開発① 上下水道
村を大改造するにあたって、参考にするのは某惑星開拓SLGだ。
あのゲームでは建造物の上下水道が重要視されており、他にも公共交通機関があるのが都市開発のキモだという事になっている。それらが無いと人口にキャップが入り、増加しないように設定されている。
俺には専門知識が無いので、そのゲームに倣って上下水の完備を最初の仕事とした。
工業高校の環境都市工学科などがこの手の専門分野なのだが、残念ながら俺は普通科の生徒だ。知識など無い。
上水道は用水路で村のあちこちから水を使えるようにするだけでいいとして、下水道はアーチ形の地下道を作ればいいのではないかと思う。これらは漫画やアニメ、ドラマから得た知識を基に漠然としたイメージはある。
そしてありがたい事に、その実現については頼りになる土の精霊ノームが俺の傍らにいるので問題は無い。
「――という訳で、川からため池に水を呼んで水位を確保、用水路で畑の方まで引っ張る。畑の近くに水があれば水やりの労力が大幅に軽減できる。こうすれば大幅な収穫増加が見込めるわけだ」
「細かい事は分からんが、溝を作る、水が漏れんように石の道で固める。そういう事じゃろう?」
「ああ。水路のブロックは言った通りの形で頼む」
「面倒じゃのぅ。一体成型ではいかんのか?」
「それだと交換するときの手間がかかりすぎるし。俺がお前に頼んで直してもらうならいいんだけど、村人だけで対処できるようにしたいからな」
「まぁ、ワシは魔力さえもらえれば構わんがのぅ」
石で作った水路を使い、川の水を村の中に引っ張る。
この水路は雨が降った時には排水路として活躍する予定であり、家の浸水を防ぐ目的もある。
川は村から1㎞離れた所にあり、一番近いのは畑の方だ。
こうやって距離があるのは川の氾濫を警戒しているからで、大雨の時に村が川に呑み込まれないようにする対策の一環だ。これはキャンプ地でテントを張るときの注意事項でもある。
まずは村から川まで真っ直ぐの水路を作った。
次にその中間にため池を掘り、緩衝地とした。川の水位が急激に変化した時、勢いよく水が流れてくる事がある。ため池があればそこで勢いを減らすことが期待できる。逆に川の水位が下がったとしてもため池の水を使えるので保険にもなる。
なお、ため池は小屋で覆い、周囲からゴミが入らないようにしておいた。小屋の制作は石で三方向を囲う壁を作った後に木板を乗せて固定しただけの簡単な物だ。
あとは村まで流れてきた水を畑から水道用の浄水層に通して、再び川に戻す。
排水側には2つため池を作るが、こちらに保護用の小屋は作らない。こちらのため池には水草で生活排水に含まれる有害物をろ過する目的で作っているので、ゴミがいくら入ろうがあまり気にしない。
ここまでの作業はノームが頑張っており、俺は口頭で指示をするだけだ。ノームさんマジ便利。
「ウンディーネ、頼む」
「水、外に出す。入らないようにする。私、頑張る」
「さっさとやらんかい、水の」
「土の、うるさい」
「……喧嘩をしないでくれ…………」
下水の方はトンネルを作り、水路と歩道の段差を考えるだけで済ませてみた。
勿論それだけではうまくいくはずも無く、最初に作った下水道は水を流し込んでみたらトンネル全部が水没してしまった。トンネルへの流入量と排水能力を計算しなかったが故の悲劇である。
一度下水道を封鎖し、水の精霊ウンディーネに頼んで一気に水を抜き、排水能力を増やしてから使う事にした。あと、水の流入量も水路の幅を狭めて勢いよく流れ込まないように工夫し、水没しないように考えてみた。
なお、下水道は最初から最後まで地下という訳ではなく、村から1㎞離れた所で天井部分を無しにして通常の水路に切り替えており、その先でやはり浄水用のため池を経由して、ある程度綺麗にしてから川に戻る様にしている。
今回は失敗へのフォローでウンディーネを呼び出したわけだが、ウンディーネとノームはあまり仲が良くないと判明した。喧嘩をするほどではないけど、自発的に協力し合う訳ではない。言えば協力し合うけど、言わないとだめだという事。俺が近くに呼んだ時などは必ず俺を挟んでノームの反対側に移動するという徹底ぶり。
ウンディーネの姿は大きさ50㎝程度の水玉である。某有名ゲームの「スライム」……いや、某有名落ちものゲームの「ぷ○」が近い。目玉など無いので透き通った水玉なのだが、喋る事は可能。謎生物、いや謎精霊であるが、異世界なのでそういうものだと諦めよう。
全ての作業を終えるまで、約4時間。
昼過ぎから始めた工事だが、日は傾き、西の空を見れば見事な夕焼けだ。
こんな所は日本、いや地球と変わらない。こちらに来てから何度も見た光景だが、違和感の無さが目の前の異世界情緒あふれる村の姿と相まって郷愁を誘う。
村の中の水路は転落防止に蓋をしてあるが、村の外、排水路にはそんなものはない。
だから流れる水が夕日を反射してキラキラと輝いている。
一日の成果を眺め、この日の仕事は終了。自宅としてあてがわれた家に向かい、夕飯を作る。
夕飯を、作……る?
あれ? この家、竈も何も無いんだけど? どこで火を熾せばいいんだ?
そういえば、食事は村長宅と食堂でしか作れないんだった。
マッチやライターなどが無いと火を熾すというのは意外と手間で、小さな村ではその手間を省くために一ヵ所で火を管理している。この村は二ヵ所だが、村長宅のそれは客用だろうね。
自宅で料理ができる環境を整えるのは明日にするとして、今日の所は食堂へと向かう。
「うめー!」
「いっぱいあるー!」
「こら! 落ち着いて食べなさい!」
「おかわりー!」
「ぼくもー!」
「はいはい! 並びなさい! 並ばない子にお替りはあげません!」
「あー、ノノがお漏らししたー」
「ちょ!? ああもう! 着替え! 着替えを用意して!!」
「着替え? 四方堂君を呼んできますね――四方堂君って、まだ作業中だったよね?って、どうしよう?」
「四方堂はいいから! 馬車にある奴でいいでしょ!」
「分かった!」
食堂は他の家よりも一回りか二回り大きい建屋だ。
ここだけレンガで出来た家になっており、頑丈に作られている。壁がレンガなのは耐火性能の問題だ。土壁は土だけではなく、繋ぎに草を使っているから火災に弱い。だから火を扱い、村の人間が毎日集まるここだけはしっかりした造りにしてあるのだ。
村長宅? 予算の問題だろ。
中を覗けば子供たちが走り回ったり、飯を食べたり、暴れまわったり、お漏らししたり。年相応にはしゃいでいる。
そんな子供たちに女子たちは落ち着いて食事を取らせようと奮闘している。
『バベル』は全員習得済みなので会話は成立しているが、効果の方は見ての通り、残念である。
……なんだろ。ものすごく関わりたくない。
腹は減っているけどシュークリームで誤魔化そうか? 今度ストレージに焼き立てパンでもストックしておこう。あとは果物とか。
このドタバタに、巻き込まれたくない。俺はもう仕事をした。疲れているんだ。
「あれ? 孝一がこんなトコにいるし」
だが、世の中そんなに甘くない。
俺は『隠密』を付けていないし、女子の中には『気配察知』を付けている奴が必ずいる。
だから、簡単に見つかってしまった。ちょうど着替えを馬車にとりに行こうとした夏奈に見つかり、連行されることになる。
ちくしょうめ。




