ダンジョン防衛戦③
甘かった。
古藤という人間を、その強さの源泉を見誤っていた。
古藤は夜のうちに、単騎でダンジョンに攻め入ってきた。
そしてそのままダンジョンを駆け抜け、たった2時間で第五階層を突破した。
毒や炎は意味をなさなかった。
ダンジョン最奥で奴を監視できたのだが、地形効果がダメージを与えた様子が無く、HPは一切減っていなかった。
赤井は驚き、水中にいる古藤を第三階層から第四階層に落として嵌めるという凶悪コンボを使い、古藤を氷漬けにしようとした。いや、氷漬けには成功したんだ。氷漬けになった古藤は何と周囲を覆う氷を力任せに砕き、力技で脱出した。
第五階層に至っては、ダンジョンを埋める土を吹き飛ばして突き進んでいた。普通、土を外に運ばないと通る事の出来ない筈なのだ。だが奴は周囲に押し進むことで周囲を固め、崩落させる事無く突き進んだのだ。
「古藤は、あのゲームを知ってたみたいだよ」
「不味くないか?」
「不味い、かもしれないよ……」
事ここに至って、赤井は顔を蒼褪めさせた。
俺の方も古藤がここまで「できる」とは予想していなかった。
俺が討って出た方がいいか?
クラスメイトと殺し合いを、するか?
古藤の目的を、聞き出してみるか?
そうだ。
なんで古藤がここに来たのか、確認する必要がある。
「こうちゃん?」
「俺が出る。これ以上の被害は不味い。なら、俺が会って話をしてみるべきだろ?」
ダンジョンのモンスターはコマンド一つで補充できるものではない。
復活できないわけではないが、相応のコストと時間を要すると聞く。これ以上の損耗を許すわけにはいかない。
ここでダンジョンの情報を持って帰られるのは不味いが、そこは諦める。まだ先はあるのだし、追い返すだけでも物資を損耗する。何度も攻めいる事が出来るとは思えないし、な。
とにかく、追い返すべく動こう。
話し合いで出来るだけ解決する方針で、だ。
第六階層のアンデット達はそれなりに善戦している。
平野での戦いで数を活かした戦いが出来るのが大きい。全戦力で戦っているので、長期戦を強いる事に成功している。古藤の方も敵の数を減らし、本隊の負担を減らそうとしている可能性がある。
全身鎧は第三階層で脱いでいるが、武器だけはそのままそのまま持っていた。アンデットは前衛を多めにして時間を稼ぎ、後衛が魔法攻撃で攻めている。古藤はそんな魔法の中をかいくぐり、剣を振るっている。古藤が両手剣を振るたびに、髑髏の騎士たちは1体ずつ撃破されていく。
数の多さ、包囲網を敷くことでも攻めきれない。ダメージらしいダメージが見当たらず、鎧を捨てたことで素早さでも増しているのだろうか?
そんな戦いをしている中、俺は古藤の前に姿を現した。
「よう。久しぶりだな」
「四方堂!? お前、生きていたのか!!」
古藤は今まで姿を見せなかった俺に驚き、動きを止めた。
「死ね!!」
「なっ!?」
では話し合おうと俺が口を開こうとすると、それより前に古藤は、問答無用で殺しに来た。
首を刎ねる軌跡を描いた、必殺の一撃。
身体を後ろに下げてそれを回避し、突き出された剣を蹴り上げて弾き飛ばそうとする。剣に蹴りは当たるが、残念ながら弾き飛ばすには至らない。
「なんの真似だ!!」
「煩い! 赤井のダンジョンにいるって事は、お前も王国の敵なんだろう!」
「馬鹿か! 正当防衛だ! 殺そうとしてきた奴を返り討ちにして、何が悪い!!」
王国に完全に帰属してやがる!
「話し合いの一つも無しに殺しに来る、狂人に、言える台詞か!!」
「人殺しを、しても! 平然として、いる奴が、まともなもんか!」
「お前も、盗賊を、殺しているだろう!」
「盗賊と兵士を一緒にするな!!」
「襲い掛かってくるって意味では同じだろうが!!」
「お前らが、悪だからだろうが!!」
剣と剣を交え、互いに主張を叫びあう。
だが剣の刃と同じく、互いの言葉は届かない。王国の兵士となった古藤にしてみれば国に仇為す存在こそ悪であり、討つべき敵なのだ。だから古藤は「俺たちを殺してもいい」わけだ。
「完全に、人殺しの思考だな」
古藤の思考には呆れる他無い。
俺にとって、命を奪おうとする者は殺害を躊躇う必要のない相手だが。
だが、自分から相手を殺そうとするつもりはない。精々、食肉を得るために家畜を絞める時ぐらいだ。
だが、古藤は王国の敵であれば殺していいと言う。
そして殺されることを強要する。
俺にとって、それは許容できない在り方だ。
「はっ。王国に恭順しない犯罪者の言う事か」
「恭順も何も、俺たちの側に理由も無く殺そうとする悪党どもだろうが」
国にとって合理的な理由はある。
だが俺達に非が無いのも事実だ。
古藤はここまでの戦闘で集中力を持続し続けたため、ここにきて動きから精彩が欠けてきた。トータルスペックで俺を上回り、万全であれば俺と互角以上に戦えるはずが、今は互角。
モンスターと戦うのは、例えHPをが減らない保証があろうとも怖いものだ。ここまでにやられたモンスターたちは無駄死にしたわけではなく、古藤のリソースを確実に削っていた。
古藤の剣が縦に振り下ろされた。
頭上から襲い掛かる剣を自分の剣で受け止める。砕ける足場がその一撃の重さを物語っている。
「盗賊に襲われそうになって、助けに入った騎士たちを殺したお前が言う事か!」
「最初から盗賊と組んで殺しに来たんだよ!」
「嘘を言うな!!」
こいつ、自分の都合のいい話だけを信じているわけか。
ただのクラスメイトでしかない俺と、世話になった王国との信用の問題か? 面倒くさい。
「お前がこっちの話を聞かないのは分かった」
こうなってはしょうがないだろう。こちらも覚悟を決めよう。
「死んでも恨むなよ、古藤」
スキル利用状況を完全に攻撃用のそれに替える。ここまでは生存能力重視の防御系のキルばかり使っていたが、今はぶちのめすことを優先しよう。
「ぶん殴る!」
「ブッ殺す!!」
スキルを全開にして、俺は剣を振るった。




