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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
1章 召喚世界のゲーマーズ
13/122

旅と風呂

 馬車の旅は苦難の旅だ。


 まず、振動が酷い。

 藁を敷いて、その上に布を被せ。クッションを用意してもかなり尻が痛い。HPが上がった事で痛みに耐性が付いているけど、長い時間、御者をやっていると無視できないほど痛くなる。


 食事の粗末さも不満が溜まる。

 俺は≪料理≫の熟練度がカンストしているが、素材が酷い。手持ちは小麦粉と干し野菜、あとは塩だけ。肉の類を手に入れるなら狩りでもすればいいのかもしれないけど、この周辺に食用に向いた野生動物はいない。イノシシでもいればいいのだけど、小さな鼠みたいな動物とかしか見かけない。せめて魚でもいればいいんだけど、そもそも釣竿など、漁の道具が無い……。というわけで、そもそも腕の振るいようが無かった。

 ポケットにシュークリームやお菓子があるけど、こればかりと言うのも問題だからな。これらの供給を完全に断つことはできないけど、制限しないと病気になってしまうだろう。


 そしてこれが一番深刻かもしれない。

 風呂に、入れない。洗濯ができない。

 つまり、不潔なのだ。

 女性陣は体臭を気にしだして俺には近寄らなくなりつつある。

 どこかで一度、風呂を用意しなくてはいけないだろう。





 あれから5日目。街道を進んでいた俺たちは、川にぶつかった。

 時刻は4時と、野営をするにもちょうどいい時間だったのでここにキャンプを張る事にする。

 まともな明かりが無いキャンプなので、明るいうちから準備をするのは当然の話だ。夕方からでは寝る場所を用意しているうちに日が暮れて何も見えなくなる。スマホなどの灯りでどうにかできる問題ではないのだ。


 野営のために女性陣は料理班と寝所班へと分かれる。が、俺は一言言ってから彼女らとは別行動をする。目的が風呂だったので、女性陣もかなり期待してくれている。

 まずは湯船を作るため、『精霊魔術』で土の精霊を呼びだす。


「魔力500を捧げ、土の精霊に願い奉る。盟約の名のもとにいでよ、ノーム!」


 精霊魔法は他の魔法系スキルとは違い、ファジーさが際立っている。

 他の魔法スキルが魔法陣を構築して決まった効果を発揮するのに対し、精霊魔術は精霊を呼びだしてお願いをする形を取るのだ。

 そのため、依頼できるお願いは「何でもあり」だ。


「出番ですかえ、盟主様」


 魔法陣を構築すると、そこからひげを生やした小人が出てくる。緑の衣に身を包み、茶色の帽子をかぶった彼が土の精霊ノームだ。

 精霊魔術を覚えている俺とノームは盟約を結んでおり、捧げた魔力に見合うお願いであれば力を貸してくれることになっている。なお、HP200の騎士1人を屠るのに必要な魔力は50もあれば十分である。


「ノームよ。水漏れしない、大きな湯船を作りたい。川の近く、ここに用意してくれ」

「お安いご用ですのぅ」


 俺は川に近い場所に、縦横10m、高さ1mの湯船を作ってくれと命ずる。排水などは考えていないが、一晩限りの使用になるから問題ないはずだ。

 ノームの仕事は完璧で、石でできた湯船があっという間に作られた。白い石だけで作ったので見た目は現代の湯船とそん色なく、表面だってツルツルで肌触りがいい。バリなども無いので触って怪我をする事も無いだろう。


「貰った魔力はまだまだありますぞ。他に仕事はありませんかのぅ?」

「いや、これだけの物を作ってくれたんだ、十分だよ。有り難う、助かった」

「ならば良いのですがのぉ。盟主様、また御用の際はお申し付け下され」

「ああ、また頼む」


 用が終わったのでノームを帰還させようとするが、ノームはまだそこに残ったままだった。


「……帰らないのか?」

「貰った魔力が魔力ですからのぅ。消えるまで、まだ数日はありますなぁ。お許しいただけるなら、しばらく盟主様に同行したのですがなぁ」

「……まあ、いいけど」


 どうやら、呼び出した精霊は分け与えた魔力が無くなるまで近くにいるらしい。……仕様が、ここは違うようだ。特に不都合はないので気にしないことにする。


 あとは水を入れて湯を沸かすだけで、そこは通常の魔術で賄えた。水の精霊ウンディーネや火の精霊サラマンダーを呼ぶことも考えたが、そこまでする理由を思いつかなかったのと、複数の精霊を呼びだすことに何か不安を抱いたからだ。この手の勘は従うべきだと思う。

