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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
3章 傀儡世界のマリオネット
27/122

三加村 

「久しぶり。一月ぐらいか? 元気そうで何よりだけど」

「そう言う三加村はずいぶん変わったな。ま、生きてたなら重畳、だけどな」



 昼食のあとも少しの食休みを挟んで三加村たちは訓練を行い、模擬戦なども行っていた。


 古藤の技量を言えば、かなり強いと言わざるを得ない。少なく見積もってもスキルによる強化を為されただけの俺よりも上であり、一対一で戦うならまず勝てない相手だ。使う武器は両手剣。巨大な鉄塊、超重武器の一種で、重さは10㎏どころか30㎏は余裕でありそうだ。それを軽々と振るうだけでも身体能力と技量の高さがうかがえる。何より、古藤は一人ではなく他4人全員を一人で相手しているというのに全く危なげない戦闘をしているというのが凄い。

 周囲全域に意識を広げつつも連携を許さない立ち回り。

 的確に相手を行動不能にする戦闘能力。

 戦闘を組み立て、戦場をコントロールする様はとてもただの高校生だったとは思えないレベルだ。サッカー部では司令塔でもやっていたのか? それでもありえない強さだが。


 逆に三加村はというと、「弱い」の一言で言い表せる。素人が一月頑張っただけ。本当にゲーム能力を持っているんだろうかと疑うレベルだ。剣を振る様は何とか形になっているが、振り回されている印象が強い。

 ただ、俺の≪気配察知≫スキルは三加村が“強い”と認識していて……どうにも、能力を隠しているように見える。ま、これについては本人から聞けばいいか。



「ところで四方堂。おまえ、この一月余りの間、どうしていたんだ?」

「王都から離れたところに、拠点を作っていたのさ。ここから逃げるにしても、逃げる先が無いと意味が無いだろう?」


 全員で逃亡生活というのもできなくはないが、無駄な戦闘は少ない方がいい。背負えるリスクかどうかの見極めは重要だと思うのだ。若干安全マージンを多めに取っている自覚はあるが、あの場で俺一人が頑張ったところでみんなを守りきれると思っていない。他の連中がどう出るかの心配もあったからな。

 細かい場所については伏せたが、村の状況などを説明する。


「へぇ。そっちには米と味噌と醤油があるのか。ずいぶんすごいチートみたいだけど。こっちに農産系はいないし、そもそも種籾が無い。お手上げだったんだよ」

「やっぱり飯は不味いのか?」

「……不味くはないが、美味しいとも言えないかな? 食材と調理器具が悪いんだ」

「おにぎり、食うか?」

「くれ!!」


 クラスメイトはこっちで40日も生活をしてきたのだ。不味い飯にも馴染んできた頃合いだろう。

 が、不満が無くなるわけじゃない。そんな状況を打破するため、説得材料にとおにぎりを大量に用意してみた。ストレージ内の時間経過は任意なので、余ったところで問題はない。


 三加村は俺からおにぎりを受け取ると、むさぼるように食っている。具材は唐揚げマヨ。味が濃くなるようにと米には塩を、マヨにはからしを少し使っている自慢の一品だ。海苔も巻いてあるし、完璧と言っていい。

 一つ目を食いきる直前、駄目押しとばかりにもうひとつ、今度は静岡で食べた、海苔の代わりに焼き肉を巻いた肉巻きおにぎりを置く。三加村はそれを奪うように手にすると、喋る時間も惜しいとばかりに食らいついた。どうせだ、熱めのお茶も出そう。


 三加村は二つのおにぎりを食い終わったあとお茶を飲み、一息つく。


「何でも言ってくれ、親友。いや、心友(しんゆう)よ!!」

「そこまで米が恋しかったのか……」


 三加村の目には狂信にも似た光が宿っている。死ねと言えば死にかねないほどだ。さほど親しくも無いのに親友呼びとは。あれ、今、何を言い直したんだ?


