交渉
出てきた老人と幼児。
この組み合わせは、「金にできない年齢」という共通点がある。
ラノベ知識だが、男は10歳に満たない年齢でも労働力として、女であれば12歳ぐらいから性的な目的として使われると聞いたことがある。
それより多少若くても待ち時間にいろいろと仕込むことができるので、実際の購買範囲はもう少し広いと予測される。
あとは徴兵された可能性。魔法のある世界だ、女性であっても戦力にできるのかもしれない。
その場合はもう少し悲惨になる。戦闘訓練を受けていない農民などは肉壁として使う他無く、高い確率で死んでいるだろう。
「はじめまして。旅商人のコウイチと申します。本日はこの村の方とお話ししたい件があり、参りました。そちらはこの村の代表という事でよろしいでしょうか?」
「ええ。ノース村長のヨーゼフと申します、商人殿」
老人の方が村長を名乗っている。
見た目は60歳前後の老人で、ぼさぼさに伸びた髪はほとんど真っ白だ。体は日に焼けているが線が細く、枯れ木のような印象を受ける。服は土で汚れているだけでなく着潰してボロ切れに近い。村長でこれなのだから、他の住人は推して知るべしと言う奴だろう。
俺たちはこの人と交渉をすることになった。
老人らに案内され、冬杜と二人で村長の家に向かう。皆には馬車の方で待ってもらう事になっている。皆もレベルを上げてあるのだから、誰かが襲ってきたとしても最低限の時間稼ぎぐらいはできるだろう。もっとも、周囲はマップ検索済みなので、敵などいないことを確認してあるのだが。
案内された村長の家は他と変わらない、小さな家だった。
壁は土壁、所々崩れてから補修された跡が見える。部屋の中に通されても蜘蛛の巣が張っているなど、掃除の行き届いていない様子がすぐに分かる。
思ったよりも事態は切迫していて深刻そうだな。隣の冬杜は思いっきり眉をしかめている。部屋の汚さが気に入らないようだ。
日本と違い土足の文化圏なので床に板が張ってあっても靴はそのまま、勧められてから椅子に座らせてもらう。
そうして交渉を始めようと思っていると、いきなり村長が頭を下げた。
「どうか、どうか食料を分けてもらえないでしょうか!」
テーブルに両手を置き、額をこすり付けるように頭を下げている。
「今はまだいいのです。森で食べられるものを探すことができます。
しかしもうすぐ雪が降るようになります。そうなれば食料を集める事が出来なくなるでしょう。備蓄も何もないので、このままでは子供たちが餓死してしまいます!
私たち年寄りの分など必要ありませんが、子供たちの分だけでも、どうか、どうか、お願いします!!」
村長さんよ、商人の人情に訴えたところで成果が上がるとは思えないぞ?
奴らは基本、利益でしか動かないし。何らかのメリットを提示しない限り、動くと考えるのは甘すぎる。俺たちが若いから、情に訴えるだけで何とかなるとでも思ったか?
商人を名乗った以上、それにそぐわない発言は己の首を絞めるだろう。だから最初は厳しい交渉からスタートすることにした。
「ふむ。こちらの食糧に余裕はありますが、如何ほど必要という事でしょうか? 食料、つまり物資は無限ではありません。「欲しい」とおっしゃられても渡せる量に限りがあります。どれほど欲しいのかも分からない状況で頷くことは出来ません。
いや、欲しいと言われれば用意してみせるのも吝かではありませんが、ご要望にお応えすることは難しい話です。
商人として、物資をお譲りするのに対価も何も無しというのは承服できない話なのですよ。
せめて、そちらが誠意を見せてくれれば話は変わってくるのですが……情に訴えられましてもね。ここで出した損で首を括らなければいけないことにならないとも限りませんし」
弱者救済とは、余裕がある人間の行いでしかない。
現状を顧みれば、俺たちだって弱者である。国に追われる日陰者なのだし。
突き放すような物言いなので、冬杜はこちらを睨んでくるがこれは無視。与えられる立場だからと言って際限なく与えるのはアウトなんだよ。俺の言い方が悪いのも、相手の発言が問題だらけだからだし。ちゃんとした相手にはちゃんとした対応をするつもりだってば。
「この村から差し出せるものであれば何でも持って行ってもらって構いません。ですから、何卒――」
「その前に」
「――お願い、し?」
「状況の説明と、抱えている問題の明確化をお願いしたいんですけど?」
タダで助ける気はないと言った事で、まずは村を勝手に使う許可を得た。相手は「何でもする」と言ったんだし、使ってない家を勝手に貰うとか、村のインフラを整えるとか、自由にしていいって事だろ。うん、言質は得た。
でも、な?
その前に、俺は言ったよな。わりと最初の方に「どれほど欲しいのかも分からない状況で頷くことは出来ません」って。
問題があるなら、「どんな状態だから」「どうして駄目なのか」「どうすればいいのか」をはっきりさせろよと言いたい。漠然と「食料が足りません」じゃなくて、「冬を越すのに必要な食糧がこれだけ足りません」と教えろと言っている。
そのあたりを懇切丁寧に説明し、問題解決の基礎を叩き込む事にした。
村長だけでなく冬杜も「助けない」ではなく「助けるためにちゃんとしろ」という趣旨を理解してくれて、俺に対する圧力は無くなった。
村長の話だと、戦争で若者を連れていかれ、増税で備蓄していた食料を持ち去られ、食料を買うために娘を売るしかなくなり、残った者たちだけでは生きていけないからと馴染みの商人すら村を見捨てる事にしたらしい。
これはつい最近の話ではなく、半年前にはこの状況まで追い込まれてしまったようだ。今年は徴税官すら来なかったと。
俺は村長に「村で使っていない家を全部(!)貰う」「村の設備を俺達の都合のいいように改善する」「村民は俺の指揮下に入ってもらう」、その代わり「村民全員分の食料を用意する」という条件を突き付け、承諾を得る。
ただし村長の立場は据え置きで、俺は村民になるのだが村長より立場が上という謎な立ち位置に収まった。村長としての業務が面倒というか、何をすればいいのかも知らないからな。やりたい放題するだけでないと不味いのだ。その内いなくなるのだし。
交渉が思った以上に都合よくまとまったから、ずいぶん動きやすくなった。外部から見捨てられた村というのも、まるで俺達のために用意されたかのようだ。
じゃあ最初は――下水でも作るか。