 そうやって風呂の準備を終えると、期待に満ちた目が俺に集中していた。言わずもがな、女性陣である。


「もう。食事の前にお風呂の用意をするなんて。ご飯が冷めちゃうじゃない」

「寝るところの準備は終わりました。お風呂、もう入れるんですよね」

「お風呂は男女別? そ・れ・と・も、混浴?」


 女性陣の喰いつきが半端ない。ようやく入れるお風呂に完全に意識が向いている。

 冬杜さんは挑発をするが、それに乗るほどの若さが俺には無い。17歳だけど。覗きをするだけでも厄介事になるのは目に見えているし、着替えだけポケットから出して早々に退散する。

 当たり前だが、男は俺しかいないのだから覗きイベントも混浴イベントも発生しない。ヘタレと言うことなかれ。長く付き合うのに、礼儀を忘れてはいけないのだから。



「お風呂は命の洗濯ねー」

「いいお湯でしたよー」

「お先に御無礼致しました」

「どう? ほら、湯上り美人は?」


 シャンプーなどは無くとも石鹸はあったので。風呂上がりの女性陣は良い匂いをさせながら機嫌よく戻ってきた。1時間以上の入浴だったため、辺りは薄暗くなっている。

 上気した肌に蕩けた表情。冬の寒さの中でも風呂上りは暑いのだろう、普段より肌の露出が増えている。

 久しぶりのお風呂だったからだろう、日本にいたころと比べれば格段に質の落ちる入浴でも、女性陣は満足してくれたようだ。こういうのは、作った側としては純粋に嬉しい。

 待っている間に食事を済ませた俺は声をかけてくる女性陣に背を向け、入れ替わるように風呂へと向かう。


「残り湯は飲んじゃ駄目よー」

「飲むかっ!」


 後ろから冬杜さんがからかうように声をかけてくるが、これを即座に封殺。俺は変態でも紳士(ヘンタイ)でもない、一般人である。女湯の残り湯なんて、飲みたくもない。

 ただ、こうやって冬杜さんがからかってくることに、もう少し意識を向けるべきだった。なまじ好感度が分かるようになった事もマイナスだった。

 余裕が無かった。つまりはそういう事だろう。



「ふいー」


 湯船に残った湯は、まだ十分な熱を持っている。湯船を大きく作った事と、材質に石を選んだことが良かったようだ。石は意外と保温性が高いからな。


 俺は体を伸ばし、大きく息を吐く。

 屋外に作ったので満天の星空――にはまだ早いが、外で風呂に入るという非日常を楽しんでいる。殺伐とした非日常は御免だが、こういった平穏な非日常なら大歓迎だ。

 難しい事を考えるでもなく、ただリラックスすることだけに意識を向ける。


 そうしてゆったりとした時間に身を任せていると、馬車の方から足音がした。


「ふゆもり、さん?」


 そちらに顔を向ければ、なぜかタオルを体に巻いただけの冬杜さんがいた。突然の事に、俺の頭が真っ白になる。


「背中、流しに来たわよー」

「んなっ!?」

「おお、四方堂の変顔。レアじゃん」


 ニヤニヤと笑いながら近寄ってくる冬杜さん。俺は完全にペースを乱されていた。


 ……あのタオルの下はきっと着衣済みで、こっちをからかっているだけだ!


 高まる心音を抑えようと自己暗示に頼るが、事実の前に俺のささやかな抵抗など無力だった。


「出ないの? じゃあ隣に行くねー」


 冬杜さんがタオルを取り、湯船につかる。タオルの下には美白な肌色があった。

 そう、冬杜さんは下に何も身に着けておらず、全裸だった。


「ほら、仲良くなるには“裸の付き合い”って言うっしょ。ちょっとさ、付き合ってよ」

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