城の中のクラスメイト
王都の様子を探った後は、王城の調査である。昼飯を食べてから調査に入る。
さすがに警備が厳しく哨戒中の兵士は多いが、そこは『隠密』で隠れて移動すれば簡単に潜り込める。ステータスが高い事もあり、普通であれば人が通れ無さそうなコースを選んでみたのも良かっただろう。『気配察知』を使えばマップで人の配置を確認できるのも助かった。
王城は、さすがに広い。
何階建てなのかは知らないが高さ30mはある塔がいくつも建っているし、中央の通路など片道3車線の道路より広い。赤い絨毯が敷かれているのを見たときは、“いかにも王城”という感想しか出てこない。
一般的な王城がどういった造りかなど、一般人の俺は知らない。ただ、まっすぐ進めばいい気もするのでそのようにしているだけだ。
通路は広いので、途中に天井を支えるための柱が多くある。そこに身を隠しながら、天井すれすれを『浮遊移動』で駆け抜けた。
通路の突きあたりまで行くと大きな扉があり、この先は王様が居そうな謁見の間になっているようだ。ただしイベントも無いときに人が居るわけでもなく、無人とまではいかないが、人の気配は薄い。ここはパスだな。
扉の左右には兵士の詰め所があり、どちらにも3人の兵士が詰めていたが、部屋は閑散としている。王様が居る時であればもっと兵士が詰めているのだろうが、今は最低限の人員しか配備されていない。中には居眠りしている奴もいて、とても静かだ。情報収集に向いているとは思えないので、ここもパス。
少し戻って適当に見て回ると、厨房があった。ここは王様の食事ではなく一般の兵士や女中などの食事を作る場所だったようで、人が多くにぎやかだ。ここで会話を盗み聞きすることにしよう。
「ミカムラ様はどうだった?」
「まだご機嫌斜めみたいだったわ。コトウ様に負けたぐらいでだらしないったりゃありゃしない」
「しょうがないわ。ランドウ様はコトウ様ばかり褒めるもの。ミカムラ様が面白くないのも当然ね」
「腐る暇があれば訓練しろっての。だからいつまで経っても勝てない訳さね!」
「おお、怖い。アリョーシャのミカムラ様贔屓もここまで来ると立派ね」
「うるさいよ! さっさと食事を運びな!」
「はーい」
ミカムラ、コトウ、ランドウ。
三加村と古藤、蘭堂か。
女中たちの話に出てきたのは、クラスメイトで間違いないだろう。
三加村と古藤は数少ない男子生徒が集まっているサッカー部のスポーツマンタイプ。ただしサッカー部が男子が集まれる場所欲しさに作った強豪ではないお遊び系の部活なので、スポーツマンと言っても大した事は無いのだが。
蘭堂は古藤に惚れている女子で、サッカー部のマネージャーをやっている。この二人はデキていないのだが、理由としては古藤がロリコンだから。奴の本命は三浦さんである。それが理由かどうかは知らないが、彼女は冬杜のグループに所属していない。敵対もしていないけどな。
こっちに来てからどうなったかは知らないし、とりあえず現状を把握するためにも調査が必要だ。食事を運ぶ女中の後を追い、俺も移動する。
まずはクラスメイトの立ち位置を正確に知るため、接触は無しの方向で。こっちに来てすぐの発言から古藤は『エタブレ』系統の能力を得たらしいが、その詳細が分からないし、用心の為にも離れたところから観察するのが吉だな。
たとえクラスメイトであろうと、味方になってくれるか分からないのだ。
城の中を正門から見て左の方に進むと、いかにも練兵場といった訓練施設に出た。
学校のサッカーグラウンド2~3面分程度の広さがあり、100人ぐらいの兵士が訓練に勤しんでいる。
女中は昼飯を持ってその脇を通り過ぎ、壁は無いが屋根だけ有る休憩所のような場所に向かった。
そこには懐かしい、黒髪の日本人の男女5人がたむろしていた。
「リーリー! もう昼飯時かい!?」
「ええ、ミカムラ様。サンドイッチとスープをお持ちしました」
「ありがたい! もう腹ペコなんだ!」
「リーリーちゃん、俺の分は?」
「モチロンありますよ、コトウ様。サクラ様もお食べください」
「ほーい。いっただっきまーす」
女中は手にした籠を置き、中からサンドイッチの乗ったトレーとスープの入った器を取り出す。
……いや待ておかしい。籠のサイズと取り出した量が一致しない。これはもしや、この世界で作られたアイテムボックス? こんな日常品として使えるほどアイテムボックスのようなマジックアイテムが普及しているのか?
目の前で行われたやり取りに、一瞬思考が加速する。ついでに周囲への注意が疎かになった。
そして偶然こちらを見た三加村。目と目が合う。男同士で。……いかん。思考が腐ってしまう。
三加村は俺に気が付き、軽く目を見開く。が、何事も無かったように周りとの会話に加わり、俺に気が付いたことを無かった事にした。
女中は厨房に戻り、クラスメイトだけで騒いでいる。訓練がどうとか、誰が何をしたとか。聞こえる声からは拘束されている人間が持つ暗い響きが無く、日常にいる人間の明るさで満ちている。
姿を隠したまま会話に耳を傾けたが、強制的に何かをやらされているという訳ではなく、自主的に武器戦闘訓練や魔法の訓練をしているらしい。言語の方も習っていて、素で喋れるようになった奴もいるそうだ。
会話からの推測だが、まずは自主的に訓練を積ませ、使えるようにするのがこの国の方針らしい。最初の方に厳しい現実を突き付け、「やらないと危険だ」と強く印象付けられているようだ。
俺たちがいなくなった事も含め、この世界は危険に満ちているので、それは間違いではない。そこを利用し、自発的に戦力に組み込む作戦のようだ。まぁ、和やかな空気を長期間保てれば身内認定されたり裏切られる可能性が減ったりとメリットが大きいからな。
5人の会話を聞くだけで、ずいぶん多くの情報を仕入れる事に成功した。
こうやってわざわざ現状を伝えてくれるのは、三加村なりのサービスなのだろう。
夜になって個室にでも入ったなら直接会ってみるとしよう。
さてさて。いったいどんな話が聞けることやら。




