ダンジョン防衛戦①
三加村の部屋を退去した俺は、王都の外で野宿をする。
ノームに頼んで穴を掘ってもらい、藁を敷きそこを簡易シェルターにして寝た。食事の方はストレージにたくさん残っているし、温かい物も多い。冬の寒さが苦になるとしても、毛布があれば一日ぐらい寝場所が悪くても問題ない。
翌朝、馬の駆ける音で目を覚ました。
寝床から顔を出し、外を窺う。すると王都の門より出立する、騎馬の一団があった。それを見送ると次に歩兵が数百。最後に食糧などを積んだ荷車を引いた一団。
進行方向は遺跡のある方角。つまりは――
「ダンジョン攻略部隊か?」
結構な数が投入されているが「ふーん?」と軽く流す。
聞いた話ではクラスメイトは参加しないという話だし、迎撃も数度行っているという。だったら慌てずとも大丈夫のはずだ。
そうやって通り過ぎる兵団を見ていると、見逃せない影があった。
(古藤!?)
そこにいたのは、クラスメイトの中でも最強と謳われる古藤。
古藤はフル装備。金属系の全身鎧を身に纏い、業物と思わしき両手剣と補助武器らしき片手剣を用意している。他の装備は分からないが、真剣で戦うための装備とみて間違いないだろう。
いったいどういう心変わりをしたのか分からないが、古藤もダンジョン攻略に乗り出したようだ。
ならば、赤井のダンジョンは無事だろうか?
分からない。
ダンジョンの難易度がどの程度か分からないし、古藤の全力がどの程度かもわからない。
助けにいく、べきだろうか?
情報が足りず、分析することすらままならない。
「行くしかない、よな」
リスクは排除すべきだ。
俺は赤井のダンジョンに先行すべく、姿を隠しながら全力で駆け出した。
ダンジョンの入口については三加村から聞き出してある。遺跡に入り、記憶に従い道を進む。灯りは魔法で用意してもらった。
あの召喚された部屋にダンジョンへの入口が設置されていた。石でできた床に、同じ材質で出来た地下への階段。そしてそこから漂う、肉が腐ったような悪臭。ここで間違いないだろう。
「三加村、連絡はしてあるんだよな?」
「大丈夫ですにゃー」
俺は肩に乗せた白猫相手に話しかける。
この白猫はケット・シー。三加村の召喚モンスターである。この白猫は五感をリンクしている三加村とリアルタイムで話し合えるので、スマホのような事が出来るのだ。
俺がダンジョン内のモンスターと戦っては赤井の戦力低下を招く。それを避けるために三加村に頼んでおいたのだ。
「しばらく真っ直ぐですにゃー。内部構造は毎回変更できるけど、構造を変えるのにコストが必要だから変えたくないって言ってますにゃー」
「了解」
赤井の持っている能力がどのような物か分からないから、そこは言われるまま頷いておく。
道中見かけるモンスターはこちらを見ても戦いを挑むことはしないので、無視して走る。ケット・シーが示すままに道を選び、全10階層というダンジョンを踏破する。
ゴブリン、スライム、スケルトンオーガといった定番モンスターに名状しがたい何か。どんなモンスターがいるかは分からないが、一部のモンスターから素材を手に入れたい衝動に駆られる。まあ、後で赤井に聞いてみよう。
ダンジョンを最奥まで進むと、金属でできた大扉にたどり着いた。
まるで王城で見たような装飾を施された大扉が、俺が立ち止るとゆっくりと左右に開く。
開いた先にいたのは一人の少女と巨大なドラゴン。
少女の方は、見知った顔。このダンジョンの主人である『赤井 楓』。召喚された直後のような綺麗な格好ではなく、この世界の衣服でどこか薄汚れた印象を受けるローブ姿。ダンジョンに風呂などを設置する機能などないのだろうし、生活環境が劣悪なのだろうことは容易に想像できる。
そして付き従うようにいるドラゴンは、赤い鱗の有翼種。ただし、赤いオーラのようなものを纏っており、炎の力を僅かに感じる。レッド・ドラゴンとかファイア・ドラゴンの上位種という奴だろう。普通に戦うなら、俺でも苦戦しそうなほど強そうだ。
「あー……」
久しぶりに見る元彼女の姿。咄嗟に何と言えばいいか分からず、俺は言葉に詰まる。
そんな俺に、赤井は微笑みを見せた。
「久しぶり。こうちゃん」
微笑む赤井は、どこか危うい美しさを湛えていた。




