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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
1章 召喚世界のゲーマーズ
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冬杜 静音

 湯船の中で、女子と二人きり。

 しかも、互いに全裸。

 さすがに最強ステであろうと、この状況には対応してくれない。俺の頭は真っ白だ。


「フヒヒ。さすがの四方堂も緊張してるね」


 冬杜さんは、嫌らしい笑いをこちらに向けている、はずだ。もちろん俺は冬杜さんを直視できるはずも無く、顔を(そむ)けているので表情など分からない。


「女の裸を見る事も出来ないんだ」


 そりゃあそうだ。俺にはそっち側の耐性などない。


「人を殺すことは、できたのに」


 冬杜さんの声から、感情が消えた。

 思わず俺は振り向こうとするが、


「ごめん」


 抱き着かれ、その動きを止められる。

 俺はされるがままで、何もできない。


 冬杜さんの声は、か細く弱かった。


「なんつーかさ、アタシら四方堂一人に全部押し付けてるっしょ。きっついことも嫌な事も全部。で、アタシらはなーんにも考えず、四方堂の言う事だけ聞いていればいいって今の状況。全部責任押し付けてるよね、ごめん」


 その言葉は贖罪を求める懺悔。

 何もできない自分への嫌悪を含む、罰を求める意思

 思ってもみなかった言葉に俺は動けない。

 別に、何かしてほしくてしている事じゃない。自分でそうすると決めて、自分が動く。俺がやっているのはたったそれだけのはず。


「四方堂は嫌がるかもしれないけどさ、アタシの事、好きにしていいから。処女じゃないのは知ってると思うけど、それでもアタシに出来そうなのってこれぐらいしか無いし」


 冬杜さんが、身を離す。

 ようやく振り向けた俺が見たのは、目を閉じ涙を流す冬杜さんの姿。

 一糸まとわぬその姿は劣情を誘うものではなく、ただ怒りを覚えた。


「ふざけるなよ?」


 別に、何かしてほしい訳じゃない。

 それでも感謝してくれるなら嬉しいし、好意であれば受け止めたいと思う。

 だけどな?

 罰を与えてほしいからと言われて、エロいことをするわけないだろ。


 苛立ちに身を任せ、俺は冬杜(・・)の鼻をつまむ。

 抱かれようとしていた冬杜は驚き眼を開くが、そんなことは気にせず、俺は言いたいことを言う。


「エロ目的で助けたわけじゃない。俺がそういうのを嫌ってることぐらい覚えているんだろ?」


 あれはそこまで珍しくも無い、ありふれた話。

 2年前、俺は恋人に振られた。

 理由は簡単。恋人の体を求めたからだ。

 それだけで済めばよかったのだが、その元恋人は他の男と付き合い、体を許し、捨てられてしまった。で、俺とよりを戻そうとして言ったセリフが「今度はちゃんと、エッチしてあげるから」だった。

 その台詞にブチ切れた俺は警察の世話にこそならなかったが、傷害事件を引き起こしたのだから停学処分をくらった。


 この一件は平和な学校生活において重大事件扱いだった為にわりと有名で、それが理由で俺は友人などが少ない。学園内で俺は暴力沙汰を起こす不良という扱いなのだ。

 理由も含めて有名だから理解者と言うか付き合いをそこまでいとわない奴もいるにはいる。だが周囲の空気が俺を拒絶しており、そんな雰囲気の中で喋りかけるチャレンジャーはごく少数。夏奈や他のクラスの男子生徒だが、それは片手の指で数えられるだけしかいない。


 そんなわけで、俺の善意が「女の身体目的」扱いされるのを嫌うことぐらいは察していると思っていたわけだが。それをこのような形で利用されると、少々腹が立つ。


「そこの盗み聞きしている連中! セクハラで訴えるぞ!!」


 馬車の方に意識を向ければ、女子が固まってこちらを窺っているのが分かる。『気配察知』の効果で人のいる・いないぐらいは分かるんだよ!

 隠れていても無駄だと分かったのだろう。案の定、気まずそうにした女子が出てくる。顔を背けているのは全裸の俺を直視しないようにするためか、それとも気まずいからか。俺は湯船に体を沈め、怒っているとアピールするように声を荒げる。


「言っておく。俺はお前らをエロ目的で助けたわけじゃないし、今後も身体を要求するとかしないし。くだらねー事で疑ってんじゃねーよ」

「「「ごめんなさい」」」


 女子は全員そろって頭を下げた。

 つまりはこういう事だ。


 女子連中は、俺に身体を要求されるんじゃないかと戦々恐々していたわけだ。

 現状、俺はこいつらの保護者的な立場にある。冬杜が言っていたように、俺が指示を出してやる事を明確にして、今後の方針を打ちだして不安を払っているから何とかなっている。

 逆を言えば、俺が見捨てるだけでこいつらは何をすればいいか分からなくなり、全滅する。たぶん餓死するんじゃないだろうか?


 レベル的なことを言えば、生き残るのはそこまで難しくないと思う。

 ただ、何ができて何ができないのかを正確に把握できる俺がいなくなれば選択肢は減り、無限に使える食料が無くなり、馬一頭まともに御せなくなる。いや、馬は俺の配下扱いなのだし、馬すらいなくなるか。


 そういう現状が分かっていれば俺の言葉に逆らう事はできず、もしも股を開けと言われれば、生き残るために嫌でもそうするしかない。

 俺がそういう事を言う人間かどうかは別にして、そういう事が出来る立場にあるうちはこの不安を払拭することができないのだろう。


 だからこんな茶番をやった。

 冬杜は本人申告の通り処女ではないし、性行為に寛容と言うか忌避感が薄い。ついでに他の女子を守ろうとする気概もあり、本当に手を出されても自分だけで食い止めるつもりだったのか、それとも俺を信用していたのか。なんにせよ、自分から汚れ役を買って出たのだろうな。それが簡単に想像できる。本当に男前な女である。





 せっかくのリラックスタイムが無駄に潰れてしまった。

 長く湯船につかっていたし、そろそろ出ないとのぼせてしまう。そう思って体を起こそうとしたけど。


「なあ、何でまだいるんだ?」

「背中、流してあげるって言ったじゃん」


 冬杜が、なぜかまだいた。

 俺は大きく息を吐き、残念そうな目で相手を見る。冬杜は少したじろいたが、すぐに胸を張って堂々と背中を流すのだと宣言する。

 いや、前を隠せよお前は。



 グダグダといろいろ言いあった結果、結局俺は背中を流してもらう事にした。

 たまに胸が当たっていたけど、たぶんわざとだろうな。

 あー、女子の考えって分からねー。

 こういうの、考えても無駄なんだろうな。

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