閑話 乙女たちの内緒話(三浦 瑶子)
楓に私は手を引かれていきます。
楓は相当怒っているみたいです。孝一さんへの気持ちを考えれば当然ですね。
楓と知り合ったのは1年生の時、料理部に入った時の事です。
高校入学当時、両親の仕事が忙しくなり、私は家の手伝いの為に料理を覚える事にしました。それまで、学校の実習以外で料理をした事が無かったわけです。
料理を覚えるために料理部に入るというのは、単純ですが良い手だと思いました。
そしてその考えは間違っていませんでした。
料理を覚えた事もそうですが――
「瑶子ちゃん、これ、持っていきなよ」
「おやつもあるわよー」
私は先輩方に気に入られ、差し入れの類を貰えるようになったのです。
家庭の事情は説明してありました。
中には家まで来て、掃除を手伝ってくれる先輩もいました。
「可愛い後輩だからね、どうにも放っておけないんだよ」
みんないい人で、とても良くしてくれました。
ただ……
「瑶子ちゃん、これ食べる?」
「これも美味しいよ、瑶子ちゃん」
「えー。瑶子ちゃん、こっちの方がいいよねー?」
同級生まで後輩扱いっていうのはどうなのでしょうか?
いえ、私が小学生のような外見だという自覚はありますよ?
ですけどね? 3年生になった今でも部員全員から後輩扱いは酷いと思うのですよ。
そんな扱いの私ですが、楓とは結構仲が良かったのです。孝一さんへの思いも随分聞かされました。
ですから、楓が孝一さんと復縁したいというのはよく知っています。その感情が、やや病んでいるようなほどに深い事も。
それでも2年前、恋人といろいろとあった時には、味方しませんでしたけどね。
あれはさすがにどうかと、当時の私も思ったものです。
浮気は重罪なのです。フォロー不可なのですよ。
……日本にいた時の話ですが、別れてからの2年間一度もぶれない恋心に感心し、今では協力してもいいと言ってしまいましたが。
「楓、行くならこっちです」
「瑶子ちゃん?」
「ゆっくり話すのに、適した家ですよ? 私と孝一さんの家ですから」
「ふふ、そうね。じゃあ、案内して頂戴」
そんなわけで、孝一さんとの関係を考えれば、楓と揉める事は予想していました。
普段はしない「孝一さん」呼ばわりで挑発しつつ、こちらのテリトリーに引きずり込み、用意された状況に持っていきます。楓とは3年間ずっと友人でしたからね。いい武器がある以上、コントロールするぐらい簡単なのです。
今度は私が手を引く状況になり、楓を引っ張っていきます。
「瑶子ちゃん、ごくろう!」
「待っていましたよ、楓さん」
「あー、気分おもーい。ん? 赤井さんと瑶子ちゃん? ああ、もうそんな時間なのねー」
そして私たちの家まで楓を連れてきました。
今回話し合うために来てもらったのは孝一さんの友人「伊澄 夏奈」さん、従妹の「涼宮 春香」さん、無関係なクラスメイト代表「橘 水奈」さんの3人。
本当は静音にも来てほしかったんですけどね。孝一さんを引き離すため食堂に残ってもらいました。
「瑶子ちゃん?」
家の中にいた3人を見て、楓が少し怯みます。
私の性格と合わせて、自分が嵌められた事に気が付いたのですね。同じハメるのでしたら私は是非孝一さんに――ではなく、罠にかかり、不味い状況というのを理解したわけでしょう。相変わらず、楓は反応が可愛いですよね。
「さぁ、お話を始めましょう?」
孝一さんの異常を理解する者として、私たちは1人でも多くの協力者が欲しいのです。
頑張ってくださいね、楓。
私たちだって頑張りますし。




