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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
3章 傀儡世界のマリオネット
32/122

ダンジョン防衛戦④ 不死者の殺し方

(≪重撃(ヘビースマイト)≫≪二連撃(ダブルスラッシュ)≫合わせ技――≪牙斬り(ファングスマイト)≫)


 村で暮らす間スキルについて検証してきたが、スキルは同時に二つまで使用できるという事が分かっている。

 今では組み合わせをパターン化し、新しいスキルのように扱っている。≪二連撃≫で左右から、≪重撃≫で大威力の攻撃をする≪牙斬り≫は特に使いやすいと思っている攻撃スキルだ。

 なお、『ブレタク』シリーズにおける戦士系スキルはコストを使用しないものが多い。だからスキルを二つ同時に使おうが負担など無いように思える。しかし、二つが限界というのは俺の身体が付いてこないからだ。力を込めるタイミング、配分、方向、それらを制御しきれない。普通に考えると早く動けばその分だけ威力が増すように思えるし、相手は避けにくくなるように考えていた。が、早く動いたところで体重が乗っていなかったら威力は出ないし、動きが単純ならハイレベルな相手には動きを予測されて躱される。攻撃後の隙なども重要な要素だ。


 俺の放った≪牙斬り≫は古藤の姿を捉えたかに見えた。

 だが、古藤はそれを後ろに下がって回避してみせた。紙一重の見切り、剣の切っ先がわずかに古藤に掠る程度の動きを見せた。

 それどころか、反撃までしてみせる。横薙一閃。回避しきれず、俺の胴体に直撃する。


 ここに至って、互角に見えた戦いは古藤優勢に傾いた。古藤の消耗具合も精神状態一つでどうにかなるレベルだったのか、動きが元に戻りつつあるのだ。

 互いに言葉は無くなり、ただ剣をぶつけ合う勝負。剣による戦いは古藤に一日の長があるため、常態が互角ならこの結果は必定。当然の流れだ。

 単純な身体能力やゲーム能力で得た技術(スキル)に差が無くとも、経験がこの差を生み出したということ。

 とは言え――


「何故だ! 何故倒せない!!」


 悪鬼のような顔で古藤は攻め続けるが俺にダメージは無い。

 服に傷がついたが、体は無傷。

 チート能力があるので、“俺が負ける”というのはそもそもありえないのだ。


 古藤の方はそこにまだ思い至ってないので、無様に、無駄に、意味の無い攻撃を繰り返す。

 俺は攻撃を回避しきれず何度も刃にその身を晒すが、防御を捨てた分、こちらも攻撃を当てている。ただし俺の攻撃もダメージを与えた印象は無く、古藤に届いた気がしない。


 ……チート疑惑か。

 三加村が言っていた。「無敵かと思うほどだ」と。

 それはつまり、俺と同じ「HPが減らない」チートを使った状態でこっちに召喚された可能性が高い。


 では対策はあるか?

 メモしたくなくなるレベルで、対策は数多くある。

 古典的な手法だが、宇宙に吹っ飛ばす。星の中心部に叩きこむ。氷漬け――は効果が無かったから地中1㎞ぐらいに閉じ込める。漫画などで良く見かけるのだ、不死殺しなどは。

 他にも、精神的に殺すなどの手法は有効と思われる。

 あとは自身で検証してしまった、有効と思われる対応がいくつか。つまり、HPが減らない事は「死なない」だけで「無事である」こととは別問題。



 荒くなってきた攻撃を捌き反撃をしながら考えをまとめていると、古藤は俺から距離を取るそぶりを見せた。こちらもそれに合わせ、一気に距離を離す。


「≪フレア≫!!」

「『カウンター・マジック:フルバースト・マジック』≪フルバースト・マジック≫」


 武器効果を無効する能力を持っていると思われたのだろう。古藤は魔法攻撃を仕掛けてきた。

 距離を取っての魔法の打ち合い。お互い同じ会社のシリーズものの魔法を使う為、相手の手札はよく分かる。炎系単体最強攻撃魔法≪フレア≫は『エタブレ』シリーズでもよく見る魔法で、魔法系のキャラなら最終局面まで使える優秀な魔法だ。相手の苦手属性が分からない時の遠距離での撃ち合いなら間違った選択ではない。

 ……普通ならな。


 ≪フレア≫は単体攻撃魔法だ。

 ついでに、RPGでは「相手の魔法にカウンターで魔法を使う」といった概念が無い。

 だが、TRPGでは相手の攻撃や魔法に対してカウンターで何かするなど当然の話で、SLGの『ブレタクⅢ』にも「リアクション用スキル」が存在する。


 対魔法用リアクションスキル『カウンター・マジック』。 

 相手の魔法使用時に指定した魔法攻撃を行うスキルだ。『ブレイブフォース』は魔法スキル扱いではないが≪フルバースト・マジック≫はちゃんとした魔法攻撃、指定対象として有効である。古藤と戦いになるとき、このシチュエーションも考えて用意しておいたのだ。

