一方の意見をうのみにするのは騙してくださいと言っているのと同じだ。

 クラスメイトの反応を窺えば、ほぼ全員が「信用できない」「協力したくない」という表情でいる。ありがちな「正義感で暴走する馬鹿勇者(笑)」は、うちのクラスにはいなかったらしい。正義感の強い奴もいるけど、全く信用していないという顔だ。

 まぁ、誘拐犯に協力したいなどと言うのはマジキチさんだけだろうから、当然と言えば当然なのだが。


 そんな俺たちの反応を見ても、白髪男の表情は大きく変化しない。ここまで想定内なんだろうけど。


「守護神様の御力によりこの地に来た皆様方を送り帰すことができるとすれば、それはやはり守護神様だけでしょう。他の神々もこの世界にはいらっしゃいますが、同じ世界に、と言うのであれば、守護神様以外の神々では難しいと考えます。それに、もしこの国の危機を乗り越える事が出来ず、我が国の国民が多く失われることがあれば、守護神様の御力を削ぐ結果となり、やはり送り帰すことが難しくなると思われます。それに、国を救うために呼んだというのに、国を救う前に帰すなどという事は為されないでしょう。

 一部は私の想像でしかない話ではありますが、元の生活に戻りたいというのであれば、我々に協力して頂くのが最善にして最短の道と考えます。

 もちろん、この国で過ごして頂くに当たって、待遇は国賓のそれをお約束します。衣食住、可能な限り良いものを提供する準備が御座います。

 どうでしょう、御一考願うだけでも出来ないでしょうか?」


 うん。ネット小説と同じ展開だな。主に個人で召喚された勇者ネタにおける鉄板(テンプレ)だ。

 送還を餌に働かせる。

 高待遇で不満を軽減し、たぶん行われるであろうハニートラップで帰化を狙う。

 ついでに生活の場を選ばせないことで情報を制限するんだろうね。都合のいい情報が入りやすいように身内で固めるとか。

 騙す気があるとしか思えない話だな。


 クラスメイトの方は、迷いだした奴が多数。

 それもしょうがない事と言える。親のスネをかじっていた俺たちがいきなり自立なんて出来ないからな。出来ると思っている奴は相当な楽観論の持ち主ぐらいだろうけど。

 第一、日本と国交があり事前情報のある外国で独り暮らしをするわけでもない。手持ちの金が使えないのは当然として、言葉が通じず文字は読めず、どこに行けば物が買えるかもわからない俺たちに、選択権は無いに等しい状況だ。生活の面倒を見てもらうのは、生き残るうえで必要な判断だろうね。今はまだ、だけど。



 そうやって迷いだしたクラスメイトに気を良くしたのか、白髪男はさらに手札を切る。


「そうそう。この世界に来るにあたって、皆様方には何らかの加護が与えられているはずです。

 これから配る札を持って頂ければその内容が分かるようになっています。

 さあ、お確かめください」


 兵士の一人が小さな金属の板を取り出し、俺たちに配りだした。

 金属板は千円札程度の大きさで、塗装も何もされておらず、銀色で表面はツルツルだ。手に持ったクラスメイトから「何これ!?」とか「おお、ゲームみてぇ!?」とか、かなりの反応がある。


 ここでちょっと気になったのが、兵士たちのセリフが異世界言語として聞こえる事。

 どうやら異世界言語を日本語に通訳するには何らかの条件があるようで、そのことは俺以外の何人かも気が付いたようだ。

 つまり、放り出されたら言葉が通じない状態でスタートか。

 ……わざとそれを教えたな、あの白髪男。


 それはともかく、渡された俺の金属板は何の反応も示さない。

 ……不良品か? それともセットしてある『隠密』の効果か? 他にらしいスキルはセットしていないし、隠蔽とかに使えそうなアビリティも無いんだが。


 スキルを外してみようかと思ったが、なんとなく危険な気がするのでやめておくことにした。

 表示しないことにも意味があると思ったからだ。



「そっちはどう?」

「ボクも駄目みたいだよー」


 夏奈の声が聞こえ、そちらに顔を向けてみると、何人かの女子が俺と同じ状態のようだ。「何も表示されない」というグループが出来ているみたいだ。

 そして逆に。


「テンプレキター!!」

「『エタブレ』のステがそのまま反映しているみたいですね! しかも最強状態で!!」

「『異世界トリップチート俺TUEEE!』そのまんま! チーレムもできそうじゃん!!」

「こっちは『錬金術師』シリーズのデータみたい。良かったー。どっちもレベル99からスタートで」


 男子連中のグループ何人かがかなり興奮している。俺と同様に最強キャラのステータスを反映されているらしいな。

 女子の中にもゲームデータを反映された奴がいるようだ。


 聞こえてくる声からすると、やっていたゲームのデータが反映されていると思って間違いなさそうだ。

 つまり、反映元のゲームは結構バラバラ。法則性も何もない様子。

 ……アイテムデータとかゲームシステムとか、どうやってバランス調整しているんだ?


「しばらくは世話してもらって、そのあとの事はそのあとで考えればいいんじゃね?」

「そうそう。こっちでは無一文だし、着の身着のままだし。少なくとも、金も稼げないうちに逆らったって何もできねーし」


 それはともかく、強ステを手に入れた連中のテンションが上がり、場の空気が明るくなった。

 そして白髪男に協力するかどうかはともかくとして、一時的に従い、様子を見るべきだという雰囲気になる。好意的、とまではいかないが、敵意にも似た感情が場の空気からは感じられなくなっている。

 もちろんなんの加護も貰っていないメンバーからは不平不満が感じられるが、代案も無く反対するほどではないといった案配(あんばい)だ。


 俺も対案など思いつかないので、まずは王都に行き、この白髪男が気に入らなければ金を奪って逃げればいいと結論付ける。

 盗むとか奪うといった手法を取るのは心苦しいが、自分の生存を第一に考えた場合、戦争で使い潰されるなど真っ平御免だからな。最低限の常識を学ぶまでは面倒を見させよう。俺がここにいるのはこいつらの所為なんだし。



「……ふむ。人数が多かったせいか、全員に神の加護が行き渡ったわけではなさそうですね。まあ、いいでしょう。

 それでは皆様方、これから王都『ファルシオン』まで案内させていただきます。兵士たちの誘導に従い、付いてきてください」


 全員が加護の確認をするのを確認してから、兵士たちが俺たちを部屋の外に連れ出す。


 ……あ。そうきたか。


 何気なしに付いて行こうとしたが、それで相手が何をやって、なぜ俺のステータスが表記されなかったのが分かった。

 こいつら、ステータスを何らかの方法で覗き見していたらしい。強い奴と弱い奴、ステータスが出てこなかった奴でグループを作っている。

 さりげなく選別(・・)している。そして、俺の『危険感知』がこいつらが敵だと告げだした。



 俺は少し考えると、ステータス表記無しグループ、夏奈のところに合流することにした。

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