 ネタとしてはありふれていたし、これを狙ってやった。が、ここまで効果があるとは……。

 効果があったんだ。良しとしよう。



 じゃあ、聞くべきことを聞くとするか。


「じゃあ、三加村の能力を教えてくれ」

「あー。やっぱり先ずはそこからか」


 三加村は今後、俺の計画に同調してくれるだろう。

 ならばその時、何が出来るかを把握しておくのが重要だ。訓練を見る限り、戦力にはならないだろうが。


 俺の様子から期待されていないことを悟り、三加村が苦笑する。


「俺の能力は、TRPGのプレイヤー能力だな。近接戦闘系は捨てて魔法系クラスで固めた後衛ビルドだから、接近されるとそこまで強くはない」


 三加村の説明を聞くと、やっていたのはファンタジー系TRPGでハック&スラッシュのダンジョンアタック系。

 6人でパーティを組んで遊ぶのが一般的な、ウィザードリ○のようなシステムのようだ。

 で、三加村は剣の訓練をしていたが、完全な魔法系クラスで固めた成長方針。レベルは13と言っていたが、それで成長限界(カンスト)らしい。


 何が出来るか聞いてみると、召喚魔法と聖属性の属性魔法を修めていると言う。


 呼び出せるモンスターは9種類。

 幸運を呼ぶ白猫『ケット・シー』。

 風の魔法を操り前衛としても戦える竜種の幼生体『ドラゴン・パピー』。

 高高度からの偵察が出来る鳥型モンスター『シルバー・イーグル』。

 いたずら好きで風の魔法を操る妖精の女王『フェアリー・クィーン』。

 死者を導くという女天使『ワルキュリア』。

 強大な魔法を操る防衛用魔法生物『ガーディアン・センチネル』。

 嵐を呼び、雷を纏うという伝説級の竜種『テンペスト・ドラゴン』

 天候すら操ると言われるほど強大な風の精霊『シルフ』。

 死者すら蘇らせるほど強い癒しの力を持つ霊鳥『シームルグ』。


 聖属性の魔法については回復・防御・攻撃とバランスが良く、敵の魔法を打ち消す『ディスペル・マジック』が優秀。

 本人は「まんべんなく何でもできる分、器用貧乏なんだけど」と言っていたが、支援特化の魔法使いであればこれぐらいいろいろ出来るだけで十分だ。贅沢を言ってはいけない。


 基本能力については「魔力とIQ(知力)、魔法攻撃・魔法防御・物理防御はカンスト。あとはDX(器用)HT(頑健)に振ったからST(筋力)・近接攻撃・射撃攻撃は一般人のまま」と説明されたが、それがどれだけすごいのかは今ひとつわからない。

 これは軽く実戦で試すしかないか? 今は時間が無いからやらないが。


 今度は俺の方の話もして、SLGのカンストステータスを説明する。が、三加村は俺の説明で分かったような、分からないような顔をした。俺の方も分からなかったし、お相子だろう。いや、良くないんだけどな?

 一応だが、三加村も俺のゲーム能力により『ブレタクⅢ』の能力を与えておいた。仲間であればその生存のために地力を上げてほしいし。弱点の近接能力を補う事もできるだろう。

 逆に俺の方も三加村のTRPG能力をもらう事に成功する。レベルは1だが、きっと役に立つと思う。


 そうそう、チート関連の説明は省略した。これについてまで話す気はない。信用してはいるが、それとこれとは話が別。切り札(ジョーカー)を安易に見せてはいけないのだ。変な安心感を持たれると緊張感が薄れるからな。保険があるなど、知らない方がいいのだ。



「で、俺たちの現状について説明するぞ?

 まず、国は俺たちを使い潰すつもりが無いらしい。取り込み、帰属させるのが第一の目的みたいだ。そのためにハニートラップ要員と言うか、美人メイドを宛がわれている。俺や女子連中はそっちの誘いを断っているけど、他の男どもは駄目だな。完全にヤってる。

 ただ、国と違って大司教の方は俺たちを利用して何かしようとしている。国とは別組織と思ってくれ。国の方も協力者として大司教と手を組んではいるが、一枚岩じゃない。上手く仲違いさせることが出来ればいいけど。俺の頭じゃ思いつかなかった。

 俺たちの扱いは、この国の中じゃいい方みたいだ。一緒に訓練する騎士連中よりもいい待遇で迎えられている。ま、日本とは比べるべくもないけど」


 国と教団は対立こそしないが、意思統一できていない? 確かに上手くそこを突けば有利になるだろうが。俺も短期決戦を考えているからな。対立させるどころか足を引っ張り合わせる事すらできないだろう。

 現状、みんなの扱いが悪くないのは朗報であり、懸念材料だな。特に男子連中。身内に引っ張り込むのは難しい、か?


「他の連中だが、男連中で厄介なのは古藤一人。アイツだけメチャクチャ強くて、俺たちじゃ傷一つ付けられない。というか、無敵じゃないかと思うほどだ。

 女子で厄介なのは……赤井だな。アイツはヤバい。古藤よりも、だ」


 三加村は他のクラスメイトの情報をまとめていたという。

 国や教団が怪しいと思い、心から従う事をしないようみんなに注意している。面従腹背、獅子身中の虫という訳か。何かあれば食い破る(・・・・)ため、手札を隠しながら剣の訓練をしているのか。


「訓練でも強くなれるんだ。STも訓練で1ポイント増えたぞ」


 ほう。なんで訓練をしているのかを聞いてみたら、おもしろい話が出てきたな。

 じゃあ、俺も訓練次第でオーバースペックを目指せるのか。……今まで訓練してきたが、効果は一切なかったが。これはあれか? 能力値表記が身体能力などを示すものではなく、攻撃力などを示すものだからか?


「やってみる価値はあると思う」


 じゃあ実験だな。



 それはそうと、他のクラスメイトの能力だ。


 男子連中で多かったのは、有名ハンティングゲームのそれ。残念ながら装備の方に特殊能力が付与されているという事が無く、完全に無駄能力に近い。が、あらゆる装備に対する適正と、緊急回避による攻撃の完全無効化などと変なところでゲーム能力が発揮されるらしい。普通の騎士より強くなれるようだが、そこまで脅威ではない。

 古藤のは『エタブレ(RPG)』のレベル99の能力と言うのが本人申告。相応の力を見せているし、騎士たちと盗賊退治をやる事もあるという。人殺しの経験も、しているか。要注意なのはRPG的能力の一つで「距離による戦闘管理」と言うのがある。これは距離が近ければ前列、遠ければ後列という区別を行い、前列は常に正面扱い(・・・・・・・・・)というもの。≪背面攻撃≫は通用しない。他にも『エタブレ』特有の魔法全種やスキルを使うらしい。もっとも、スキルの方はあまり気にしなくていいそうだが。


 女子の方も、こちらにいるのは戦闘能力高めが多いらしい。……なぜに?

 厄介なのが赤井(元彼女)で、アイツが手に入れた能力を聞いて、俺は頭を抱える事になった。

 戦闘用能力じゃないけど……っ!

 なんて厄介な!!

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