 よって『カウンター・マジック』の効果と通常の使用分、更にはMPが減らないチートのおかげでカンストMPによる≪フルバースト・マジック≫の連射が古藤に放たれた。



 白い炎と数多の光球が交差し、互いを襲う。

 古藤の≪フレア≫が俺の肌を焼こうとするが、熱いと思う程度で効果は無い。防具というか着ている服がダメになるのが問題だが、複製出来るし後で着替えれば済む話だ。

 対する古藤の方も、また無傷。≪フルバースト・マジック≫が二発とも直撃したにもかかわらず、だ。


 これはチート持ちで間違いないか。

 そう考えると、いろいろと納得できることがある。

 まず、古藤の強さ。チートでステータスがカンストした状態の俺に並ぶのであれば、『エタブレ』で全ステカンストキャラの能力を持っているとみて間違いない。

 しかし、これはおかしいのだ。RPGというのは役割分担がなされていて、レベルカンストキャラであってもステータスがカンストする事が無いように作られている。少なくとも、『エタブレ』関連シリーズはそのようになっている。

 『ブレタク』シリーズの場合は高位職でレベルアップ&低位職でレベルダウンという工程を繰り返すことでその境地にたどり着けるが、普通にやったら物理攻撃・物理防御・魔法攻撃・魔法防御は最大99のところを平均45~50に収まるし、スピードに至っては最高速度を誇る『神風』すら20が限界という仕様。

 全ステカンストなど、普通はしないのだ。



 疑惑が確定に変われば、打つ手は簡単だ。

 まずは古藤を確保しよう。


 古藤は魔法すら決定打にならなかったことに驚愕しているが、俺が≪フルバースト・マジック≫を使った事で『エタブレ』関連ゲームの能力を持っている事に思い至ったようだ。攻撃が利かなかったことについてはいくつかの魔法で再現できるため俺の無敵状態についても推測が成り立ち感情の整理が付いたのだろう、表情が落ち着いていた。今は無理に攻め立てる事はせずにこちらを油断なく窺っている。

 ……攻撃の余波で互いに全裸になっているのが間抜けだが、そこは今突っ込むべき内容ではないな。


 そう思っていると、古藤の姿が一瞬で変わる。服を着て、防具を身に纏ったのだ。装備変更か!? ずるい! 『ブレタク』では装備変更にもスキル枠を使うんだぞ! 現状、俺にはスキル枠が勿体無くて出来ないっていうのに!!

 ムカついたので、≪フルバースト・マジック≫を再び使う。こっちばかり全裸というのも認めたくないので、八つ当たりで撃つ。だがそれは古藤の≪リフレクション≫で跳ね返され、俺も咄嗟に≪リフレクション≫で魔法を後方へと逸らした。畜生、いろいろとバレるじゃないか。

 こちらが使った≪リフレクション≫により、同じゲームではなく『ブレタク』側という推測はより大きなものになっただろう。同じゲームの能力であれば同じ効果が得られるはずだからな。まあ、古藤が『ブレタク』をやった事があるかどうかは知らないが。



 こちらの手札が完全にばれる前に、一気に押し切る事を考えるべきだ。

 『付与術師(エンチャンター)』の≪加速(アクセル)≫を起動する。


 ――≪三重加速(トリプルアクセル)≫オーバードライブ!!


 俺の使っていたチートは「HPとMPが減らない」「状態異常無効」「全ステカンスト」に加え、もう一つ。「補助効果全付与」というのがある。

 物理攻撃上昇の≪アタック≫、物理防御上昇の≪プロテクション≫や時間経過でHPの回復する≪リジェネレート≫、自動蘇生の≪シールソウル≫など。

 そんな補助効果の中でもちょっと扱いが特殊なのが≪加速≫だ。

 ≪加速≫は重ねがけ効果が特殊で、一回だと「一定時間スピード+20」、二回で「一定時間スピード+50」と普通なのだが、三回分重ねるとオーバードライブという別の補助効果に切り替わり、「連続で三回行動(行動後、≪加速≫は全解除)」となる。

 過剰といえるほど強い効果に見えるかもしれないが、その負担の大きさから使いたくなかった補助である。村で試した時は疲労が半端なかったし、体重が1㎏ほど減っていた。1日の間に仕えるのは三回までと自主規制が必要なレベルであった。


 古藤は油断なくこちらを見ている。

 だが、そんな古藤は一切の反応を見せる事もできない速度で。否、時間すら置き去りにする速さで、俺は古藤の腕を掴む。そのまま捻じり倒し、地面に固定。

 オーバードライブの効果が切れた瞬間、古藤は何が起きたのかもわからないまま俺に捕縛されていた。魔法を使おうにも、古藤の魔法は俺と同じく魔法陣を描いて使う魔法だ。使おうとした瞬間に潰すなど造作も無く、関節を極めてしまえば押さえつけ続けるのは容易。


「赤井! 俺たちを外に送れ!!」


 だからこのまま、俺たちは外に出る。

 さあ、最後の仕上げだ。

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