ゲーム・オーバー・ワールドエンド⑤
「うわ。見える景色が変わった」
「だな。つーか、気持ち悪くね?」
「わかる。解像度の高すぎる写真を見る感じか? データ量多すぎで情報に酔いそうだ」
「俺の視界は複数になってるんで、また違う。遠くにモニター100台並べて、それを俯瞰して、情報を把握しようとしてるみたいになってる」
「……想像しにくいな。こっちは魔力が可視化したのか、変な色を視界一杯にぶちまけたようになってるんだけど」
「全員、違う進化を遂げたわけか。笑えねぇ」
「いんや。違うことができる分、都合が良いって思っとけばいいだろ」
「そうだな」
人間を辞めて自称神様になってみた。
あくまで、自称だ。本物の神様がどんなものかも知らないけど、人間を名乗るには困ったステータスってだけだから。
ちなみに、今の俺なら地球を殴って壊せる。
殴った衝撃を真っ直ぐ核の部分にまで届け、そこで打撃を爆発させるだけで何とかなる。
マッハ20で走り続け、ソニックブームでゆっくり削る事も可能だけど。どちらにせよ、人間のやる事じゃない。
人間を辞めて最初に思った事は「頭が痛い。目の前の景色が気持ち悪い」だ。
ゲームのステータスだけでなく、もうちょっと深い所までギフトを作り込み、俺はできる事を増やした。
新ギフト、『0と1の狭間』。
簡単に言ってしまえば、チートツールの持ち込みだ。
世界を一つのプログラムと認識し、その書き換えを行うギフト。書き換えに時間がかかったり少なくないエネルギーを消費するので乱発できないという欠点があるが、時間をかければ何でもできる、正にチートな能力だ。
ただ、そんな能力を使うためには書き換え対象の情報を得る能力が必要だったので、情報解析用の能力も得たわけだが、そのせいで視界がゴチャゴチャしてしまった。何か物を見るだけでその詳細情報を入手するようになり、何を書き換え可能で、どれだけ消耗するか教えられてしまう。
能力に慣れれば落ち着くのだろうが、覚えたての今は混乱するばかりである。
……あ。
この場に居ない、クラスメイトの状態まで見れるみたいだ。全員のHPとMPを最大値で固定しておこう。
熟練度カンストは無しの方向で。熟練度上げ、あれはあれで面白いというか、努力してるっていう感じがするので。
俺だけでなく、三加村や古藤もいきなり上がった能力に混乱している。最初に三加村の動きが少なくなった理由が分かった。立っているだけでも辛い。
これ、悪神の前でやらなくて良かった。“ピンチになったからパワーアップ! あ、パワーアップしたら体が上手く動かせない”なんて事態はノーサンキューだ。ピンチを脱出するためにもっとピンチになってどうする。
この情報過多から最初に脱出したのは、一足先に神様になった三加村だった。
「心友、悪神の情報にアクセスできたぜ」
「お……お!?」
三加村はこの世界からの脱出方法よりも先に、悪神について調べていたようだ。
おお、そうかと言おうとしたが、言われた内容が脳に染み込み、思わず返事を止めてしまった。
「いや、この世界って、ギフトを作った神様の世界だろ? だったら出来るかなーって試したら、出来た」
いや。試したら出来たって。
「……全ギフト、剥奪。能力値を一般人のそれと同じに。不死不滅だけ、残しておくか。あと、年齢を固定してやろう」
「ははは! エグイな、古藤。痛覚倍加を忘れてるぞ」
古藤の方も立ち直ったらしい。そして同じ様な事をしている。
俺も悪神にはムカついていたが、今の台詞を聞いただけで哀れとしか思えなくなった。
俺には二人を止める気など無ければ、優先順位を変える気も無い。俺はまず帰り道を確保し、能力を封印する手段を構築し、最終的に大勝利を得る事が至上の命題なのだ。悪神を倒すのは中ボスを倒すのと同じレベルでしかない。
「あ、記憶を一時的に真っ白にして、自分がなんでこんな目に遭うのかも分からないようにしておいて。徐々に思い出して、罪悪感を刺激するように」
まぁ、リクエストぐらいはするけど。
そこに慈悲は無い。
こうして。
ゲームで言うラスボス相当の悪神は、出会う事無く退場した。
決まり手は三加村の『シナリオ変更』と古藤の『ワールドハック』。どちらも俺の『0と1の世界』に相当する、世界改変系ギフトだ。
チート付きギフトで始まった異世界の戦いは、今回もチートで終わるのであった。何の達成感も得られぬまま。
勝敗を分けたのは、チートの有無。正統派プレイヤーが改造アリのプレイヤーと同じ土俵で戦ったら、普通は勝てない。悪どくともあくまでもルールの範囲内で強くなろうとした奴では、データを弄って強くなった外道に敵う道理など無いのだ。
いや、オンゲで言うなら、迷惑行為をしたプレイヤーにGMが出動したようなものか。容赦してもらえる話ではない。
それにしても、チートって酷い。
バランスが壊れすぎて、どんな戦いもコメディにしかならない。
ここまで酷い扱いを受けたラスボスなんて、世界中のどこにもいないぞ?




