開発③ ノース村の錬金術師「夏奈のアトリエ」
さて、食糧事情の改善はいいんだ。
改善と言うより、革命のような気もしたが。
それと並行して行ったのが、「錬金術師のアトリエ作成」だ。
これは俺のスキル「錬金術」の為だけでなく、ちょっとした検証をする為だ。
これは仮説なのだが、ゲーム能力を得るには条件があるのだと思う。
それは「ゲームをやりこんでいる」事と、「ゲームを再現できる」事なのではないだろうか?
春香の能力は村に着いてから発現したと考えて間違いなく、それは「村を弄り倒す」という俺たちの行動がゲームとリンクしたのがきっかけじゃないだろうか?
だとすれば、他の誰かもやりこんだゲームさえあれば、その能力を再現できると考えたのだ。
では、実際に錬金術師のアトリエとはどんなものを作ればいいのか?
一つ目。
大きな鍋。
錬金術師のアトリエと言えば、大きな鍋で何かを煮込む『魔女』の家を想像してしまうのが一般的ではないだろうか?
ゲームでも何かを煮込んでいる馬鹿みたいに大きな鍋があったので、それを再現してみた。
二つ目。
調合器具。
ガラスの試験管やビーカー、天秤などの計測器具はもちろん、すり鉢やハンマーなども必要だ。
製作過程で粉末にする物などがあるし、それらを適量で混ぜ合わせるのには正しい計量が出来ないと話にならないからね。
当たり前だが、作業台も作った。
三つ目。
材料の保管庫。
作った物を一時的に保管する為には棚だけではなく蔵も必要だ。温度と湿度の管理が出来ればベスト。
調合した物の中には時間をかけて反応させる物もある。それらを置いておくための場所はどこでもいい訳じゃないのだ。
鍛冶関連は外注タイプで、そこまでフォローする必要な無いとの事。
別口の錬金術ゲームにはあったと思ったのだが、要らないというものまで一緒にする必要はない。村に元々あった鍛冶施設を使えばいいという事で、それは別枠にした。
これらを用意するにあたって活躍したのが春香の能力。大鍋や調合器具のいくつかはそのまま購入できたし、倉庫に保管するための樽や瓶も手に入った。俺の複製能力もバランスブレイカーの鬼仕様だが、春香の購入能力はもっと酷いと思う。
全ての用意を終えるとゲームの開始時点のイベント「夏奈のアトリエ看板製作」を『錬金術』スキルもちの俺が主導で行い、見事ゲーム能力獲得を成功させた。
夏奈の能力はゲーム時代と同じアイテムの製作が出来るというもの。
「土地」に対して影響を及ぼす春香に対し、夏奈の能力は「雑貨」の製作能力。そしてその製作物は俺の『錬金術』スキルと違い、この世界にも対応した使い勝手のいい能力だった。
そう。
俺のゲーム能力の一つ、『錬金術』スキルはそれまで死にスキルだったのだ。
なぜ俺の『錬金術』が使えないのか。
その理由は簡単だ。
「薬草などという名前の草は無い」からだ。
例えば、俺がHP回復ポーションを作ろうとする。
必要なアイテムは「薬草」「きれいな水」「魔石の粉」という、ゲームでは簡単に手に入るアイテムだった。
しかし、「きれいな水」は簡単に手に入るし「小石」と魔力で作る「魔石の粉」も製作可能だったのだが、「薬草」などというアイテムが手に入らないのだ。
「薬効のある草」ではアウト。「薬草」でないといけない。
まさにゲームとリアルの差と言える悲劇だった。
これは他の製作アイテムについても同様の事が言え、かなりの数のアイテムが製作不能であった。回復系は全滅である。
逆に夏奈のゲーム能力は大雑把なジャンルを指定するタイプで、「植物」「液体」「魔力」の3つで製作するシステムであった。キャラの能力と使ったアイテムの隠しデータで品質や効力が変わるというシステムを使っていたため、細かい材料指定が無い。よって俺と違い、アイテム生産に制限が無かったのだ。
さらにラッキーだったのは夏奈の作ったアイテムの中にはこちらと同じ名前の物が混じっており、それらは共通するアイテムとしてカウントできたのだ。
「HPポーション」などはその代表格で、何のひねりも無いありふれた名前であったことが良かったのか、「上級HPポーション」などのアイテム製作に流用できる。
それにより俺のアイテム製作リストは「9割がた作れない」から「6割がた作れない」まで生産条件が緩和され、多少なりともマシになった。
そうやって俺の方で夏奈のアイテムを材料にしたことが良かったのか、俺の製作物を使う事で夏奈の作るアイテムはさらに品質が良くなり、効力を増していく。
俺の方で作るものは腕前が成功と失敗の確率にのみ影響し、効果はわりと固定値が多かったので、夏奈のゲーム能力との相性はいいのではないだろうか? 夏奈の失敗寸前品質の製作物を俺が材料にすることで材料による揺らぎを減らし、良い素材を作る助けになれる。
夏奈のMPはゲームシステム的に共有化されているようなので、アイテム製作に必要な魔力、つまりMPの回復は元になったゲームより効率よく行える。最大値も最初から高くなっているので時間的な生産ロスは非常に少ない。これは本来のゲームシステムではなかった話だ。
夏奈は有り余るMPをアイテムに替え、俺も同様の事を行い、色々な物を生産する。
回復系統のアイテムはもちろん、美容や健康に関わるものも作り、生活水準を引き上げている。人気があるのは「シャンプー」と「トリートメント」で、女子連中はシャンプーも無かったために傷んでしまった髪を癒やすことに成功している。おかげで日本人の中における夏奈の地位は盤石だ。物理的脅威にさらされていない現状では、俺を軽く上回る。
春香が食料だけでなく薬草類、ミントやラベンダーなども作れることが生産性を維持してくれる。
夏奈のゲームシステムで言えば時間とHPを消費して入手する材料が、何をする事も無く供給される様な物だ。……ゲームでも役割分担すればいいとか言ってはいけない。ゲームとは、そういうものなのだ。
こうして食糧事情だけでなく、その他の面でも俺たちの生活水準は向上していくのであった。




