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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
3章 傀儡世界のマリオネット
33/122

決着 不死者の心の壊し方

本文中、残虐な行為があります。

BLに耐性が無い方は「古藤の心が折られた」とだけ理解し、次話にスキップしてください。

 HPが減らないというチートは、一見強力で無敵に思える。

 しかし、弱点が存在するのだ。


 まず、「ダメージを負わない」ことと「補給が必要ない」こととは根本的に異なる。

 例えば、食事や睡眠は必要だ。飲まず食わずではいずれ身体が動かなくなる。寝なければ脳の処理速度が落ちてまともに行動できなくなる。回復魔法で対処可能とは言え、筋肉に疲労が蓄積することもなくならない。これらは「ダメージではない」からだ。


 また、「HPが減らない」ことは「HPを減らせない」ことにも繋がる。何故これが弱点になるのかというと、「関節技に弱くなる」からだ。今、俺がやっているように、同じ腕力の相手に関節を固定されると、魔法抜きでは対処できなくなるのだ。

 もしもHPが減らせるのであれば、関節を無理矢理外すなどといった対処も可能だろう。骨折を恐れず無理に力を入れてもいい。しかし、HPを減らせない以上、これらの対処は選択肢から消える。自傷もできないわけだ。


 あとは状態異常に弱い。これらは別の対処が必要で、別処理になる。

 そもそも俺が惚れ薬で暴走したように、対処不可能な状態異常も存在するのだが。



 一瞬、周囲が光ったかと思うとダンジョンの外に俺たちは転移した。兵士たちの駐留地からそれほど距離の無い場所である。

 地上に放り出された俺は、古藤に最後通牒を突き付ける。


「反省する、二度と赤井に手を出さない。これを約束するなら、一度ぐらいは見逃すぞ?」

「悪には屈しない! 俺は絶対に死なないんだ、負けるはずがない!!」

「……馬鹿が」


 古藤は頭に血が上っているのか、俺からの提案をノータイムで蹴った。

 言葉による解決は難しく、暴力を用いても肉体的損傷を与える事が出来ないため腕力で従わせることもできない。

 だけど対処法は、すでに手の中にある。

 ただし、それは俺にとっても気に食わない方法で、どうしても気が咎める。


「いいんだな?」

「くどい!」


 意識するでもなく、もう一度念を押してしまった。無駄であったが。

 古藤の頑なな態度に、俺は覚悟を決めた。ストレージから目隠し(アイマスク)と小さな瓶を取り出す。

 片手しか使えないから悪戦苦闘しながらも両目を完全に覆い、地面に顔を叩きつける。口の中に砂が入るように。

 そのあと顔を持ち上げれば砂や土を吐き出そうと、古藤は唾を吐いた。


 ――唾を吐いた分、口の中は乾くよな?


「ぺっぺっ! くそっ! 俺にこんなことをしてただで済むと思うなよ!」


 すでに台詞が三流の悪役そのものである。

 HPが減らなくても口の中に土砂を押し込まれれば不快感は拭えない。色々と吐いて荒くなった呼吸が整ったところで、本命である瓶を古藤の口にねじ込んだ。


 ――タイミング良く、兵士が見回りか古藤の声を聞きつけたのか、こちらに8人ほど向かって走ってきた。


 不意打ちで瓶を突っ込まれた古藤は、その中身を思わず飲み込んでしまった。いや、少量だったから乾いた口に吸収されたのかもしれないな。もし駄目なら樽にでも顔をブチ込み、無理にでも飲ませたのだが、あっさり済んで良かった。

 俺は追加で瓶をいくつか取り出すと、すぐに使えるよう、蓋を取って待機。ほどなくして現れた兵士の姿を確認すると、再び≪三重加速≫をしてから、古藤を解放して兵士たちの口に瓶をねじ込む。

 そしてそのまま古藤と兵士たちから逃げるようにダンジョンに向かって全力疾走した。


 ――さあ、地獄の始まりだ。



 風に乗った声が聞こえる。愛し合う男たちの、悦びの叫び。

 掘って掘られてまた掘って。彼らは今、お楽しみのよう。

 せっかくの相思相愛なんだ。1時間、たっぷりと楽しめばいいさ。





 1時間後、服を着てから古藤の様子を確認しに行く。


 あの後、兵士たちの駐留地まで古藤たちは出向いていた。100人近い犠牲者が地獄の亡者に掘られたようだ。濃厚な性臭が鼻に付く。

 視界に広がるのは、丸出しの尻を押さえてすすり泣く男たち。そして彼らを襲い、全力で楽しんだために身体から水分が抜けきりミイラになった加害者達――真犯人は俺だが――の姿。


 古藤も下半身丸出しで、干物になってしまった様子。体力的にもだが、抵抗する気力などどこにも無いだろう。


「御代わりはいるか、古藤?」


 我ながら酷いとは思うが、地獄に足を踏み入れたのは古藤自身。自己責任の名のもとに、苦しめばいいさ。

 兵士たちも命令されてここに来たのだろうが、兵士になったのは彼らの選択だ。物理的には生きているのだし、この程度で済んだと、生きている喜びを感じてもらいたいものだ。


「もう、許し……て…………」


 古藤は息も絶え絶えに、かすれた声で俺に応じる。

 声が弱々しいのは身体から水分が抜けたからというだけではない。悪夢のような出来事は記憶にしっかり刻み付けられ、その時の感情も鮮明に思い出されるわけで。正気に戻った事で楽しかった記憶は悪夢に変わり、初めてを捧げてしまった事実が心に重くのしかかっているのだ。普通に考えて、自殺モノの出来事である。


 これなら殺し合わずとも、会話だけで平和に終わるかな?

 暴力は良くない。

 人の自由と尊厳は、尊重されるべきである。

 我々は知性ある人間なのだ、可能な限り会話で問題解決を図るのが正しい姿と言えるだろう。


「もちろんお前の罪を許すよ。

 だから、話し合おう? お互いの幸せのために」


 物理的に拘束する必要はもはやない。

 俺は笑顔で「交渉」を開始した。

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